FM三重『ウィークエンドカフェ』2021年3月13日放送

蔵が並ぶ勢田川沿い。伊勢河崎の町。
今回は『伊勢春慶の会』の神戸和幸さんがお客様です。
工房で、漆の塗り作業に精を出します。

慶塗は木目が見える塗り方

漆塗りにもいろいろあるのですが、『春慶塗』は木の木目が見えるような塗り方です。
輪島塗などもありますが、木目が見える塗り方を『春慶塗』と呼びます。
メジャーなところでは飛騨春慶、それから能代春慶などがあります。
伊勢春慶はもともと、普段遣い。
伊勢神宮の20年に1度のご遷宮がありますが、そのときに余った木や端材を使って、箱などを作ったのが始まりと言われています。
私どもでは、鎌倉時代から作られていると聞いています。
ですから、ご遷宮のときに余った木、それを捨てるのがもったいないので箱を作りましょう。
ただ、檜の箱の中に色々なものを入れると水を吸い込んでしまってだめだということで、漆を塗って、長く使えるようにとしたのが伊勢春慶の始まりだと言われています。
あの色を出すのに私どもはずっと苦労しているんんですが、色と同時に鏡のような、顔が映るくらい綺麗に作ることができるよう、努力しています。
おそらく江戸時代が一番栄えていたと思いますが、昭和30年代頃からプラスティック製品に変わってきたので、衰退の一途をたどり、ほぼ伊勢でもなくなりかけていたところで、私どもの『伊勢春慶の会』会長の村田典子が、約20年ほど前に、昔の伊勢春慶を復活させようということで始めたのが『伊勢春慶の会』です。

 

処理が大変。最後の上塗りは1回塗りで難しい

1つの作品が出来上がるまでは3〜4ヶ月かかります。
手間暇かけて作業を進めていきます。
春慶の場合はそんなに何度も塗り重ねることはありません。
ただ下処理として、摺漆を刷り込んで3度も4度も繰り返して、最後に上塗りをします。
上塗りは春慶塗の木目をきれいに出して塗るという工程になります。
それが最後の1回だけ、1回塗りなので、それが一番難しいところです。
むらが出ないように、全体に均一に伸ばして、なおかつ鏡面を出す。
中にいっぱいゴミが出てくるので、それを綺麗に取る。
そのあたりがとても難しいです。
漆はなかなか乾かなくて、本来だったら1ヶ月くらい寝かしておかないと乾かないのですが、表面はすぐに乾きだします。
全体に均一に広げて、表面に乗っている浮遊ゴミや漆の中から出てくるゴミを取るのが、一番大変な作業です。
ですから、固まる前にそれらを全部取ってしまうのが、一番難しいところですね。

 

ろは25℃、湿度80%で調整されている

漆を乾かす押し入れみたいな場所を『むろ』と言います。
この中にだいたい1ヶ月くらい置いておきます。
そうすると漆って、乾くのではなく、空気中の水分を吸って固まります。
それを促進するための押入れみたいなものです。
最後の塗りだと1ヶ月、途中だと1週間くらい乾かします。
木というのは呼吸します。
中が意外とカラッとしてしまうので、室内に水を入れて、湿度が上がるようにしています。
気温がだいたい25℃で湿度が80%くらい。
これが一番漆が乾くと言われていますので、その状態を作っています。
その土地々々の気候に合わせて手を打って、冬だと気温が上がらないのでストーブを入れたりします。
人間よりも商品のほうが丁寧に扱われています。

 

り直しもできる。角が欠けても味になる

代々、家で大切に使われてきた漆器ですから、その塗り直しの依頼も多くあります。
春慶は剥がれても塗り直しが利くんです。
塗り直しと言っても簡単にはいきませんし、同じくらいの時間がかかりますが。
そうするとまた、角が欠けているとかそういうところが味となって出てきます。
木の温かみをしっかり感じられる商品だと思います。
中には、おばあちゃんが使っていたのを直してほしい…なんて方もいらっしゃいます。
多いのは重箱、それからよく時代劇などに出てくるお膳。
普通のお弁当でも、私どもで作っているお弁当箱だとグレードアップするような気がします。
一番最初にこちらで作った『二段弁当箱』というのがあります。
それが最初に自分で使ったものです。
『男の料理教室』というのに参加していまして、そのときに弁当箱が必要ということで、伊勢春慶の二段弁当箱を持っていきました。
その時先生が、私の作ったお弁当を写真に撮って、「これが一番いい」と言われました。
いまだに思い出します。
若い方は『伊勢春慶』といっても知らないほうが多いと思います。
実は私もまったく知らなかったのですが、こちらにお世話になってから春慶の良さを知りました。
昔からあるものに、若い方も触れて使っていただきたいと思います。
漆塗りは確かにお値段も高いですが、それ以上に木の温かみを感じてもらえると思います。

歴史のある商品だからこそ、日本人が使っていきたいと感じるのだと思います。
そういうところが自分も大好きです。