FM三重『ウィークエンドカフェ』2018年6月9日放送

古代から神宮の御塩(みしお)づくりが行われている、伊勢市二見町。
そのゆかりの地で自然塩を作っているのが今回のお客様、『岩戸の塩工房』の百木良太さんです。
昔ながらの伝統的な手法にこだわり毎日、塩づくりに励んでいます。

ながらの手法で塩作り

もともと岩戸の塩作りは、うちの母がはじめたものです。
二見町自体では、塩作りは3000年前の神話の時代からという場所です。
そんな神聖な場所で塩作りをさせていただいているので、昔からの作り方にのっとって、なるべく自然の状態で作らせていただいています。
僕は、以前は違う仕事をしていて、塩作り継ぐという気はありませんでした。
が、最初苦労して作りはじめたのも間近で見ていましたし、うちがいろいろ大変なときに、たくさんの人にお世話になりながらはじめたということもあり、その最初の部分というか気持ちが忘れられず・・・。
おそらく『商売』としてはじめたのだったら、僕も魅力を感じなかったと思いますが、一生懸命やりはじめたところから、少しずつ少しずつ広まっていった過程を見てきたので、やはりこれは自分が人生をかけて続けていきたい仕事だなと思いました。

 

々、季節によって味が違う岩戸の塩

今は一年中、同じ成分のお塩が山積みになって売られているのが普通ですが、昔の人が見たら驚かれるでしょうね。
自然相手なので、季節によっても味が変わりますし、細かく言うと毎日同じ状態にはなりません。
その日その日で多少のムラもありますし、それがもう本当に自然のままの特徴ですね。
夏場は一番塩作りがしづらい時期です。
海水を汲む場所は山の近くの神埼海岸で満潮時と決まっています。
海の水と山の水が混じる場所なため、非常に栄養価の高い塩を取れます。
その分、雨などが降ると一気に山水が流れ込んで、塩分濃度が低くなってしまいます。
夏が近くなり、その時期に入ってきているので、生産量が落ちます。
ただ、仕上げとかも多少変わってくるのですが、塩分濃度は自然でしかどうしようもないので、できるだけ効率よく、熱を無駄にしないように、焚き方などを工夫しています。

 

のものをその季節の塩で食べてもらいたい

昔の塩、ミネラル成分がたくさん含まれている塩というのは、同じ日に採れたお塩でも、食べる人によって感じ方が違うんです。
体調もそうですし、朝と夜でも味覚が変わります。
人によって、その時その時で味が変わるのもまた、自然の良さだと思います。
お料理も、その季節の旬の食材と、その季節のお塩を合わせるのが一番良いと思います。
先ほど夏は雨がたくさん降って、僕らは仕事がしにくいと言いましたけど、お塩の成分であったり味のことを考えると、夏は山の水がたくさん入る分、歩留まりが少なくなって、量は減りますが、代わりに栄養価が高くなったりします。
味的にも冬場はキリッとシャープに、夏場はまろやかで旨味も出てきます。

 

養価が高いのが岩戸の塩の特徴

岩戸の塩の特徴は、まず第一に焼き塩であるということですね。
お塩も地域によって、いろいろな仕上げ方がありますが、この地域では神宮さんのために『堅塩』と言って焼き固めたお塩が昔から作られていました。
ウチのは同じく焼き塩なんですが、全体をまんべんなく広げ、サラサラの状態になるまで熱を加え、焼くことによって栄養分を凝縮させ、栄養価をぐんと引き上げているのが特徴ですね。
夏場は40度以上の室温のなかで、薪で日を焚き、丁寧に塩をかき混ぜます。
まんべんなく火が通るように、その日の天気や湿度などを考えながら、良い塩ができるように心を込めて作ります。

自然とお仕事をしていると、僕らがしていることは本当に微々たることで、海水を汲んできて十五時間、火を焚き続けて仕上げるだけ。
時間はかかっていますが、海水自体を自然が作ってくれたものなので、99%以上、すでにできているんですね。
だから20時間とか30時間といっても、自然の循環の中で見たら、本当に短い時間で、雨が降ったり台風が来たり、夏の暑い日があったり・・・その中で自然が栄養を蓄えてくれたものが、海に蓄えられ、それを僕らはいただいているので、僕がやっているのはほんのわずか。
自然と神様のおかげです。

大雨が続いても台風が来ても、これでまた海が荒れて、次の塩作りにつながるというか、一つの過程なんだなと思うと、それを受け入れられるようになりました