FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年7月28日放送

今回のお客様は、度会郡大紀町で子どもたちに日本の伝統文化を伝える活動を行なっている『学び舎の会』代表の小倉直子さん。
生まれは尾鷲、大学は東京。
そして都会暮らしを満喫していた小倉さんが家族でご主人の実家、大紀町柏崎に引越してきてから、長い年月が流れました。
小倉さん、田舎暮らしいかがですか?

■15年が過ぎて気づいた、田舎の良さ、柏崎の良さ

こちらに越してきたときは、別に田舎が嫌ではないのものの、ずっと住んでいくのはちょっと・・・と思っていました。

うちの子どもたちは「こんないい所ないよ!」と言って育ったんですが、私と主人は、「いや、こんなとこずっといたくない」と(笑)
でも15年ほど経った時に、「なかなか良い所かな」と。
いつの間にか、だんだんと自分のライフスタイルに合ってきたのかもしれません。
子育て中は、ピアノの発表会でも松阪まで行くとか、教育の面でも人数が少ないとか・・・子どもに申し訳ない気持ちがありましたね、
でも、子どもが嬉しいと言ってくれたので、良かったかなと。

以前は、住まいは柏崎で、仕事場は大台町で設計事務所をしていたんです。
朝起きると働きに行ってしまい、帰ってくるのは夜なので、半分いないような感じでした。

そんな中、おじいさんが亡くなったこともあり、すべてを柏崎に戻したんです。
事務所もこちらで改装し、さらにギャラリーも始めました。
その頃から、人との交わりがスムーズに行くようになってきたんです。
とても実のあるお付き合いというか。
みなさん優しいし、自分があることに関わると、それがすぐに伝わって戻ってくる。
これは田舎ならではなんでしょうが、人間関係が密なのが良いですね。
以前は人間関係の密じゃない都会が良かったはずなのに、今では、これはこれで良いなと(笑)


■地元の子どもたちに茶道教室

40代後半に、設計事務所を大台町から柏崎に戻した時点で、少し仕事が減り、自由な時間が持てるようになったのです。
この分だと、老後はお茶でもしてのんびり暮らせるんじゃないか、と思って、お茶を習い始めました(笑)

茶道の世界に入って行くと、習い始めの3年ですごい吸収してしまうので、浅はかなことに、何でもできるように思えてしまうんですよ。
今考えると恐ろしいですが(笑)

でも、それからも(茶道の)先生が大事にしてくれるので、そのまま学んで。
ある日、先生が尾鷲中学に学校茶道を教えに行っていたので、一緒に付いて行って、歩き方の見本をしたり助手的なことをしたんです。
そこには、少し障がいのある子どもさんがいたのですが、その子たちが先生に抱きついて、お茶を立てて喜んで・・・。

素晴らしいと思いました。

もし携わることが出来るならしてみたいな、と考えていたところ、ちょうど当時の南島町の小学校から、先生に依頼が来たんです。
高学年の3クラスをいっぺんに、お茶、お花、作法を、何回かのコースでいろいろ教えるというもの。
そこで一年間、助手として学ばせてもらいました。
そのうち、自分でもやろうかなと思い、地元の小学校の校長先生にお願いしたところ、快く承諾。
案内の用紙も全校配布してくださいました。
その時の申し込みは10人くらい。
それからもう6年経っています。

現在はそれとは別に、子どもたちに月に1回、それぞれお茶や作法を教えています。
季節のお菓子、浴衣の着付け、ふろしきの包み方・・・。
幼稚園や小学生の子どもたちは、古民家を改装して作ったギャラリーで、楽しく学びながら自然に二十四節気も覚えていきます。
教室に飾ってあるお花や掛け軸など、どれも教材なんですよ。

子どもたちは、春の桜、秋のもみじの季節になると町内のみなさんをお茶会に招待します。
お客様の人数は100人~200人ほど。
小学生と中学生がコンビになって、お客様をお迎えするんですよ。
裏方では子どもたちのお母さんがお手伝いしてくださるんですが、お子さんから日本の伝統文化を教えてもらっているお母さんも多いらしいです。


■落ち込んだときは先生からアドバイス

いつも元気と言われる私ですが、落ち込むときもありますよ。

私は児童クラブの指導員もしているので、そこで『お茶ごっこ』というのを始めてみたんです。
茶道のちょっと簡単な体験版のような感じで。
10人ほどの児童の半分は経験があり、半分が初心者なんですが、私は学童の指導員も6年目。
この子たちが保育園の時もお茶の指導に行っていたので、みんな知っているはず。
けっこうスムーズにいけるよね。
・・・と思っていたら、落とし穴がありました。

子供たちがふざけはじめちゃったんですよ。
どうしよう、と。
学童の先生の立場の時は、けっこう怒るんですけど、ここでは『お茶の先生』。
ふざけるのもどんどんエスカレートしていくし・・・。

「これはだめだ、私には能力がない」と落ち込みました。

この子たちを怒るのではなく、いかに興味を持たせて楽しくさせるのか・・・わからなくなりました。
2回目でやめようかなと思ったんですけど、「続けて欲しい」という子が一人いたんです。
でも本当に落ち込んでしまって、先生に相談すると、

「したいって子が一人でもいたら、お釜を持ってお茶立ててれば飲みに来るわよ。
来たくない子は放っておいて。きっとそのうち『面白そうだな』ってみんな来るわよ」

ああ、やっぱり年季が違うな、と思いました。
今は、ちょうど落ち込みから回復して来たという状態です(笑)
私は落ち込むとめり込むほどで、そこにまた塩を塗って傷めつけるタイプ。
そこからボンッ!と上がってきたので、今が一番揚がっているとこです(笑)

これを無理だとやめてしまったら、今までしてきたことまで否定することになるので、今は無理のないように、その子たちに合ったところでやっていくつもりです。


■茶道は譲り合いの精神

着物や作法などの日本の伝統文化には、心があります。

お茶の世界にも心ががいっぱいあるんですよ。
お菓子いただくときも「お先に」と挨拶することで、子どもたちにもに譲り合いの精神が生まれます。
お茶は出されても、すぐには飲みません。
時間がないときは「お先に」とだけ言い、時間があれば「ご相伴させていただきます」と言います。
茶道を習っていると、小学校2年の子どもさんも言うんですよ。
それから「お先に失礼致します」、そしてお茶を点てて下さった方に「お点前頂戴いたします」、つまり3回感謝していただくんです。
お茶をいただくときも、正面を避けて飲み、ちょっと拭いて戻して、初めてそこでお茶碗を眺めます。
そしてお茶碗を取りに来た方に、正面を正して渡す。
茶道というのはつまり、相手のことしか考えていない世界なんですね。
常に自分が自分がではなく、相手のため。
お茶を点てる人も、もちろんそうですし。
そういうのが知らず知らず、刷り込みではないけれど、身に入ってくるのが『茶道』なんです。

作法から行動が伴っていき、優しくなっていくんですね。