FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年1月14日放送

今回のお客様は、かつてシーカヤックで日本一周したことのある、森田渉さん。
紀北町でシーカヤックステーション『小山ハウス』を運営しています。
去年、新しい小山ハウスがもう一つ、できました。
そこでは何が楽しめるんでしょう?

■自分の変化とお客さんの変化

以前に比べると、自分のスタイルとお客さんのニーズが変わってきましたね。
2年くらい前のお客さんは、大人のグループが中心でした。
特に、カヤックをずっとやっていた人とか。
けれど今は、小学生以下のお子さんを持ったファミリー層が大半です。
それに合わせて、プログラムなどもだんだんと変化させています。

家族連れでは、夏休みに初めて子供に体験させ、親も体験する…というパターンが多いです。
最近の親御さんたちは、「子供たちに何か伝えたい」という気持ちが強くて、だから親も一緒に体験するんですね。

他のカヤック教室だと子供だけで載せたりするけれど、ウチでは絶対にしません。
中学生くらいなら一人でも大丈夫だとは思いますが、小学生以下同士の二人乗りはだめ。
危険だということもありますが、それよりも、親子一緒に乗って欲しいんです。
そのために、親子で参加しやすいようなプログラムを組んでいるわけですし。

普段は、お子さんがお父さんやお母さんと接する機会って、意外に少ないでしょう。
働いていたり、忙しかったり。
だからこそこういう場所では、親子で一緒の体験をして欲しいんですよ。
馬鹿をやってムチャクチャ楽しんでいる、お父さんやお母さんの姿を見ると、子供はやはり笑顔になります!

こういうことが、小山ハウスが変化してきた要因でしょうか。
方向が変わってきて、家族やお子さんが相手になって…スタッフも僕も、やっていて楽しいですね。


■尾鷲の特産品を食べて欲しい!

昨年(2011年)、食事ができる施設をオープンしました。
干物定食の干物は、テーブルのロースターで炙って食べるんですよ。
干物定食って珍しいでしょう?
というのは、尾鷲といえば干物が名物なのに、食べさせるお店が全然なかったんですね。
親子連れのお客さんからもよく、
「干物が美味しいって聞いたんですけど、どこで食べられるんですか?」
と聞かれて。
だから出してみようと思ったんです。

あと、紀伊長島でみなさんが食べたがるものといえば『道の駅まんぼう』さんでも出している『マンボウ』。
でも、いかにも『マンボウ』しているメニューはイヤだったので、『マンボウカレー』としてお出ししています。
お子さんでも食べやすいようにと。
そして、ただ食べるのではなく、親子で食べた時に会話のキッカケにして欲しいですね。
「マンボウどこに入っているのかな?」とか「マンボウってどのくらい大きいの?」とか。
それから目の前が片上池なので、池を見ながら食べることもできます。
夏場はここでもカヤックに乗れるし、ここが海につながっていてることも実感できますよ。
もちろん食材は、そこで捕れた地元の魚の干物にこだわっています。


■白紙のダイバーズノート

シーカヤックで日本一周しているとき、『ダイバーズノート』を持っていました。これは水中でも字を書けるもので、スキューバなどをする際に持つものです。
何故持っていたかというと、最悪の時を想定して…です。
漂流した時は、おそらくいきなりではなく、ジワジワと徐々に弱っていきますよね。
カヤックを教える人のタブーは「なぜ亡くなった」かを伝えないこと。
死ぬのははっきり言って「仕方ない」けれど、それが何故起きたのか…もし判断ミスだった際は、同じミスを起こさないために、克明に書き残しておく必要があるんです。
それから、やはり同じ状況になった時には『遺書』を書くこともできるでしょ。

結局、日本一周した時は、運良く何も起こらなかったので、ダイバーズノートは白紙のままです。
もちろん今は、他のダイバーズノートを使っています。
けれど、その時の気持ちを持ち続けるため、白紙のままのダイバーズノートは残してあります。


■『素』の自分を感じたい、感じて欲しい

日本一周した後は、仲間と、日本中の様々な離島へのカヤックツーリングをしていました。
北海道の無人島では、3日間島から出られず…水もない、食料もない体験をしました。
普通の生活では、水もあれば自販機もある。
けれどそんな状況になったら、雨を飲むんです…飲まないと生きられないから。

離島カヤックのメンバーと、常に言っていたのは「絶対に海で死んだらいかん」。
それをしたら自分が…カヤックとかアウトドアも含めて、単なる馬鹿者になってしまいますから。

でもそういう無人島での経験をすることで、考え方が変わりました。
陸路がなんにもない海で、ポツンと自分だけの存在。
何千年も前から変わっていない環境。
水と空しかない…自分の『素』のままが感じられると言うか。

僕ら仲間は、飲食店などに行くと、パーッとビールを飲んじゃったり贅沢するんだけど、それは逆に『物に溢れていることを実感している』からで、つまり『何もない極限の状態を実感した経験がある』という前提があるから。

今年は、そういった意味でコミュニティを掘り下げたいですね。
ファミリーで来てくれた人が、2~3時間の参加時間のうち、5分でも良いからそんな気持ちを感じられたら。

もののあふれた中で『素』を感じるのは難しいかも…と思うでしょうが、尾鷲ならきっとできます。

昨年から行なっているプログラムなんですが。尾鷲湾には綺麗な『沢』がたくさんあるんです。
海から浜を上がって沢を登ると、美味い水が湧いていて、それを飲んでね。
お昼時だったら、そのお水を使ってご飯を作ったり…。
そんな瞬間にも、感じられることはあると、思うんですよ。


■生きることは自分自身を作ること

特に昨年は震災があったためか、お客さんも原点回帰をしている方が多いです。
僕も、自分自身の『素』に戻ってみる、ということが必要だと思います。
何もないところからどう物を作るか。
『生きていくというのは自分自身を作ること』…そういったことに着目していきたいですね。
例えば人間として当たり前の欲望である『食欲』。
しかしこれも、お腹が空いたからお魚屋さんに買いに行くのではなく、自分で釣って食べるということをすると、『命をいただく』ということを考えるキッカケになりますね。
水でもそうです。『何故ここの水は飲めるのか』。
無人島にいたときは、目の前が水だらけなのに、飲めないわけです。
飲める水がいかに貴重か…。
そういう一つ一つが『生きるということ』に繋がっていくのではないか、と考えています。