FM三重『ウィークエンドカフェ』2018年3月3日放送

今回は、鳥羽市神島町にある旅館『山海荘』の山本欽久さんがお客様。
鳥羽と伊東将志さんの住んでいる尾鷲って、似ているところがたくさんあるんですよね。
2人の町への想いも似ています。
何だか意気投合の2人。まずは山本さんに神島の紹介からしていただきましょう。

島は愛知県田原市まで15分、鳥羽まで40分

100年以上前、海が荒れすぎて、沖に行った男手が何百人と亡くなったそうなんです。
急に男の人がいなくなったので、よそから来てもらわないとということで、現在の愛知県田原市の方から来てもらったとか。
田原は『小久保』という姓が多かったため、それ以来神島でも小久保さんが多くなったという話もあります。
なので神島の血の濃さは、一度薄まっているみたいですね。
伊良湖岬まで船で15分、つまり、田原市まで15分で行けるんです。

伊東 そう言われるとめっちゃ近いですね。

鳥羽までだと車で40〜50分かかるわけです。
なので本当にもう、神島は愛知県田原市でいいんじゃないかと(笑)。
伊良湖水道はほぼ外洋で日本の3大水道と言われているらしいので、魚の旨さ、タコの旨さといったら・・・。
僕は仕事柄、タコ推しです。
とにかく神島をタコで有名にしようとがんばっています。
身がグッとしまっていて甘いですよね。
漁場が違うと、味も違うらしいです。

伊東 そういうことって、情報としてあまり伝わりにくい部分がありますよね。

そうなんですよ。
お客さんがタコを食べても、その違いがわからないじゃないですか。
僕らでも食べて考えこむくらいなので、それをお客さんに売ってもわからないでしょう。
それだとどうしても値段が安い方を選んじゃいますからね。
どうやって区別するか、線引きするのかが課題ですね。

伊東 でも時代は『本物感』を求めるようになってきていますよね。
消費者も満たされてきているので、コンビニのご飯をやめて・・・みたいな流れができてきているので、これからだと思いますよ。
産地に近いというのは、それだけで強いと思います。
今の話だけでも、口がタコを求めるというか、食べたくなってきちゃいましたよ。

僕もね、一度食べてもらいたい。
それこそ今言われたように、情報が伝わりきれていないのが、最近ひしひしと感じられて。

伊東 あるあるなんですよね。
どこで食べられるの?みたいな。
島まで行けばいいのか、予約した方がいいのか、意外とそういう情報が入ってきていないので、その整理は必要ですよね。

 

師さんたちとの付き合い方

神島って地名、素晴らしいですよね。
こんなに素晴らしい地名をいただいたので、バリバリ出したいんです。
島の人たち・・・漁師さんなどは、あんまり前に出て金を儲けるもんじゃないよ、というところがあります。
そこまでしてお前ら金を儲けたいか、おい、山海荘、みたいな(笑)。

伊東 言われることあるんですか?

その辺をズバッとくるんです。
最近はやっと、いじられるところまで来ました。
変な話、これまでは「また山海荘さんにお客さん入ってるよ」と言われたり。
でも地域が小さいんですよ。
見渡すところに全部家が建っているので、山海荘のお風呂に電気ついてる、部屋に電気ついてる、山海荘満室だね、みたいな。
市場に行ってちょっといい鯛買えば「これが一万円になるんだな」と言われたり。
昔はそういう感じだったんですけど、最近はいじってくれるようになって。
「お、よっちゃん今日も入ってるね、儲かってるね」みたいな。
そうすると僕も返せるんですよ。
「おっちゃん、最近はな『貧乏暇なし』じゃなくて『金持ち暇なし』やで」とか言うと喜んでくれるんです。
うわ〜!!って笑ってくれて。
やっといじられるようになったので、お金を儲けるときは儲けて、それを地元の
学校なり、なんなりへ返していけば。
だいぶ昔に比べると、生活しやすくなりました。

伊東 すぐできるものではないってことですよね。
何年もかかる話ですよね。

 

島由紀夫の『潮騒』の島

神島に滞在するにあたって宿屋は嫌だと、生活している家がいいと言った三島由紀夫が逗留した民家が、まだ残っているんですね。
お世話したおばさん一人で住んでいたんですが、去年の末になって一人だと大変だと、伊勢の息子さんのところに行ってしまったんです。
でも『潮騒』の初版のサラッサラな本も置いてありますし、三島由紀夫が執筆した机もそのまま置いてあるし、これはこのままにするわけにいかないと、ウチがその鍵を預かって、中をお見せできるようにしました。
管理するのも大変です。
先日、うちの母がお客さんに怒られていました。
「こんな宝のような初版本をさらして置いておくとはどういうことだ」と。
私なんで怒られたんやろ、と帰ってきてから言ってましたけど。
なのでその管理的なものをどうしようかと。
棚に収めるにしても棚を買わなきゃならないので、そのお金をどこから引っ張ってくるかとか、今算段中なんです。

伊東 ここに来て、三島由紀夫をリスペクトする若い子が多いですからね。
情報の出し方一つで変わってくると思いますよ。
鳥羽までは来ているけど、神島まで来ない人もたくさんいると思うので。

神島はヴェールに包まれているという人もいます。
どうせなら包んでおこうかなと。
この2〜3日は天気が良いですけど、先週みたいに風が強く吹いたらすぐに欠航しますから。
どうせやったら、そういう島にしちゃえばいいのかなと。

伊東 それくらいのゆったりした旅で来てくれるような人がいいですね。

もう二度と来ないと怒る人もいます。
しかし何が面白いのか、毎年来てくれる人もいます。
「あんたんとここなきゃ始まらんのや」と、夏に1回、秋に1回来てくれる人など・・・そんな人たちで持っているようなものですから。
山海荘としても、情報をどう分けて伝えていくかが大事なんですよね。

 

民のみなさんと観光客がふれあえる町になれば最高

伊東 子どもさんとお話すると言っていましたが、今おいくつなんですか?

今、中学校1年なので、13,4歳。
僕が子供の頃は、みんな「こんなとこ」みたいな育てられ方したので、こんなところ早く出て、街に出て仕事をしたほうがよっぽど楽だし儲かるしと思っていました。
そういう風に育てられていたので、30くらいまでそのままの考えで生きてきました。
もうイヤで仕方なくて、長男なのに、逃げ回っていましたね。
あっちに呼ばれたらこっちに逃げ・・・みたいな。
子どもを連れて神島に来たときに「もしかしてもったいないことをしていたのかも」と思い、帰ろうと決意した。
それもあるので、子どもには洗脳するかのように、ここは素晴らしいところだよと言っています。
寝ているところに「神島最高」とか言って(笑)。
でも、そのくらい言っていかないとと思っています。
住む人が少なくなって、ゲーター祭りも今年からなくなって、寂しくなることが多くなりましたからね。
もちろん、鳥羽や伊勢がいいのはわかっているんです。
大型スーパー、ショッピングモールもあるし、伊勢に行ったらゲームもできるし。
彼は今、そういう心境でしょうけど、でもやっぱりここの良さも刷り込みをしていかないと・・・。

伊東 僕は第三者評価みたいなのが大事かなと思っています。
よそから来た人は、いいところですねと言うじゃないですか。
魚が美味しいとか、景色がいい、人がいい素晴らしいとか・・・。
これがいいなと思うんですよ。
ほめられたいんですよね、田舎の人は。

あ、そうなんですよ、ほめられたいんです。

伊東 それが多ければ多いほど誇りになるというか。
やっぱりお客さんを呼んでくることが大事だし、山本さんはよそから人を呼んでいますから、多分、帰り際にも話しかけられて、「いいところでした、また来ます」のようなやりとりが生まれているでしょうから、出口という点でも大切な役割を担っているかもしれませんね。

僕らもその一心でやっています。
そして僕らの知らないところで、お客さんとおじさんやおばさんが仲良くなってくれたら、それが最高ですね。
「もう、山海荘に泊まらなくても、他に泊まるところできたわ」くらいで全然構いません。
ウチには遠慮しないで、お客さんを取るくらいの勢いで地域の人がやってくれたら、絶対良い町になると思います。
せっかく鳥羽には4つも離島があるので、役割分担したら良いと思います。
たくさんの人数で行きたいときは答志島に行けば良いじゃないですか。
15分や20分で、すっと行けてすっと帰ってこられる。
もうちょっと冒険したい人は神島に来てもらって、もしかしたら帰れないかもという、ドキドキハラハラ感を味わってもらうのも良いかもしれません(笑)。
それから神島のタコ、本当においしいんです。
『とば~が~』の『たこカツバーガー』は山海荘でしか食べられません。
ハンバーガーを求めて島へ来る、潮騒の町を見たくて島を訪れる・・・そんな旅があってもいいですよね。
もっとゆっくり時間を楽しみましょう。