FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年3月17・24日放送

今回はオーナーの洋子さんとアシスタントの伊東将志さんが、大紀町錦へお邪魔しています。
以前ウィークエンドカフェでご紹介した西村元美さんから、「今度は是非、錦へ来てください」とお誘いを受け、西村さんが代表を務めるお店『汐の食卓』へ。
そこで、西村昌紘さん(大紀町漁業活性化推進協議会委員・錦ぶりまつり実行委員長)、谷口兄さん(大紀町漁業活性化推進協議会会長、三重外湾漁協紀州北支所理事)、西村宗伯さん(大紀町漁業活性化推進協議会委員・三重県海水養魚協議会会長)にお話をうかがいました。

錦で揚がった魚を『汐の食卓』のみなさんがおいしく調理。
新鮮ぷりぷりのお刺身や煮つけ、お寿司などまさにブリ三昧。

錦の鰤をいただきながらの、漁師さんたちとの会話は、にぎやかで楽しくて…。
錦ってどんな町ですか?

■『錦』とはどんな地域?

人口2500人ほどの、小さな地域です。
大紀町で唯一海に面しているため、漁業関係者が多く150名ほどが正組合員として実働しています。
養殖業も盛んで、錦の水産会社ではヒラメやブリなどの養殖を行なっています。
その規模はなんと県下一なんです!

漁業以外でも錦は特色のある地域で、県下一の『防災の街』です。
地震や災害に備えるよう、町が一生懸命推し進めているだけあって、山に何箇所も避難場所が設けられています。
他には、美人の町としても有名です!
綺麗な人が多いのが自慢なのに、お見せできないのがもったいないです(笑)

また、この地域には、『錦おんなに子は男』という言葉があります。
『子は男』というのは、『子どもは男の子が良い』という意味。
漁師の町なので、跡継ぎとなる男子は、とても大事にされたんですね。
数十年前までは、『ひな祭り』も女性は祝わず、男の人だけが祝っていたそうです。
なのでもちろん、長男の初節句はとても豪華。
幟をたてて、お祝いのごちそうやお刺身を近所に配ったそうです。

今はもちろん、女の子も『ひな祭り』のお祝いをしますよ。
ただやはり、それだけこの地域全体にとって、『漁』が重要だったんですね。


■『ブリ養殖』といえば錦!

錦では、昭和30年代からブリ養殖を行って来ました。
かつては三重県下の養殖業はほとんどブリだったんですが、今でも行なっているのは、ほぼ錦だけ。
現在、三重県産の養殖ブリの90%以上が錦産なんですよ。
『錦といえばブリの町』というのイメージがまだあるので、ブリ養殖業者さんも残っているのではないでしょうか。
養殖も天然も、少しでも単価が上がるよう、同じように販売していきたいですね。

錦に来てもらって、坂を降りるときの景色を見ればわかると思いますが、ここは外海に近いので、海の色が違うんですよ。綺麗でしょう。
錦は天然の漁港なんです。

外洋に近い海での養殖は、ブリの味が良いのが特長ですが、台風の影響など、リスクが高いのも確かです。
けれど、父親の世代から何十年と培ってきた養殖の技術を、私たちの世代で途切れさせるわけには行きません。
次世代の後継者育成や募集も、大紀町漁業活性化協議会で考えているところです。

とはいえ、若い人で漁業をしたいという声が少ないのが正直なところ。
逆に外から来る人が、異文化として新しい目で見てくれて、ここ錦の素晴らしさや、働く環境の良さに気づいてもらえたら…と、願っています。

錦はこの数十年、『陸の孤島』で、閉鎖的な土地だったんですよ。
ただ、この数年で道が整備されたこともあり、少しずつ開けてきました。


■山間部を走る『魚々錦(とときん)号』!

私たち漁師が『まき網漁』で獲ってきたアジやイワシやサバなどは、日によって変動はあるものの、だいたい浜値でキロ単価100円とか50円で取引されるんです。
しかしスーパーなどでは、その単価に関係なく、サバが1本300円とかで売られているんです!
スーパーの方も、仕入れた分の金額を全部回収するためには仕方ないと思いますが、それにしても浜値との差が大きすぎます。
それから最近は、輸入物や解凍モノなどで、売っているものの質が落ちている感が否めません。
これでは、魚離れが進んでしまうのも当たり前です。

そこで、鮮度の良い魚の提供と、食べ方を直接消費者に知ってもらうために、三重外湾漁協紀州北支所錦事業所で、移動販売車『魚々錦(とときん)号』を走らせています。
採算に合わなくて良いので広げたい…という思いが少しずつ伝わり、徐々に口コミで広がっている状態です。
山間部の人にも、是非ともおいしい魚を食べて欲しいです。

山間部のおばちゃんに、こちらの郷土料理を紹介すると、とても喜んでもらえるんですよ。
「こんな食べ方があるんか」と。
そう言ってもらえると、これをずっと続けていきたいな、と強く思いますね。

現在は、月曜日に各地区を回り、木曜日の午前中は七保地区へ。
今年は錦で、週の一時間だけ、店をしようと進めているところです。


■ブリのおいしい食べ方と、錦の伝統文化

ブリの一番おいしい食べ方といったら、もちろんお刺身です!
おいしい刺身には2種類あります。

●揚がったばかりの新鮮でゴリゴリのを薄く切って食べる
●翌日の、身が柔らかくなったのを、厚く切って食べる

漁師的には、一日置いて、身がモチっとしたのが味があっておいしいと思いますよ。
肉でも魚でも、一日寝かせたほうがおいしいでしょう。

それから刺身の後の、ブリしゃぶもオススメですよ!
火が通ると身が割れてしまうので、本当に半生状態で、大根おろしに付けて食べるのが最高です。

そもそも錦の家庭では、ブリを切り身とかではなく、一本丸々を料理します。
刺身、あら煮…骨や皮も捨てずに、焼いたりして最後まであますことはありません。

もちろん内蔵も食べます。
ブリのホルモンはおいしいですよ!
砂糖醤油に漬けて焼いたり、煮付けにしたり…。

ブリは大敷(大型定置網)という漁法を取っているんですが、昔は『ブリとり』と言って、一年に一日だけ青年団のメンバーが船を出し、その日に取れたブリは青年団でもらうことができるという、行事がありました。
その時は陸で火を起こして、鉄板で焼いて、酒を冷やで飲んで…。
見てくれは悪いですが、とても美味しい料理です!
しかし今は、若い組合員が減ってしまったので、行わなくなってしまいました。
寂しいですね。
答志島など他の漁協の活気の良さを見ると、錦もこれから活気が出てくれることを願います。


■『錦ぶりまつり』開催!

今年(2012年)3月31日に、『錦ぶりまつり』を開催する予定です!

錦は大紀町で唯一魚が揚がる(海がある)ので、ブリのべっこう寿司やごっつおめし(五目飯)など、ブリを使った郷土料理がたくさんあるんです。
大紀町のブリは三重県でも一番だと思いますし、特に春のブリ…『彼岸ブリ』や『桜ブリ』は県下でもNo.1の有名なブリです。
そんなおいしいブリを、錦の人間は新鮮なうちに食べられますが、山間部に住んでいる人の口に入るまで、どうしても時間がかかってしまう。
なんとかその日に新鮮なままで販売し、ブリを使った郷土料理を食べて欲しい…そしてそれが地域の活性化に繋がれば、と考え、この『錦ぶりまつり』を企画しました。

3年前から構想を練って、初めて開催したのが2年前。

正直、あんなに人が来るとは思いませんでした。
まつりのスタート直前までお客さんの姿が見えず、不安になっていたのですが、開始と同時にたくさんの人が!
結局お昼前に、ほとんど完売しました。
1本7キロ~10キロのブリをそのまま売るんですよ。
でも一般の人は、「そんなに大きくてどうしよう」って感じですよね。
そこで、さばくサービスをしたり、発泡スチロールを用意したり…。
何人かでブリ1本を共同で購入して、さばいてもらって、好きな部位を持ち帰るお客さんもいました。

郷土料理も好評で、南蛮漬けやアジミンチ天麩羅などは、10分で売り切れてしまいました。
2年前はお客さんも錦の方で、味を知っているので、どんどん買ってくださって。
でも今回は、錦以外のお客さんにも買って欲しいので、量や種類など、色々考えています。

もちろん実行委員も地域の人なので、『錦ぶりまつり』に向けて盛り上がっていますよ!
普段、漁業している私たちは、お客さんと触れ合う機会がありません。
目の前で、「おいしいおいしい」と言って魚を食べてくれるお客さんを見て、この仕事をやっていて良かったな、と実感できました。
目の前でさばいた、とれたての新鮮な魚を食べてもらうのだから、味にも品質にも間違いない。
普段はできない「市場から直接お客さんへ…」という形が、『ぶりまつり』だからこそ実現できるんです。

普段はブリを獲って来て、市場に流せば終了。
しかし『ぶりまつり』ではそうではなく、発泡スチロールを用意したり、さばいたり、色々お客さんに対するケアが必要。
それがわかり、とても勉強になりました。
以来、ブリ漁全体についても、もっと踏み込んで考え、「どうやったらお客さんが買いやすいか」「どうしたら鮮度が保てるか」などを考えるようになりました。

去年は東日本大震災があったため、急遽チャリティーイベントに変更して即売会のみを行い、収益金を被災地に送りました。
なので今回が実際の2回目。
前回のノウハウを生かして、さらに充実した『錦ぶりまつり』を開催しますので、みなさん是非いらしてください!
おいしいブリとおいしい郷土料理を用意して、お待ちしています!