FM三重『ウィークエンドカフェ』2020年11月21日放送

今回のお客様は、前回に続いて『志摩市民病院』院長の江角悠太先生です。
先生が志摩を選んだ理由は、海とサーフィン。
ここに来て6年が経ちました。今は、次の課題に取り組んでいます。

本全体の田舎を助けるために仲間選びをしている

僕のあとの世代を担う人間が作らないと。
僕一人でやっても、たかだか50年で終わってしまいます。
そもそも僕がやっている間も一人ではできないし、助けなきゃいけないのは志摩市だけではありません。
これからの世界を担う若手に、田舎でやる理由を教える必要があります。
日本全体の田舎を助けるためには、同志や仲間が必要なので、仲間選びをしています。
どこで医者をすることになっても、都会ですることになっても、その地域に暮らす人たちが生きていることを意識しながらやってほしいなと思います。
なので、学生教育にはとても力を入れています。
大学が進むにつれて、社会人になるにつれて現実的な問題がふりかかってくるじゃないですか。
結婚の問題とか…女性は田舎に住むのを反対することが多いかもしれません。
虫がいるとか。
なので、そういう現実的な問題がどんどん出てきて、田舎の勤務を希望しなくなるんですよね。
僕らのように田舎を楽しみながら医療を行っている若手の人間が、もっともっと増えて、こういう問題を乗り越えたら良いよとアドバイスできるようにするため、『地方創生医師団』という団体も作りました。
これからできる全国的な団体で、熊本から北海道まで医者の登録を行っています。
いろいろな現実的な問題を解決してきて、なおかつ今、田舎で楽しんでいる人たちが、これから問題に直面するであろう若手の医者や学生たちに、問題解決方法として田舎の楽しみ方を教えられるような。
それがこれからの日本にどう意味があるのかを、伝えていく団体にしていきたいです。

 

ロナウィルスによるダメージはコミュニケーションがとれなくなること

コロナウィルスによって一番ダメージを受けているのは、対面でのコミュニケーションを良しとしないこの文化ですかね。
それがいかに大事なのかを、今回の件で気付かされて。
うちの病院の中でもそうですけど、コミュニケーションひとつ取っても、ちょっと離れなきゃいけないわけです。
さらにマスクをしているので、表情も見えにくい。
何を考えているかわからないですよね。
そもそも不必要な雑談もするなというオーラが、日本全体、いや、世界全体に漂っています。
不必要な雑談ができない事自体で、それぞれの人間のモチベーションが下がる…つまり雑談がモチベーションを上げることにつながっていたんだなと思います。
雑談が必要だし、普段の冗談の言い合いが必要だし、無駄な会話がどれだけ人々の生活にゆとりと喜びを与えていなのかと…それは患者さんを見ても思うし、ウチの病院の職員を見ていても、他の市で、自治体で話をしていても感じます。
コミュニケーションが必要な医療現場で、そのコミュニケーションというツールを取り上げられる以上の弊害は、患者にとってありません。
コロナウィルスが蔓延している中でも、どうコミュニケーションを取って今まで以上に職員同士の結びつきを強くし、患者さんとの接点を多くし、他の職種みんなで一人の人を助けていくかを試行錯誤中です。

 

世代が医者になったとき、患者が求める医療をするように指導

生まれたときからネット環境がある、今の20代よりも上の世代の人たちは人の温かみが生きる上でとても必要なことがわかっていると思います。
今の20代以下ですね、彼らがどう感じるか。
生まれたときからオンラインがあり、オンラインでの人間関係が普通だと思っている世代は、今と価値観が変わっていく可能性があると思います。
でもまあ、今の私世代は、人と人との温かみが一番生きる上での喜びや生きがいになると思います。
20代以下の彼らが、彼らの幸せだと思う生き方をすれば良いですよね。
人のぬくもりが大事だというこちらの価値観を押し付けると不幸になると思うので、彼らの世代がお年寄りになったときにはロボットに見てもらえればいいですかから。
それが幸せだと感じるかもしれない。
そう、僕が気をつけなければならないのは、Z世代である今の20代が医者になってくる時に、まだ相手にする患者さんが人のぬくもりを大切にする人たちなんです。
その価値観のギャップがかなりあると思うんですよね。
自分たちの感覚を相手に押し付けない、患者さんに押し付けないように。
患者さんが求めていることを医療者が埋め合わせに行くんだよ、ということを常に意識して医療をしなさいとずっと言っています。
自分がやりたいことをやるのではなく、相手が求めていることをするのが医者だと、常日頃から言っています。

 

摩市に生まれてよかったと思える町にしたい

志摩市の住民48000人、住んでいる人が「生きててよかった」「志摩市に住んでいてよかった」と思えるような町にしたいと思っています。
すべての人がそう思える町。
まあ、ほとんどの人が放っておいても幸せになれると思うので、自力で幸せになれない人たちでも、僕たちがいることによってそう思えるようになってほしいです。
一番わかり易いのが、病気を抱えた人です。
ということは、すべての人が弱者になるので、少なくとも病気を抱えた、なかなか自力では幸せになれない人たちを私たちが支えることによって、自分たちが行きたい人生を生きることができ、最後に「ありがとな」と死んでいけるような町に。
これからもやり続けたいし、より多くの田舎でもできるようなシステムを作り、方法を広めていくこと…それが僕が死ぬまでに一番したいことです。

患者さんたちが「あんたに命をあずけるよ」と言ってくれるから僕はやる気になるし、周りのひとも支えてくれているし、自然に地域医療をやっている間に、恩ができ、返す恩がだんだん増えると、面白くてやめられなくなります。