FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年2月11日放送

尾鷲市向井の高台に『三重県立熊野古道センター』があります。
この建物は6600本の尾鷲ひのきを使って建てられました。
ここの副センター長として活動されている方が今日のお客様、世古博久さんです。
着任される前までは小学校の先生されていた世古さん。
尾鷲には教え子がいっぱいいるんですよ。

■教師と副センター長…仕事の共通点

教師として38年間勤めて、3年前に定年退職し、この『三重県立熊野古道センター』の副センター長に就任しました。
教師と副センター長…まったく違う職種ですが、共通点があると思っています。
教師は、担任する子供たちを成長させたいと思うし、校長になったら学校の子供たちみんなを高めたいという、強い気持ちがあります。
学力、運動能力、それに何より、人としての心の成長を高めたい思いが強かったですね。
しかしこれは、僕だけでは無理。
保護者の力と、地域の力が必要。
つまり、教師と保護者と地域の3者が一緒になり、一つの目的となって、子どもたちを育ててゆく必要があるんです。
僕は長い教師生活で、それをやってきたつもりでいます。

そして、経営も基本的には同じ。
職員や関係者、もちろん行政に関係団体との協力も大切ですが、忘れちゃいけないのが地域の人。
極端に言えば、一番近い向井地区に住んでいる人に、『三重県立熊野古道センター』センターに対して好意を持ってみていただく、ということが大事なんです。
尾鷲の市民…東紀州の人たち…そして三重県民が、『三重県立熊野古道センター』に対して好意的な気持ちを持ってくれて、
「なかなか良いところだね、よくやっているね」
と言われることが大事。
つまり地域のみなさんや三重県全体の人たちの協力があって、成り立っているんです。

そういう意味では、教師生活とあまり変わらないというか、同じような観点がありますね。


■子供たちに地域の良さを伝えていく

実際、この『三重県立熊野古道センター』を『世界遺産熊野古道』だけに限定してしまうと、お客さんの年齢が高くなってしまいがちですね。
最近では『山ガール』『パワースポット』なども人気が出てきていますが、基本的に年齢の高い人が多いのが事実です。
しかしこの地域にとっても、熊野古道の保全という観点からも、子供たちに地域の良さを伝える必要があると考えています。
これは自分が教師だったからな?…とも思いますが。

うまいこと子どもたちにこの地域の良さ、熊野古道の大切さを渡していないと、切れていってしまう。
ブームが去ったら消えてしまう。
それではいけないのです。
まず大事なのは、自分たちの地域を好きになり、良さを知ること。
そこで僕は、小中学校の生徒が来た時には、熊野古道や世界遺産について教え、この地域の良さをプレゼンテーションしてね、ちょっとした学習会を組んで行なっています。

今年に入ってから『三重県立熊野古道センター』に見学に来たのは既に25団体。
小中幼稚園から、大学も含めてです。
僕は、『熊野古道』というものを、小さな頃に一度、感じておいて欲しいんです。
その時は忘れてしまっても、大人になるにしたがって思い出し、熊野に体験へ来よう…そう思うきっかけになればなと、力を入れてやっているところです。

他の地域の方から、「尾鷲の子供が地域の良さを学習すれば地域に定住するんですか」と質問されることがあるんですが。
うーん…実際、なかなかそうはいかないですね。
社会の状況で、他の地域や都会に働きに出すのは、仕方ありませんから。
ただ僕が願い、大切にしたいと思うのは、よそに行ったとしても、僕らが育ったふるさとを、ずっと心の中で「あそこは良かったな」と残していてもらうこと。

それがあったら、時間がある時に戻ってくるかも知れないし、友達を連れてきてくれるかも知れないし。
ふるさとの意識が絶対必要だと思います。


■心がけている『3つの満足』

僕は、ここに見学に来てくれる人に対して、『3つの満足』をいつも考えています。
『三重県立熊野古道センター』では、企画展・常設展・いろいろなイベントを行なっています。
その質を高めることが大事。
参加していただいた方、見学に来た人に、ある種の満足感を与えることが大切なんです。
「この企画展、来てよかったな」
「このイベントに参加して、良かったわ」
…そう、思っていただくために必要なのが1つめの『質の向上』。
そのために、企画展やイベント、展示品…すべてにおいて『質の向上』をみんなで考えています。

ここに来館されて、センターに入った瞬間、みなさん「わあ、すごく良い匂いがする」と言われるんです。
尾鷲ヒノキの良い香りには良い成分が含まれていて、身体にも美容にも良いんですよ。
アロマなどの香りは流していません。
開館してない5年経つのに、ヒノキの香りはスゴイです。
そして匂いもそうですけど、ここは、建物やロケーションも魅力です。
前に芝生があり尾鷲湾が見え、山が見え、空が見え…その魅力を維持するために必要なのが、2つめの『環境の美化』です。
どんなに綺麗なロケーションでも、庭が荒れていたり館内が汚れていたら、台無しですよね。
美しさを維持するため、日々、環境の美化に努めています。
僕を含めた職員全員、毎朝、1時間かけて掃除しているんですよ。

そして一番大切なのが、3つめ『来館者とのコミュニケーション』です。
見学している方にちょっと言葉をおかけしたり、展示品を観ている方がいたら、少し説明するなど。
その「ちょっと」が来ていただい方の大きな満足感につながると思うんです。
僕たちもそうでしょう。
すごく良い景色を見た、すごく良い旅館に泊まった…それでもなおかつ、旅館の人との会話が、ものすごく印象に残ることがありますよね。
そしてそれが、旅の決定的な場面になることもあるでしょう?

僕ら職員は、それぞれのポジションでそれぞれの努力をしています。
満足感を得たお客さんが、帰ってから、
「こんな企画やっていたよ」
「展示品の説明をしてくれたよ」
と近所の人や友だちに言ってくれたら、それが口コミで人の間を巡って、聞いた方が、「よし行ってみよう!」と思ったり、また、リピーターさんになってくれたりね…。
実はそれを狙っているんです(笑)


■年間10万人の来場者をキープ

『三重県立熊野古道センター』がオープンしてから5年…僕が入ってから3年…あっという間なようでしかし、かなり長い道のりでした。
その都度その都度、苦労をしながらここまで来ましたからね。
大切なのは一過性のブームではなく、細くても良いから、ずーっと、長く継続していくこと。
オープン初年度は、もの珍しさもあったようで、来場者は12万人でした。
しかし、その翌年はも9万人台と、10万人を切ってしまったんですね。
けれどその翌年からは2年間、10万人をキープできました。
そして去年…東日本大震災や紀伊半島の豪雨の影響もありましたが、それも何とか乗り越えて、おそらく10万人は行くと思います。
極端に20万人になったり、30万人になったりは望んでいません。
ただ、一定の数字で、長くやっていけたらなあ、と考えています。
もちろん、打ち上げ花火のような一過性のイベントで良ければ、いくらでも考えられるし、作れます。
でも、それじゃあいけないんです。
こつこつと、コンスタントに知名度を高めていく…これが一番大切なんですね。