第25回「隊長レポート」2012年01月

「はさめず」という醤油をご存知であろうか。
「箸ではさめないけれど、ご飯のおかずになるほど美味しい」という醤油の製品名で、三重(主に北~中部)のご家庭でこよなく愛されている。

実はワタクシ(サルシカ隊長)の実家でも昔からこの醤油を愛用しており、かつて東京に住んでいた頃にも、わざわざ三重から送ってもらっていたほどの大好物。
そこで、今回は国の登録有形文化財に指定されているという「はさめず醤油」の醸造所に突撃取材なのだあ!

はさめず醤油をつくっている「福岡醤油店」は、伊賀の島ヶ原にある。
「島ヶ原温泉やぶっちゃ」の方から島ヶ原駅方面へ。
木津川をこえてすぐを右折してあとはえんえんまっすぐ。
田んぼの中の1本道を突き進むと、大きな看板が左手に見えてくる。





こちらが、「福岡醤油店」。
外にまでふわ~んと、醤油の良い香りが漂ってきている。

ちなみに「福岡醤油店」は明治28年(1895年)創業、今年で117年の超老舗。





店内には、「はさめず醤油」の「こいいろ」「うすいろ」「さしみ」各種の他、お味噌やお酢、調味料なども販売。
スタッフの方々も親切で、和やかな雰囲気である。




こちらが会長の、川向友宏さん。
ニコニコと気さくなおじいちゃん。
福岡醤油店の醸造所は「伊賀まちかど博物館」にも登録されており、会長がその案内人をつとめているのだ。

川向さん「ようこそ~。じゃ、さっそく案内しますわ」

挨拶もそこそこに、いきなり「はさめず醤油蔵」へ。
数日前から今年の醤油の仕込みがはじまったので、その様子を見せてくれるとのこと!
うほほ、ラッキー! ナイスタイミング!





まずはここ「製麹室」で、醤油のモトとなる麹づくり。
蒸した大豆と麹をまぶして麹蓋に載せ、温度35℃~40℃に保った製麹室の中で、熟成。



暖かい空気は上に上る性質があるので、どうしても上にある大豆が早く熟成されてしまう。
なので熟成中は目を離さず、人の手で確かめながら、上の麹蓋と下の麹蓋をこまめに入れ替えるのだそうだ。
3日かけてようやく麹が完成!
3日で作るので、「3日麹」とも呼ばれる。

さあ、ここからが大仕事!





出来上がった麹を一度にあけて、麹を均一に混ぜ合わせる。
一回に作ることのできる量は500キロ。
17人の社員が総出の作業。
この時ばかりは、他の工程場所から人の姿が消えるそうな(笑)





混ぜた麹を笊で運び、塩水の入った木桶へ、どんどん流しこんでいく。
その姿はほとんどバケツリレー。
500キロの麹がなくなるまで、黙々と、そして延々と続く。
大変な作業だ。

3日かけて麹を作り、出来上がった麹を木桶へ…ここまでの手順は4月の終わりまで、ずっと続く!
何たる重労働であるか!





木桶は、創業時に注文して以来、使い続けているもの。
木曽の山すそで作られた杉製。
あ、言い忘れていたが、「はさめず醤油蔵」の中は、むせ返るような醤油の香りで満たされている!
この香りだけで御飯3膳くらい食べられそう(笑)。
その香りの元が、この木桶なのだ。
もう色まで煮染まっちゃっているのだ。

そして醤油蔵の中、全体に、酵母菌が住み着いている。
100年以上ここで醤油を作り続けたあかしである。




こちらが木桶の中。
麹が沈まずに「フタ」となっている状態。
これを木の棒で毎日かき混ぜるわけですが、人の力では穴を開けられないほど分厚くなっているため、さいしょはコンプレッサーで空気を送って穴を開けるのだそう。
なので足から落ちると、下半身が濡れるだけで済みますが、頭から落ちると…そりゃもうスケキヨ的な大変なことに(汗)。
実際、会長も何度か落ちたことがあるそうです。

1年半~2年ほど熟成発酵させたら、いよいよ絞り。
ここで登場するのが、





「キリン式しぼり機」!
かつては日本中の醤油醸造所で使われていたそうだが、今も現役で頑張っているのは、おそらくここ「福岡醤油店」だけだとか。
もろみを布袋に入れて、キリン式しぼり機に設置。
キリンの首の先に吊り下げられた重しで絞ると、下のカメにちょろちょろと出来立て醤油が溜まっていく。





なかなか言葉では説明しにくいので、醸造所に貼られていた説明書を(笑)。
見た目以上に大掛かりな仕掛けなのである。





そしてこちらも40年近く前から使われている、「手動瓶詰め機」(写真右上)。

その後のラベル張りや箱詰めも含め、すべての工程を手作業で行なっている。

三重県内のたくさんのお店で目にする「はさめず醤油」。
そのすべてが人の手で行われていたとは・・・驚きなのだ。

川向さん「ウチは全部、昔ながらの製法で、まっとうに人の手で作っているんです。
ちゃんと丸大豆を使ってね。
丸大豆を使って、キリン式絞り機で絞ることで、まろやかなお醤油ができるんです。
大豆は絞りすぎると油が出ちゃうので、そこまで絞り切らないのがキリン式絞り機の良いところだね」

醤油の製法について語りだすと止まらない会長。
さらにお聞きすると、現在醤油工場などで使われている『絞り器』は、本当に豆がカスカスになるまで絞りきってしまうのだとか。
しかしそうすると醤油に油が含まれてしまい、それを取り去る作業が必要となる。
その手間を省くために、大きな工場では大豆油を取り去った後の『脱脂大豆』を使用しているのだそうだ。

そんな川向会長ですが、「福岡醤油店」の何代目に当たるのであろうか。

川向さん「私は一代目でもあるし、二代目でもあるんです」

は?
明治28年創業の醤油店の、一代目でもあり二代目もあり?
意味がわからんぞ。
ていうか、一代目だとしたらご長寿すぎるでしょ!

川向「ははは…。実は私、ここの番頭だったんですよ」

なんと川向会長は16歳で「福岡醤油店」に入社して働き続け、番頭さんを勤めていたのだとか。
川向会長が、この「福岡醤油店」を継ぐと決まった時、店名を変えることも考えたそう。
しかし、
「お世話になった先代の名を消したくない」
「周りの人たちに助けられて今の自分があり、これからも助けられて生きてゆくんだ」
…との想いから、あえて「福岡醤油店」の名を残したのだという。

そして、その後も経営が順風満帆だったわけではなかったそうだ。
昭和40年、50年代は競争が激しく、売上が思うように伸びず、幾多の会社が醤油を作っている中、川向会長は、「何か武器が欲しい」と考えた。
そこで、「福岡醤油店」だけの売りを作ろうと思いついたのが、

『はさめず』

実はこれは、京都の昔の言葉。
かつて土地が貧しく、新鮮な食材に恵まれなかった京都では、お醤油のことを「はさめず」と呼んでいたそう。
「箸でつかめないおかず」と言う意味で、現在はもう使われていない。
川向会長は、この言葉を発掘し、「福岡醤油店」の醤油に「はさめないけれどおかずになるほど美味しい」という、逆のイメージを植えつけたのだ。





そのネーミングが功を奏し、現在では製造数1日1000本(平均)、社員数17名の、押しも押されぬ醤油製造会社と成長。
現在では、娘さんの夫である啓造さんが社長となり、家族も一丸となって「はさめず醤油」を盛り立てている。

単純に「美味しいから」という理由で買いに行っていたお醤油屋さんに、こんな歴史があるとは。
これからもっと大事に使わねば。

お忙しいところ、ありがとうございました!


■   ■   ■   ■   ■   ■


しかしうまさの秘密を知った以上は、それを味合わなければもったいなさすぎる。
というわけで、福岡醤油店で「はさめず醤油」を使っている美味しいお店を教えていただき、すぐさま突撃!
こういう時のワタクシの行動力はすさまじい(笑)。


伊賀上野市駅にほど近い、「新天地商店街」。
商店街と言いつつ、かなり閑静な雰囲気。
映画館(閉館)もあったり、かなり趣きがあって個人的には大好きだが…本当にこの中に?

ありました。
「うどん処 九菴(きゅうあん)」。
メニューが豊富ながら、どれも美味しいとのこと。





こちらが「九菴」のご主人。
「福岡醤油店」から紹介されてきた旨を説明すると、超ノリノリ。

色々説明しつつ、厨房の中までご案内(笑)。

カレーうどんが定番ながら、季節に合わせて登場する創作系うどんも人気だそう。
「アルカンタラうどん」…まったく想像つかないネーミングで、気になる。





こちらが、カレーうどんとアルカンタラうどんがセットとなった『あわせアルカンタラ』。





「アルカンタラうどん」は、なんとフレッシュトマトが乗った冷やしうどん!
見た目に一瞬ぎょっとしますが、一口すすると、その美味しさにびっくり!
酸味と出汁のバランスが心地良く、いくらでも入っていくのである。

カレーうどんも、うどんに沿わせる出汁の濃さ・粘度ともに良い感じ。
このお出汁に、「はさめず醤油」が使われているのだと思うと、余計に美味しく感じる(笑)。

アルカンタラうどんもそうであるが、他のどのメニューを見ても、野菜が多く使われておりヘルシー。
ちなみに野菜などの食材はすべて地場産だそう。
「地産地消」を心がけたお店なのである。

ごちそうさまでした。
醤油からはじまってバナナで終わる…なんとも不思議な取材でございました。


●九庵
TEL     0595-21-5859
住所    三重県伊賀市上野丸之内23 新天地商店街
営業時間 11:00~15:30
定休日 木曜日