FM三重『ウィークエンドカフェ』2018年12月22日

年の瀬も押し迫り忙しい時期です。
そんな時こそゆっくりとお風呂で体を温めたい。
今日のお客様は伊賀市にある銭湯『池澤湯』の三代目、池澤良武さんです。
関東と関西の銭湯では違うところがいくつかあります。
その1つが湯船の位置。
浴室の中央にあるのが関西の銭湯のスタイルです。

父がレンガ職人で風呂屋を引き継ぎ、父が店を大きくした

祖父がレンガ職人で風呂釜を積むのが得意だったんです。
アーチを組むのが得意で、お風呂を作ったのですが、そこの人がやめなきゃならなくなって。
あとを継いでくれということで、そこのお風呂を借りてしばらくお風呂屋さんをして大儲けをして、今の場所に新しく風呂屋を作ったのが、うちのじいさん。
それを大きくしたのが、うちの親父です。
そしてそれを軟着陸して、やめてしまおうというのが私かもしれないです。
お風呂屋さんは今やもう、生きた化石みたいなものなので、いずれはなくなってしまう業種ですよね。
でもいきなり倒れたとかやめたとか言うと、近所の常連さんに迷惑をかけるので、『軟着陸』を頭の中に入れながら、かつしばらく続けながら、楽しくやりたいというのが、今の心境です。
私が子どもの頃には、伊賀市内にお風呂屋さんが22軒ありましたが、今は2軒だけ。
2軒が1軒になってしまうと、全くなくなるに加速がついてしまいます。
隣の町に行くと必ず違うお風呂屋さんがあって、よくお風呂巡りをしました。
私の友だちは22軒すべて入ったそうですが、私は半分ほど。
「風呂屋の息子は風呂屋に来るな」と、番台のおじさんに怒られたりしたからです。

 

澤湯は、神戸型のスタイルなのに絵が富士山の関東スタイル

うちのお風呂は関西の中でも『神戸型』と呼ばれる浴槽です。
お風呂の周りに座るところがあり、お風呂が浴室の真ん中にあるのが神戸型らしいですね。
もう1軒は関西のお風呂屋さんによくある、入母屋造りっぽい面影が残っている、昭和初期の建物かな。
関東風のお風呂屋さんの特徴は、お風呂が奥にあり、壁にくっついているんです。
そして多くが壁に富士山の絵が描いてあるのが関東風。
うちは神戸型であるにもかかわらず、富士山が描かれています。
それもペンキ絵と呼ばれるもので、看板職人さんが手で描いたものなんです。
現在、日本に3人、風呂絵のペンキ絵師さんがいるのですが、地元の看板屋さんに描いていただきました。
なので、非常に味がありますね。
今は富士山の絵ですが、天橋立であったり鳥羽の相差の灯台があるところを描いていたり・・・。
それも親父が描いたりうちの母が手伝いしていたりとか。
富士山でないとダメというわけではなく、青っぽくて海や空が映っていたらいいんじゃないですかね。
5年に1回は変えないと、カビが生えてきたり下地が剥がれてくるので描きかえるようにしています。
今はお客さんの入りが少ないので、延ばしていますが・・・。

 

湯は42度が健康にいい温度! 1人暮らしの人は家に風呂があっても来る

常連さんは来る時間が決まっていますし、座る位置も決まっています。
ですからその時間にたまたま観光で来られた方が座っていると、「あ、あそこは私の席やのに」みたいなことを言うおばさんがいるんですよ。
でも、それは間違っているよと。
うちはお客さん来てくれたらいいんだから、ちょっと後にしてねとお願いします。
そういうお願いをできるのが常連さんなんですよね。
今は自宅でお風呂を沸かしますが、掃除もしないといけないし、燃料代もけっこう高いじゃないですか。
銭湯に来て温まるのもいいもんですよ。
銭湯の良いところは洗い場が暖かい・・・壁が暖かいから寒くないんですよね。
お風呂の温度は42度を中心としています。
その温度が一番湯冷めしにくいんです。
ですから戦闘に来てお風呂に入って、温まってお帰りいただいて、風呂屋が休みの日には自宅で沸かして入ってもらう・・・そういうライフスタイルにしてもらえるとありがたいですねえ。
レトロはレトロなんですが、お風呂を楽しむことと健康のために入りに来ている人が多いんじゃないでしょうか。

 

者フェスタの授乳所をずっと借りているのがきっかけでうどん屋を始めることに

実は私、お風呂屋さんのほかにうどん屋を経営しています。
お店の名前は『うどん屋池澤湯』
なぜうどん屋をはじめたのかと言うと、いろいろ理由がありまして。
伊賀市では毎年『忍者フェスタ』を開催していて、若いお母さんが小さなお子さんを連れて来られます。
しかし授乳所が1ヶ所しかありませんでした。
たまたまこの場所が空いていたので、1ヶ月間だけ借りて授乳所を無料で提供しようとはじめました。
そのうち、長年続けてほしいという話になったのですが、そうすると家賃は誰が払うのかとなり、「あんたうどんが好きだから、うどん屋をして稼ぎなさいよ」となり、そのまま始めました。
『霧隠れうどん』というのが『うどん屋池澤湯』の名物なんですが、お風呂で使っている、『立岡牛乳』という100%伊賀で搾乳された牛乳を、伊賀で充填した牛乳を使っています。
その牛乳と出汁に甲賀産の黒米を練り込んだ黒いうどんを入れました。
伊賀は霧が多いので、霧の中から黒い忍者が出てくるというイメージで『霧隠れうどん』。
講談などでは伊賀と甲賀は仲が悪いというイメージがありますが、実際は姻戚関係で情報もツウツウでした。
なんとか形づくられたイメージを崩し、伊賀と甲賀の仲が良いということを知ってもらいたいと思っています。
うどん屋の中は、甲冑コーナーと忍者コーナー、2つに分かれています。
甲冑コーナーは伊賀市にいた甲冑師が作った現代の甲冑を試着することができます。
忍者コーナーは昔の忍者の本物の道具や回転扉『どんでん返し』、江戸末期の本物の扉を付けてもらって、お帰りいただくときはその扉から出てもらうと。
うどんを食べるだけではなく、最後までインパクトを与え続けるという、頭の中に情報を刷り込むという忍術を使っております(笑)。

格好良く言うと『伊賀愛』に満ちているおっさんです、わたし。