FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年4月28日放送

今回のお客様は、『久安典之建築研究所』の一級建築士、久安典之さん。
研究所は四日市、諏訪公園の近くの商店街にあります。
ここは昼も夜も、とてもにぎやかな場所です。
そこから、どんな街を活かすアイディアが生まれてくるんでしょうか。

■街中に事務所(建築研究所)を作った理由

建築設計の世界というのは、なかなか街の人たちと接する機会がないんですね。
そこでもっと気軽な、接点みたいな場所としての事務所にしたいな、と思いまして。
そして街の人にも、建築の世界って実は楽しいんだよ、ということを知ってもらって。
建物と街と繋がってくれば、街はもっと楽しくなるんじゃないかな…そんな感じで、自分にとっては良い場所ですね。

商店街の一番端っこの建物を、食堂から喫茶店に改装することになったんですが、建物を調べていたら、昭和34年に建てられたものだったんです。
鉄筋コンクリートで、コンクリートの梁が見えていてね。
それをもとに、他をみな変えていって。
ここは、2階、3階もあって、アーケードの天井より上にも部屋があるんです。
ちょっと変わっているでしょ?
しかも裏が諏訪神社で正面は商店街のアーケード…、表と裏…俗の世界と聖の世界にあるというのが、ちょうど同じ並びで空いていたので、こりゃ面白いな、と思ったわけです。

ここの商店街を紹介してもらったのは、住宅の設計をしていた施主さんから。
もともと商店街に、何らかで関わるキッカケが欲しかったんですよ。
で、紹介してもらったら、商店街の中でも諏訪公園に面した角…何というかこう、ポイントになりそうだな、面白そうだな、と。

■まちかど博物館について

建物や街は、建築士の自分の目からだと、生きているように見えるんです。
その観点から言うと、建物も人も、同じようなタイプばかりだとつまらない…違ったタイプの人が来ると『面白いな』と思い、その人を見て、自分はどういう人間なのかな、と考えてみたり。
それが、異質な建物があるという面白さにつながるんじゃないかと。

うまくマッチするか浮くかは微妙ですね…それは人間関係と一緒で(笑)
例えば浮いていても、何かお互いに刺激になることがあったりすれば、それを認め合ってね。

僕は、建築設計が本業ですが、こんな感じで、街づくりの色々なことに関わっています。
基本、自分の仕事はハード的な部分が中心なんですが、それだけだと片手落ちになるので、ソフト的な活動もしていきたいな、と。

その中のひとつが『まちかど博物館』の事務局としての活動です。

5年程前から三重県が、県内各地で『まちかど博物館』を広げようと活動していたんですが、四日市、菰野、朝日、川越でうまくまとまらなかったんです。
最終的に、「四日市はそういうネットワークができない」ということで終わりかけていたところ、それじゃちょっと寂しいな、ということで、誰もやらないのなら僕がやろうかな、と。

3年前から、ひとつひとつ知り合いを辿って『まちかど博物館』を探して。
行けば見せてくれる酒蔵さんとか、万古焼の窯元だとか。
目標は100館で、今はようやく83館に!
たくさんの方々に登録いただいて、ネットワークができつつあるところです。


■家づくりに遊び心をプラス!

家づくりというのは、一生に一度、何千万円か掛けてする『遊び』です。
そのチャンスを逃すのはもったいないと思いますね。
そして必要なのは、遊び心。

なので、「○○様住宅」「○○様店舗」…こういう味気ない呼び方ではなく、愛称をつけることもあります。
施主さんの「こういう人にはこういうタイトル」と思うときもあるし、付けないほうが良いな、と思うときもあるし…まあ、気分ですね。

昔の…茶室なら『~亭』『~庵』、別宅だったら『~荘』とか。
大層に過大評価しようとか言う気ではなく、気軽な感覚で。

一例を挙げると。
施主さんの苗字がYさんという一家で、男のお子さん3人がレスリングを習っていて、そのお父さんがそこのコーチで。
レスリング一家で、お邪魔すると、いつも賑やかなんですよ。
そこで、その家は『Y邸』ではなく『YY(ワイワイ)ハウス』と付けたりとか。

また別の話では、奥さんが離れを建てて、人が集まる場所にしたいと。
奥さん曰く「私はミミズになりたい」。
ミミズは目立たないところで土を食べて土壌を良くして、それで植物が育って、虫が食べて…そんな役に立つ存在になりたい、と。
それを聞いて、屋根のてっぺんに、ステンレスでシンプルな、ミミズのオブジェを備え付けました。
建物の名前は、そのまま素直に『蚯蚓(ミミズ)庵』(笑)
ツチノコに見えないように、ちょっと細めに。
首のあたりの襟巻きも付けてあるんですよ(笑)


■歴史的建造物をいつまでも大切に

以前、本町に銀行の建物があったんですよ。
自分なりに何とか活用の方法がないかな…と思っていて、気がついたらもう解体されて、駐車場になっていました。
ビックリして、当時関わった方に「どうして解体したんですか?」と聞いたら、耐震上の問題だと言われて。
しかし耐震上問題があるのは、だいたいが古い基準で建てられたものだとわかっているはずです。
なので、それとは別の話で検討して欲しかったですね。

それから、四日市のアーケードの中には旧東海道が走っているんですけど、そこに古い蔵があったんです。
市民活動に活用していたらしかったのですが、最近になって、片付けていたんですよ。
気になったので知り合いに聞いてみたら、もう解体したよ、と。
しかもそこにはマンションが建つと言うんです。
あれも何か活用できなかったかなあ、と。
『入居者募集』とかかかっていたら、そっちに行ってもいいなあと思っていたくらいだったのに。
とても残念でした。

建物は目に見える『思い出』があったりするので、少しくらいちゃんと残して欲しいですね。
この辺りは特に、空襲で焼けてしまっているので、大変貴重なはずなんです。

他の地域…特に伊勢はたくさんいいものがあるし、伊賀は、良い町並みや史跡がたくさん残っていますよね。
それはそれで大切だけど、たくさん残っている中の一つより、なくなったところの中の数少ない残っているものや建物も、すごく重要でしょう。
もっと大事にされていいはずなのに…大切にされない末路を辿るのはとても寂しいことだと思う。

もちろん良い例もありますよ。
現在の『すわ公園交流館』も古くて取り壊されそうになっていたのを、地域の人や行政が協力して残そう、ということになり、登録有形文化財に指定されたんです。

そういう意識を、地域のみなさんがもっと持ってくれて、歴史的な建造物や、街を守っていけたらな、と思います。

久安典之建築研究所
住所 四日市市諏訪栄町22-3   
問い合わせ TEL:059-359-6678
      E-mail nsm@cty-net.ne.jp
HP http://www.cty-net.ne.jp/~nsm/