FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年3月3日放送

今回のお客様は、大紀町錦にあるヒノキ工房『ksファクトリー』の越仮裕規(コシカリ ヒロノリ)さん。
30歳のときに生まれ育った故郷に帰り、福祉施設の職員となり木工製品の制作指導を担当していましたが、35歳のときに一念発起して始めた工房は、木の香りでいっぱい!
ヒノキや杉の間伐材を使った、子どもたちの成長を刻む『記念樹』という名の身長計や、楽器のカホンを作っています。
フシがあっても全部使える作品づくり…本当に木を愛しているんですね。

■尾鷲ヒノキを活かす商品を作りたい!

祖父が山の仕事をしていて、父も僕が2、3歳になるまでは、山の仕事をしていたらしいです。
父がやめた後は、僕が祖父の手伝いをずっとしていて…アルバイトみたいな感じで。
もともと木は好きで、子どもの頃から親父の道具を勝手に持ちだして、いろんな物を作っていました。
ただ、木に携わる仕事に就くとかは、サラリーマンをしていた時には、考えていなかったですね。
好きだけど厳しい業界ですし、やっぱり。
だけど、道の駅ができたりして卸す先ができたのとか、いろいろなタイミングが合わさって、工房を始められたと思います。

故郷に帰って来てあらためて驚いたのは、本当にまわりが木だらけなこと。
なのにまったく、木が使われていないということ。
尾鷲ヒノキや杉が使われているのは、家とか柱ばかりで、まったく生活用品に生かされていなかったんですね。
せいぜいお風呂用品くらいでしょ。
しかも尾鷲以外の土地だったら、お風呂用品もプラスチックですよね。

「なんでこんなにあって、安いのに、使われないのやろ」という疑問が湧き上がりました。

で、施設に勤めていたときは、障がい者の方と小物を作ってね。
それをお店に持って行くと、お客さんから「やっぱりヒノキはいいねえ」とを評価してもらえる。
当時はカントリー雑貨がブームとなっていた時代でね、
「ひょっとして食べていけるかも」って(笑)

スタートはまな板だったかな?
ハートの取っ手で(笑)全然僕らしくない。
はじめた当初は、家内が主体でカントリー雑貨がメインだったので、自分は「木工が出来れば良い」くらいの気持ち。
それにストラップや小物などの雑貨を購入するのは女性が多いので、商品には可愛らしさが重要だったんです。

それでも雑貨屋さんとして商品を置くようになってから棚を作ったり、その流れで大物の身長計を作るようになったんんですよ。


■カホンとの出逢いと『楽木プロジェクト』

カホンという楽器は、最近イベントなどで見るようになりましたが、もともとペルーが発祥だと言われている民族楽器。
カホンとの出逢いは、あるミュージシャンとの出逢いがきっかけなんです。

それはミュージシャンのRAMOさん。
障がいを持つ息子さんと一緒にライブ活動をしていて、その一環で、養護学校でカホン作りを始めたんですね。
その記事を新聞で読んで、RAMOさんを訪ねて行ったんです。
尾鷲ヒノキでサンプルを作って。
そうしたら気に入ってもらえて、それから一緒に活動させてもらっているんです。

最初のはあくまでもサンプルだったので、試作の繰り返し。
RAMOさんがギターのメーカーに持ち込んで、いろいろ検証してもらって。
2年かかってようやく完成させる事ができました(笑)
中には『スナッピー』という響き線が入っています。
スネアドラムの下に張っている素材ですね。
レバーで音の調節ができるんですよ。

尾鷲ヒノキで作ったカホンは、叩くと音が外に出るので、香りも外に出るんです。
ほら、良い香りでしょ。

もともと自分がギターを弾いていることもあって、楽器は大好きでした。
なので、このカホン作りをきっかけに、地元の木材関係者やミュージシャンと『楽木プロジェクト』を立ち上げました。
「楽しむ木」と書いて『楽木』。
この活動は、地域ぐるみで協力しあい、木を楽しむことがコンセプトです。

この活動を機に、たくさんの人とのご縁が広がりました。
最近ではプロミュージシャンの西井睦さんも参加し、『楽木プロジェクト』の強力なサポータとして、またカホンの監修をして下さっています。

こういったプロジェクトにした理由の一つは、『尾鷲ヒノキ製のカホン』に付加価値を付けたかったというのもあります。
付加価値を付け、少しでも高く売れれば、一次産業にも反映できるかなと。


■国内の楽器は国産の木を使おう!

僕は今、木を通じて子供たちに環境問題を教える『木育』というのを行なっていて、イベントや幼稚園や学校に木の楽器を持って行ったりします。
今後も、イベントなど子供達が尾鷲ひのきの楽器に触れる機会をつくっていきたいと思っています。

実際、展示すると子供たちはすぐに叩き始めるんですよ。
木の楽器というのは、何とも言えない、こう…人を引き付ける力があるんですね。

最近ではタヒチで使われている『トエレ』という楽器を作ってくれないか、というオファーも来たりしていて、国内の楽器じゃない楽器を作っています。
不思議ですよね。
でもやはり、海外の楽器でも国内で使うのなら、国内の木を使ったほうが馴染むんじゃないかな、と思います。
家は国産の木で作っているのに、楽器は外材っておかしいですよね。
ヒノキは高級素材と敬遠されがちですが、高いのは高いけれど、安いのは極端に安いんですよ。
これを活用することで、木材の価格の底上げにもつながってほしいですね。

身の回りにヒノキや杉があふれて、そういう生活が日本中に広がれば、山が綺麗になり、海も綺麗になる…その自然の循環は、作れるはずだと思っています。
でも「山はあかん、木は安い」と言っていたら、形になる前に終わってしまう。
僕ができるのは木工品作りだけど、少しでも貢献できたらな、と思っています。

そして『楽木プロジェクト』のような地域ぐるみでのカホンや楽器作りを、色々な地域でやってくれたら、林業の活性化に少しでも役立つのでは、と。

いつか、たくさんの地域で作ったカホンや楽器とみんなが集まって、演奏会ができたらいいですね。