『ミエてくる』2019年3月14日

鳥羽市で牡蠣養殖と言えば浦村かきが有名ですが、実は知る人ぞ知る「安楽島(あらしま)かき」があるのをご存じでしょうか?
そこで、この安楽島かきの養殖を40年前に始めたパイオニアである「竹本水産」さんを訪ねてみました。
牡蠣養殖の現場を見せていただきながらうかがったお話には、脱サラをして牡蠣養殖を始めた地元への熱い思いが込められていました…。

今回訪ねた「竹本水産」さんは、鳥羽市街地からパールロードへ向かう道の途中、ホテルエクシブ鳥羽のそばに作業場を構えています。
付近には数軒の牡蠣養殖業者が軒を連ねています。

さて早速ですが、裏の桟橋から船を出し、養殖筏へと連れて行ってもらいましょう。

まず最初に着いたのは、まだまだ小さい稚貝を育てる筏です。稚貝を吊した種筏(たねいかだ)が波静かな内海に浮かんでいます。

 

これらの稚貝は毎年8月頃に宮城県の海で種を採取され、それを仕入れた竹本さんが鳥羽の海で育てます。
波の影響を受けにくい内海のこの場所で、およそ8ヶ月かけて稚貝はすくすくと育ちます。

さらに船を走らせ、本栽培漁場へとやってきました。
ある程度の大きさに育った牡蠣はこの海域でおよそ5ヶ月かけて、出荷まで育てられます。

 

この海域は餌となるプランクトンが豊富なのはもちろん、潮の流れが速いので、しっかりと運動した健康で身のしまりのある牡蠣に育ちます。
本栽培漁場は2ヶ所あり、それぞれの潮の流れの速さに合わせて、牡蠣を吊す量がつり下げる感覚を微調整しています。
ここに各養殖業者ごとの技や特徴が現れるそうです。

 

鳥羽市安楽島の牡蠣は、養殖筏の間隔を広くとり、ゆったりと育てられることが大きな特徴です。
Googleマップの航空写真を見ると、隣町の浦村の牡蠣筏より広く間隔が取られているのが分かります。
牡蠣ひとつひとつに満遍なく栄養が行き渡り、美味しい牡蠣に育つのです。

竹本水産の牡蠣は11月頃から4月頃まで出荷されますが、特に寒さの厳しい2月から3月頃は、サイズもアップし、牡蠣の旨みとなるタウリンやグリコーゲンがたっぷりと身に蓄えられるので、特におすすめです。
産卵をさせない一年かきなので、クセがなく食べやすいと評判です。

 

「竹本水産」をおこした竹本昭和さんが今から40年前に安楽島の海で養殖を始めた理由は、「過度の開発から海を守るため」。
1970年代にこの海にマリーナの建設計画が立ち上がった時、漁師さんの生活の場である海をモーターボートが走り回っては漁ができなくなると危機感を持ちました。
そこでふるさとの海を守るための手段として考えられたのが牡蠣養殖。大手メーカーの技術職から脱サラし、手探りで牡蠣養殖を始めました。
そんな父の姿を見て育った息子の敦史さんと真人さん、敦史さんの妻の緑さんの3人で、いまでは牡蠣養殖業を営んでいます。
次世代にきれいな安楽島の海を残してあげたいとという思いは、息子たちにも受け継がれています。
そんな海で育った牡蠣はセル牡蠣や剥き牡蠣として出荷される以外に、最近では牡蠣の加工品づくりにもいかされています。

 

さて、いよいよお待ちかねの試食タイムです。
安楽島の牡蠣は海からそのまま出荷されるのですべて加熱用です。むき身、殻付き、どちらでも出荷してもらえます。
ぷりぷりで旨味の濃い牡蠣なので、さっと火を通すだけで調理は十分。
殻付きの牡蠣をレンジでチンするのが一番簡単で美味しいと教えていただきました。
他にも、水から牡蠣を加熱する牡蠣の味噌汁は出汁いらずで手軽でおすすめ。

 

フレッシュな牡蠣の他に加工食品も製作しており、牡蠣の美味しい食べ方を熟知する養殖業者だからできる食べ方が人気を集めています。
ニンニクや唐辛子とともにたっぷりオリーブオイルにつけた「オリーブオイル漬け」、醤油と砂糖で煮た「しぐれ煮」、山桜のチップで燻製にした「燻製かき」、串に刺し天日干しした「干し牡蠣」、が、現在販売されています。

安楽島の海を守りながら、私たちに美味しい牡蠣を届けてくれる。「竹本水産」さんの牡蠣にはふるさとへの愛情がたっぷりと込められています。
出荷量が少なく、あまり一般の市場に出回らないので、気になった方は直接注文してみて下さいね。