FM三重『ウィークエンドカフェ』2018年5月26日放送

緑が美しい季節、今回お迎えしたのは『山造り研究所』の代表、鬼頭志朗さんです。
鬼頭さんは、いなべ市の山を中心に、山の所有者、山主さんたちと一緒に山の再生に取り組んでいます。
木を育てながら木を切る。
山の中のどの木を残して、どの木を切っていくのか?
豊かな森をつくるためのセオリーを鬼頭さんは山主さんたちに伝えます。

の活動を始めたきっかけ

20年ほど前から仕事で全国に出張に行くと、電車などで行く先々の森の中を通ったりすることがありました。
見ていると、中が非常に暗くて鬱蒼としていて、なおかつ崩れているような森が多かったんです。
通るたびにいつも違和感を感じていました。
ある時、なんでこんなことになるのかなと、ちょっと疑問をいだいたのが最初のきっかけでした。
日本は豊かな森があるはずなのに、なぜそうじゃない状態の森が多いのか、なぜいたるところで山が崩れているのか・・・。
本を読んだり、いろいろな人に会ったり、話を聞いたりいろいろ出かけたりと、調べていく中でわかってきたことが、日本の森は、人が木を植えて森にしたものが多いことと、手入れがされなくなってきたということ。
それらが、私が感じた変な森だったんですね。

 

州大学の島崎元教授のもとで山のことを学んだ

杉やひのき、カラ松など、先人がたくさん植えてきた森があるのに、手入れする人が減ってきたということがわかってきたところで、運命的な出会いがありました。
2000年に、ぶらりと鈴鹿の図書館に行った時に、信州大学の林学の島崎洋路元教授が書かれた『山造り承ります』という本と出会ったんです。
その本を読み進めていくと、僕が今まで疑問の思っていたことの答えが、ズバズバ書いてありました。
書いてある内容が私の腹にストンと落ちたので、せっかくだから、その先生に会おうと思い連絡を取りました。
弟子にしてくれと申し出ましたが、すでにお弟子さんがたくさんいてそれは難しいので、『KOA森林塾』という林業を学べる場所があるから、そこに来なさいと。
2年間、現役で働きながら、月に1〜2貝のペースで休みを取り、長野県の伊那市まで通い、林学や林業の基本、実践的な木の切り方、木の選び方を学びました。

 

ラリーマンをしながら山の手入れ

なぜ人が植えた木があるのに手入れされないで放置されているのかを考えた時に、誰もいなければ自分がやれば良いんじゃないかと思い、山の手入れをはじめました。
16年間、森林ボランティアとして活動してきましたが、その間まだ現役ですので、平日は仕事、土日は山に入って木を切るということを続けてきました。
意外とできるんです。
山の手入れはそんなに一生懸命にしなくても、土日に山に入るだけでどんどん変わっていくことも、自分で体験して実践してわかることなんですね。

そこで山主さんとお話する時に、実はそんなに難しくないし、簡単に楽しく山の仕事をすることも、いろいろ方法があるということを教えました。
これは島崎先生の受け売りなんですが、山造りは楽しく、ぼつぼつとやれば良いんだよ、と。
そんなに難しいことではないんだよということを、山主さんにお話させてもらいながら、一緒に山に入っていただいています。
週に1回、または月に2回とか。
それでもう山の様相が変わってくることで、山主さんにも心境の変化が生まれてきます。
山主さんと一緒に、山主さんに寄り添いながら、私が得てきた技術や知識を、全部お伝えし、山主さんが自分の手で、手入れできるようにしていただければ、私はそれでハッピーです。
いなべの山でも一人ひとり山主さんが増えてくれれば、変化が訪れてくることになるので、まずは一人ずつ広げるということが、今やっている現状です。

 

の駅プロジェクト

従来は、間伐をしても山から出さないでそのまま残していくということがありましたが、私の場合は、切った木は必ずすべて使うことをポリシーとして、山主さんに話しています。
山に木を残さない。
たとえ曲がっていても、間伐した木はすべて大切に使うことを考えています。
その一つの手法として、『木の駅プロジェクト』をいなべ市とともにはじめました。
全国的には2009年から行われているプロジェクトで、山主さんが自分の山の手入れをして、その木を『木の駅』という土場へ持ってくると、地域通貨に交換して、その地域通貨『森券』を地域のお店で買物ができるんです。
山で汗をかいて木を切って運んで、『木の駅』で地域通貨に交換して、その地域通貨で買い物をして晩酌ができると。
『軽トラとチェンソーで晩酌を』をキャッチフレーズに、全国で広がっています。
その『木の駅プロジェクト』の一環として昨年9月にオープンしたのが、藤原町の『いなべ木の駅龍華驛』。
そこにみなさんに木を持ってきてもらい、家具にしたり、遊び道具にしたりする組み立て式の『組手什(くでじゅう)』というものを作り、いろいろな方に紹介しています。

山の手入れをさせてもらい、山の恩恵を受けるということ。
山を守っていくことに携われるということは、非常にありがたいことだと思っています。