第30回「サルシカ隊長レポート」2012年3月

関宿で飲んで泊まるシリーズもついに完結である。
夜の帳が落ちた関宿へ酒を飲みにくり出すのだ。


「それでは、いってまいります!!」

サルシカ隊長のワタクシと「村の記憶」の写真師マツバラはゲンキよく、まるで遊びに出かける小学生のように旅人宿の石垣屋をあとにした(笑)。
今日は朝から関宿周辺を歩き回り、山にまで登り、足はクタクタ、喉はカラカラである。
もう飲んじゃうのだ。

今のうちに言っておくが、このまま読み進めるとたぶん頭にくる。腹が立つ。
「貴様~、仕事とか取材とか言いつつ楽しみよって~」とワタクシに言いたくなるはずだ。
だから最初に「ごめん!」と言っておこう。
そもそも飲み屋を取材するからと言って実際に飲まなくてもいいのだ。
わかっているのだ。
でも我慢できないから自腹で飲んじゃって、それをマツバラに撮られた・・・というのが、今回の取材の偽らざる状況である。
だから、許してほしいのだ。
で、ぜひみなさんも関宿で呑んで泊まってもらいたいのだ。

まずワレワレは足を運んだのは、石垣屋さんから歩いて5分ぐらいのところにあるナガオ薬局さん。
なんで酒を呑むのに薬局にいくんじゃい、メチルアルコールでも飲むんかい、というツッコミが聞こえてきそうだが、まあまあ落ち着いて。

こちらはすでに薬局としては営業しておらず、中に入ると昭和の懐かしい品々がずらりと並んでいる。
現在こちらのオーナーは名古屋在住。
前オーナーから引き継いだ際、徹底的に掃除と手入れをして、骨董品の展示販売とカフェの店として復活させたのである。
コーヒーだけじゃなくケーキなどのデザートもある。
しかし骨董品はどちらかというと展示用で販売には力が入っていない様子で、ほとんどのモノに値札はなく、後ほど紹介する松永さんに値段を聞いても、「わかりません(笑)」と答えるだけであった。

こちらの家の築年数はおよそ200年以上。
そんじょそこらの古民家とは歴史も風格も違う。
屋根が高く重厚感がある。
雰囲気のある居間、和室、そして2階でコーヒーをいただくことができる。

しかし、今ワレワレが求めている飲み物はビールである。
企画的にもここでレアチーズケーキをいただきながらコーヒーを傾けてる場合ではないのだ。

では一体このナガオ薬局さんに何をしにきたのか?
フフフフ。
実は昨年末、このナガオ薬局さんの奥というか裏手に「喫茶バー」がオープンしたのだ。
そこが狙いであったのだ。

ナガオ薬局さんとそのバーは同じ敷地内にあるのだが、せっかくなので一度外に出てぐるりと回って入り直すことに(笑)。

「どこだどこだ?」
裏手にくると、ひっそりとそのバーの入口はあった。
尾花座(おはなざ)。
ナガオ薬局の蔵を改装してオープンしたバーである。

正直、入口はわかりにくいし、決して入りやすいとは言えない。
実際敷居は高い。
比喩じゃなくて本当に高いのだ(笑)。

が、もし関宿で幸せな夜のひと時を過ごしたければ、その不安を乗り切って蔵の扉を開けよう。
そこにはこんなに落ち着いた空間が広がっている。

そもそも夜の関宿は静かである。
行き交う車も人もほとんどない。

が、この蔵の中に入ると、ヘッドフォンをしたかのように真空の静寂が一瞬訪れる。

「いらっしゃいませ」

カウンターの中からこの店の責任者である松永さんが微妙な笑顔で出迎えてくれる。
先ほどナガオ薬局で別れたばかりなのだ(笑)。

尾花座には、なんと沖縄のオリオンビールの生がある。
たぶん三重では珍しいはずだ。
このナガオ薬局のオーナーは名古屋で沖縄料理のお店をしており、その関係でここにもオリオンをおいているという。
いいではないかいいではないか。

待ちに待ったこの一口。
うまい!!
オリオンビールは若干味が薄めだけれど、さっぱりとクセがなく飲みやすい。
まさに南国のビールだ。
しかも生なので、ますます飲みやすい。

これからはしご酒をしていくので、まずこちらでは軽めに。
軽いつまみをと頼むと、ぎょうざの皮でチーズを包んであげてくれた。
しみじみうまい。

松永さんはオーナーに頼まれ、名古屋からここへやってきた。

「誰でも気楽に入ってきて楽しんでもらえる店を目指してるわけじゃないんです。
 やっぱりこういう空間や時間を楽しんで貰える人じゃないと・・・」

松永さんは物静かだが、非常にこだわりのある人だ。
趣味は変な楽器。
鼻笛、テルミン、マトリョーシカの形をしたテルミンみたいなの、そしてケロミン・・・鼻笛以外はなんだかよくわからんのばかりだ。

尾花座ではそんな変な楽器や人たちが集まり、しょっちゅうライブも行われているらしい。
なんとも怪しい関宿の夜だ。

ぜひ今度、オリオンビールの生を片手にライブを聞いて体を揺らしてみたい。

尾花座
三重県亀山市関町中町420-1
電話 0595-96-0045
http://navit.biz/page/ayaha/
http://obanaza.blog.fc2.com/

ほろ酔いで関宿の夜へと出た。
まだ7時ぐらいだと言うのに、まったく人影がない。
深夜みたいだ。

風が止み、冷たい空気がまるで沈殿するかのようにどんどん寒くなってくる。
今晩泊まる石垣屋さんを越え、次の店へと向かった。

続いてやってきたのは、和洋レストラン「山石」(さんせき)。
ここの建物の1部は180年前のもの。
もともとは江戸時代から続いた料亭だったという。

それを買い取り、和洋レストランを開いたのが、現在のご主人だ。

熱燗をつけながら、こんな話をしてくれた。

「私は一回は街に出てね、いろいろと食べる仕事をして関宿に戻ってきたんですよ。
 そうしたら、昔憧れの料亭だったここが売りに出されていてね、思わず買っちゃったんだよなあ」

思わず、ですか・・・?

「それまでこの関宿に酒を飲ます店なんかなかったら、もうまわり反対されてねぇ。
 でもなんとか20数年続けてきて・・・他にも店出せるようになってね」

雪降る夜。
お客はワレワレしかいなかった。
しかし、関宿のみなさんが呑みにいくといえば、まずは「山石」と口を揃える。
ここは関宿ののんべえたちの憩いの場、唯一の楽園的存在なのだ。

奥さんが漬けたという漬物と自慢のゴーヤチャンプルーで熱燗をいただく。
冷えた体に染みる。

たぶんこのお店では、関宿のいろんなドラマが繰り広げられてのであろうなあ。
ま、でもそんな話を聞くのは野暮だし、お父さんも話してくれるわけがない。

そうこうしていると、お父さんは革ジャンを着てマフラーを巻きはじめた。
関ロッジの手前・・・バイクで5分ぐらいのところにカラオケ居酒屋も経営しているのだが、そこにご主人みずから出前をするという。

「商売はなかなか大変なんさ、ゆっくりしてって」と言いつつ飛び出していった。

で、ワレワレも河岸を変える。
山石のすぐお隣にある「居酒屋くらぞう」。

ここも蔵を改装してつくられたお店だが、実は山石とつながっている。
実は同じ経営なのだ。
お会計もいっしょでOKだ。

でも気分を変えるために一度外へ出て、また入り直した。
なんか今回はこんなことばかりしてる(笑)。

ここは完全に飲む店だが、なにぶん店がつながっているので山石から食事の注文をすることもできる。
隣にいたおいちゃんが注文したら、山石にいたお母さんが「はい、おまたせ~」とやってきた(笑)。
うーむ、これをはしご酒といっていいのであろうか。
ただテーブルを変えただけではないか(笑)。

和洋レストラン 山石
三重県亀山市関町中町521
0595-96-0339
http://www.sanseki.info/

熱燗と焼酎をずいぶん呑んで、フラリフラリと夜の関宿を歩いた。
火照った頬に冷たい空気が心地よい。
午後11になろうとしていた。
石垣屋さんの門限である。

が、宿の扉をガラリと開けると、賑やかな笑い声が聞こえてきた。
石垣屋の堤さんと旅人のみなさんが宴もたけなわで盛り上がっていた。
ワタクシと写真師もこたつに入れてもらい、そして旅人の残していった酒を飲んだ。

夜更けまでみんなで呑み、笑い、そしてワレワレが持ってきた鼻笛をホーホーと吹いた。

関宿はかつての宿場町である。
昔の旅人は、宿場町から宿場町へと渡り歩き、旅を続けたのだ。
そして旅の宿で旅人と旅人は出会い、語らい、ときに酒を呑んだのだ。

ワレワレは酔いつぶれるように布団に入った。
そう、こうしてワレワレは関宿の本当の旅人になったのだ・・・・。

【関宿シリーズ完結】

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