FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年3月31日放送

今回のお客様は『和菓子処 若木屋』の店主、濱田修さんです。
尾鷲神社のすぐそばにある若木屋さんには、毎日10種類ほどの生菓子が並びます。
季節の和菓子はもちろん、若い人に食べてもらいたいとの気持ちから、
コーヒーやチーズを使った和菓子も作っています。
職人になって18年。尾鷲にお店を構えてからは11年目になります。
厳しくて、つらかった修行時代。
仲間はどんどんやめていったけれど、何でもさせてもらえることは嬉しかった。

菓子職人になるきっかけはどんなことだったんでしょうか。

■海外に出たからこそ感じた、日本の伝統文化の大切さ

僕は尾鷲生まれの尾鷲育ち。
当然のごとく、田舎がイヤで都会に憧れ、大阪の大学に入学しました。
そうしたら、毎日楽しい…楽しいけれど、充実感がまったく感じられなくて。

もしかしたら海外のほうが面白いのかもと考え、オーストラリアなどを1年くらい回っていたんです。

その間、向こうの人と話している時に「日本のことを教えてよ」と言われたんですが、実は日本のことを全然知らなかったんですよね。特に話すことがないんですよ。
話す内容と言ったら尾鷲のことばかり。

自然がいっぱいあって、綺麗な川があって、綺麗な海があって、魚釣りが面白くて…。
日本には四季があって、春は桜が咲くし、夏はホタルが…。

イヤだったはずなのに、気づいたら日本のことを語っていた(笑)
それで「自分は好きなんやな」と気づいたんです。
そこで、「日本の伝統的なことに携わりたい」と思い、日本に帰って来ました。
まったくの真逆(笑)
帰国してから、日本の伝統的な職業を探して、包丁職人になろうとか考えてみたり。

そんな時、和菓子職人の叔父から、和菓子について話を聞かされまして。
正直僕は、和菓子はまんじゅうと大福しか知らなかったんです。

しかし、和菓子には四季があって季節感があって歴史があって…なんて、上手に話してもらってね。
「それじゃお願いします!」って(笑)

実は中学生くらいまでは、おじさんが毎日家にやってきて、「店を継げ」と言われていたんです。
でも当時は、そんな気はさらさらなく、「継がへん継がへん、大阪に行く」って。
とても回り道をしてしまいましたが、結果的にこうなり、すごい喜んでくれました。


■和菓子職人として一人前になるために

一番最初に教わるのが、『あん玉切り』。
これはまんじゅうの中に入れる「あんこ」を切る作業で、決められた重さを決められた数、きっちり揃えられるようにします。
例えば、20グラムのあんこを100個とか。

それが出来るようになったら、あんこを包んでおまんじゅうの形にする仕事へ。
そこからさらに、細工のお菓子や焼き物へと進んでいくわけです。
和菓子は本当に種類が多く、数えきれないほどで、一生かかっても全部の種類は作りきれません。
僕もまだ、作ったことのないお菓子がいっぱいあります。

しかも、和菓子は毎月変わでしょう。
春は桜餅や草餅、5月になったら柏餅にちまき、夏は水菓子、水まんじゅう、水羊羹など…。
一年でそのお菓子を作る時期が限られているので、その年では勉強しきれないんです。
また次の月になったら次のお菓子を作るので、一年後には忘れてしまっていたり。
1つのお菓子を一人で作れるようになるには、最低でも5年から6年かかるんですよ。

でも基本がわかっていると、初見のお菓子でも「こんな感じかなで作ってみたらどうかな」みたいな感じでできたりします。

基本中の基本の和菓子はやはり、『薯蕷饅頭』です。
あの真っ白な皮のおまんじゅう。
皮の材料は、砂糖と芋(大和芋、つくね芋)と米からできた薯蕷粉。
その3種類で作るため、塩梅ひとつで出来がまったく違ってくるんです。
上手に出来れば職人としてはまあまあというのが、和菓子界の常識ですね。

和菓子にはずっと培われてきた『基本配合』というのがあります。
百科事典のような本に昔の言葉で配合が書かれていて、そこには、すべての和菓子が載っています。
ただ、昔の本なので、そのまま作っても現代の人の口には合いません。
なので、砂糖を減らしたり、他の材料を増やしたり…これで、そのお店の味が出来上がるというワケです。

お店の味の基本は、やはりあんこの味。
あんこの練り方ひとつでも職人が100人いたら、みんな違います。
それだけ、あんこは重要なんですね。


■尾鷲の人が好むお菓子とは

やはり、『尾鷲』という土地ににこだわりたいと思っています。
帰って来た当初は、上品というか…格が上に見えるようなお菓子を作っていたんですが、だんだん「何か違う」と感じるようになり。
やっぱり尾鷲らしいお菓子を作らねばという気持ちが生まれ、お客さんもそれを求めているのを感じて。

尾鷲の食材を使い、店内も尾鷲っぽく。
なんて言うか、尾鷲の人は「ワシは尾鷲やで」と、ちょっと誇りを持っているんですよ。
天気予報にも出るんやで、みたいな(笑)
そこでちょっと尾鷲っぽく、威張ったお菓子を作るよう心がけています。
近所のお母さんたちが食べる昔ッからの草餅には、ヨモギをどっさり使い、あんこには塩を効かせて。
上品なお茶席のお菓子には、あっさりしたあんこを。

味や作り方を使い分けて、尾鷲らしい和菓子屋を模索中です。

桜餅一つにしても、実は毎年、少しずつ味や作り方や材料を変えているんですよ。
料理人も良く言いますが、完成はないんです。
毎年、次作る時は「こうしたら去年よりおいしくなるかな」と思いながら作っているので、おそらくちょっとずつおいしくなっていると思っています。
ということは、最初の頃はおいしくなかったんだろうな…と、今になって思うんですよ。
自分ではおいしいと思っていたけど(苦笑)

最近では、父の日や母の日、敬老の日、お誕生日に和菓子のケーキをオーダーされることが増えてきました。
僕が作る和菓子が認められてきたのかな、なんて、ちょっと嬉しくなりますね。


■尾鷲らしいお菓子を作りたい!

『尾鷲』にこだわった和菓子をと思い、開発したのが『ぶらぶら塩羊羹』。
熊野古道を歩きに来るお客さんが、歩き疲れた時にチョコレートを食べよう、ではなく、ウチの羊羹を食べて欲しくて作ったお菓子です。
持ち運び出来るようにスティック状で、下から指で押し出して、糸で切って食べてもらう。
残ったらフタをしてポケットに入れて、また疲れたらお茶と一緒に。
塩羊羹なので塩分補給にもなるし、海洋深層水なのでミネラル補給にもなる、まさに至れり尽くせりなお菓子です(笑)
パッケージにも尾鷲の峠の名前などが入っていて、かなりこだわっています。
かなり好評なんですよ!

和菓子をたくさんの人に楽しんでもらうため、他にもまだまだ、尾鷲らしい和菓子作りに挑戦しています。
アイディアは常に考えていますね。
名前も決まっていたり、作りたいお菓子はいっぱいあります。
例えば、尾鷲で有名なオコゼを使った行事にちなんだお菓子、民話や民謡にちなんだお菓子…。
少しでも時間があるときに試作を繰り返して。

思い立ってすぐに作って売ってしまうのではなく、時間をかけて改良を重ねることで、良いものができるんかなあ、と考えています。
これからも「尾鷲らしい和菓子」作りを続けていきますよ!