FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年5月19日放送

今回のお客様は紀北町海山区からお越しいただきました。
『海山熊野古道の会』の会長、西尾寛明さんです。
この会の特徴は他のグループより若い人が多いところ。
いろいろな世代が集まって熊野古道の保全活動をしています。

■自然の中で過ごした大学時代

僕は岩手の大学で、水産の勉強をしていたんですよ。
宮沢賢治が好きで、イーハトーブや自然に憧れて。
岩手は自然が豊かで、目の前の川に鮭が遡上したりしてね…そういう場所で勉強していたんです。

僕が研究していたのは、川から汽水域に掛けて生息するコイ科の『ウグイ』という魚。
わりに大型で、このあたりの川でも30~40cmくらいの、けっこう大きいのが釣れますよ。
ウグイ自体を研究していたというより、その卵に含まれる、レクチンというタンパク質を研究していたんです。
このレクチンには、抗癌作用があるなどと言われているんですよ。
ウグイ以外にもレクチンが含まれるものはあると思いますが、ウグイが有効だと言われていたので…それから、捕まえやすいですしね(笑)

クロマトグラフィ(物質を分離・精製する技法)を用いてレクチンを抽出するという地味な作業を延々としていました。
もちろん研究に使うウグイは獲りに行くわけで…大学4年間は川と戯れる生活でした(笑)

そんな中で、だんだんと自然に目を向けるようになりまして。
目の前に海があって、その手前には川があり山があって、そこからの水が海に流れ込んでいって…。
もともと釣り好きだったのもあるんですが、自然に興味が湧いてくると、だんだん山にも興味が湧いて来て、いつの間にか、散歩みたいに山を歩くのが趣味になっていたんです。

大学を卒業してから、少しだけ東京で暮らしたんですが、この先を考えた時、やっぱり出身の辺りの自然豊かな場所がいいなあ、と思い、こちらに帰ってきました。
ちょうど、熊野古道が世界遺産に登録されるちょっと前で、盛り上がっていた時期ですね。

そして自分も熊野古道をよく歩くようになった頃の2004年7月7日に、世界遺産に登録されたんです。
その時分には僕も、自分で色々情報を収集して、熊野古道の価値に気づいて…そして熊野古道に関係するようになってきたわけです。

■道を守るのは大変な作業

山は放っておくとすぐに草が生えて歩けなくなるので、常に管理が必要です。
特に、この辺りに多い台風の後は、道が壊れたり倒木したりするので、雨が上がって危険がなくなったら、いち早く行って状況を調べてます。

自然を守る、道を守るというのは地道な作業です。
だからこそ、毎日楽しみながらやって行きたいと思っています。

保全活動は、会のメンバーだけでなく、企業の方が社会貢献活動の一環として来てくれることもあるんですよ。
家族も連れて一緒にね。
私たちとしても会だけでは守り切れないところがあるので、大勢の方に協力していただくと、非常にありがたいですね。

峠は世界遺産ですから、私たちだけのものではなく『世界人類共通の財産』という認識で守っていく価値があります。
なので、他の方とも共同で作業したいですね。
熊野古道は、三重、和歌山、奈良と、3県にまたがる広大な世界遺産なので、カバーしなきゃいけない峠もたくさんあります。
たくさんの手が必要なんです。
熊野古道全体を通して道を守っていくのは大変な作業なので、私たちは地元の峠を守るという、自分ができる活動を行なっています。

また、先程も触れましたが、最近では企業としてのCSRというか社会貢献的な事業が増えているため、たくさんの企業の方に保全活動に参加してもらっています。
『始神峠』や『馬越峠』でも、「ここはあの企業さんに修復してもらった」というのがありますよ。

参加した子どもさんが、大きくなってから「小さい頃、ここを修復したなあ」…そんな事を思い出して、また熊野古道に来てくれれば、本当に嬉しいな、と思います。


■雨の熊野古道は神秘的!

ここは本当に自然が豊かです。
海があって、そのすぐ奥が山地になっていて。
大自然の中で自然信仰から出発し、そこに神道や仏教が結びついて、独特な信仰が発展したものが『熊野信仰』。
だから、仏教の方も神道の方も、誰でも救いを求めて良い場所なんですよ。

雨の熊野古道は、檜林に霧が立ち込めて、そんな信仰が生まれたのが納得できるほど、とても神秘的な雰囲気です。
また、雨の日は普段石畳に隠れているような小さなカニが出てきたりと、違う発見があるんです。

尾鷲や紀北町など、この辺りはもともとも雨が多い地域。
そういうところだからこそ、雨から道を守るために石畳が作られたんだと思います。
すべての峠の中でも『馬越峠』が一番美しいと言われているのは、石畳が綺麗だからじゃないでしょうか。
濡れていたりすると、もっともっと綺麗なんですよ。

道を守るために石畳を作ったという労力も、すごいですね。


■川には魅力いっぱいの魚、山には無尽蔵の動植物!

この海山を流れる銚子川も、自然が豊かで素晴らしいんですよ!
触れる機会が多い魚は、鮎やアマゴ。
釣りの対象魚としても人気がありますし、放流もしていますしね。

でも、観察して面白い魚は、そうじゃないんです
オイカワという綺麗な魚や、カワムツ、ウグイ、それ以外にも、モジャモジャのモクズガニ…色々いるんですよ。
他にも面白い顔をしたボウズハゼ、下流域に行くとヌマチチブ(ガマクロ、ダボハゼ)とかね。

本当に観察しているといっぱいいるんですよ!
特に、これから、夏にかけての季節は楽しみですね。
楽しくてもう、一日じゃ遊びきれないくらい。

僕は山に行くときは図鑑を持って行くんです。
動物でも植物でも無尽蔵にありますから、見ても見ても、知らないものだらけなんですよ。
行くたびに図鑑で調べて、だんだん覚えて来て、見たものを「これは何々だな」とわかるようになると、それはそれでまた面白い。
歩くたびに飽きるどころか、楽しみがどんどん生まれてくるんです。
素晴らしいところでしょう!