FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年6月16日放送

今回のお客様、谷口照男さんは、大台町の図書館の館長さんです。
それまでは、学校の先生で、29年間の教職生活を続けてきました。
学生時代はラジオ局でアルバイトをしたり、落語家に弟子入りをしたこともあります。
ちょっと面白い図書館の、ちょっと面白い館長さん。
図書館の変わった取組みなどをお聞きしました。

■先生になったキッカケは?

唐突ですが、じっくり考えて行動するのはフランス人、ダーッと走って、あとで反省するのはスペイン人と言われています。
僕の性格は考えて考えて考えこんで、そのうち気持ちがしぼんで実行できないタイプだったんです。
京都の大学に通っていた頃は、5月病になったり。
なので、スペイン人のように考えないで突っ走ろう、そのあとで失敗や成功が見えて来るだろう…と、自分を変えるよう努力をしました。

大学時代は、京都という町で色んな経験をしましたけど、卒業したら田舎に帰ろう思ってました。
田舎の子どもたちと一緒に人生を送れたら、一番幸せやろな、思って。

先生になったキッカケは…大人の社会は嘘があるでしょ。
ぶっちゃけ汚い(笑)
でも子どもっていうのは、江戸時代でももっと前でも現代でも…いつでも純粋で変わらないんですよ。
そんな子どもたちと僕が一緒に生活できて、それでお金が貰えたら一番幸せなんやないか、と。
やってみたらそのとおりで、天職でした。
25歳で先生になってから退職するまでの29年間の教員生活で、学校にいくのが嫌だったことは一度もありません!
そりゃ長い教員人生だから、色々悩みもありましたけど、子どもといると悩みもなくなるんです…面白かったですね。


■子ども一人ひとりに、その子だけへのメッセージ

僕は通知表の所見欄に、僕流の、世界中でもその子にだけしかないことを書いていました。
例えば
『給食のスープをこぼした時に、一番最初に雑巾をとりに行ってくれました。ありがとう』

そしたら、通知表を見て泣いちゃったお母さんがいましてね。
どうしたのか聞くと、
「小学校に入って、こんなに詳しく自分の娘のことを見てくれたのは初めて!」と。
それを聞いた校長先生が、今度は、55人いる職員の前で、その所見を読んでくれた。
そして校長先生から「谷口君、小説書いてみないか」と言われて。
わずか5行ぐらいなんですよ(笑)
でも、それがキッカケで物を書くようになったんですけどね。

所見は、その子ならではのことを書くのが一番大事。
「明朗活発で」なんて、どの参考書に乗っているようなこと書いても、仕方ない。
そんなこと、誰にでも当てはまるでしょ。

心に残っているのは、ひろみちゃんという子。
今は四国で暮らしていて…もう30才になるかな。
小学校3年生の時に担任したんだけど、ものすごい物静かで、教室にいてもわからないくらい。
そのひろみちゃんがある日、自由勉強で詩を書いてきたんです。
その出来が良かったので、帰りの会の時に僕がその詩を読んだんですよ。
『しらさぎ』というタイトルで、
「学校の帰り道、田んぼの真中に白鷺がとまっていました。私はずっと、それを見ていました」
こんな感じでした。
これをみんなの前で読んだら、ひろみちゃんが真っ赤になってうつむいちゃったんです。
3年生で初めて、みんなの前でほめられたそうなんですね。

それがキッカケで、ひろみちゃんとは今でも文通しているんですよ。
月に2回くらいで、もう20年。
小さなことでも、捉える方の子どもにとってはぜんぜん違うんだと思いました。


■昔を懐かしむのではなく、これからを楽しむ町に!

今、大谷川で、鯉を放そうと実験しているんです。
弥起井地区の人たちがホタルまつりをやっている辺りですね。
以前僕は、北畠具教のことを書いて本にしたんですが、北畠神社から具教の城後から龍雲寺…ず~っと繋がったら面白いかな、と思いまして。
僕は今、この龍雲寺を『鈴虫寺』にするために、1000匹ほどの鈴虫を飼っているんですが。
例えば、彼岸花の時期に来て、鈴虫の音を聞きながら、お抹茶を飲むとか…ず~っと繋がって、色んな形で町が元気になったら良いな、と思っています。

それから他に活動として、『ドリーム100円市』というのをやっています。
近くでできた野菜を何でも100円で販売し、その売り上げは障がい者の人たちが働く施設へ寄付するというもの。
自分を育ててくれた町がもっと元気になれるように…という想いからです。

その100円市が最近軌道に乗ったので、これを基点に、旧道を『100円の町』にしたいんですよ。
ベニヤ板を敷いて、家にあるコップでも作物でも、何でもダーッと並べて、とにかく全部100円。
60歳くらいで定年して、「明日何しようかな」「明日どこへ行こうかな」とか考えている人が集まってくれたら良いなぁ、と。

この旧道は熊野街道なんですね。
高速道路が通過して、人が通り過ぎてっちゃうという人もいるけど、それはそれで便利になっていいじゃないですか。
それとは別に、昔の古い道を使って、また新たに何かするのも面白いと思いますよ

『100円の町』はまだ実現するかわかりませんけど、「昔は良かったなあ」というお年寄りが「今がええなあ」「今が楽しいなあ」という風になったらいいですね。


■町全体が図書館!町民参加型の図書館づくり!

ここは、よその図書館みたいに施設としては立派なものではありません。
でも、人と人のつながりを強力な図書館にしたいと思っています。

例えば、行事を企画するにしても、まず一般の人に来てもらい、「どういう行事にしたら良い?」と一から相談。
それで町民と一緒に組み立てていき、司書とか館長は、後からついていくというスタンスです。

僕はこの図書館を「本を貸す」だけの場所としては考えていません。
ここを中心に、町民の人らが元気づいて欲しい…つまり図書館が『町民力』を高める役割となれば、と考えています。

なので、図書館で行うことも、他とは変わっているかも知れません。

よその図書館で一番多いのは『読み聞かせ』です。
でも僕の考え方では、人間の感性を磨くのは本だけではありません。
音楽、映画、演劇、もちろん本でも良い…とにかくその中の一つが本であり絵本であり、紙芝居であり…。

それから、ここの図書館は狭いですから、町全体を図書館にしようと考えています。
ここからどんどん出向いているんですよ、老人クラブとかホームとか。
『待つ図書館』から『出向いて行く図書館』へ変わっていくつもりなので、宅配もしますよ!

しかし、違うとこからも来てくれという話もありますが、司書2人が学校に行ってしまっているので、ここには2人しかいないんです。
実際大変ですね。

『読み聞かせ』はどこの図書館でもやっていますが、本来はお母さんがするもの。
上手じゃないけど、子どもが寝る前とかに読んであげるのが、一番良いと思いますよ。
「図書館で読み聞かせがあるで行きましょう」、じゃなくてね。
昔、僕が子供の頃には、家に本はなかったけど、母が昔話をよくしてくれましたね、桃太郎とか。
毎日同じ話でも面白かったですよ。
結局『読み聞かせ』の原点は、そういうことなんじゃないかな。

心に田舎の景色を持っている子どもは、必ず帰って来ますよ。
自然の中で遊んだり、お母さんに読んでもらった本の空想の世界であったり…それが『心の中にある田舎の景色』です。
自然が人間を育ててくれるので、できるだけ外で遊び、そういう景色を作ることが大切ですね。
『心の中にある田舎の景色』を持っている子は故郷を大事にするし、最終的に帰って来きます。
そこが心の拠り所であり、一番安心できる場所ですから。