FM三重『ウィークエンドカフェ』2021年7月24日放送

伊賀市上野鉄炮町。
ここに機械織りの伊賀組みひもを作っている『糸伍株式会社』があります。
糸伍では、染色から組みあげまで一貫生産をしています。
およそ50台の機械が作動する日本でも最大規模の、機械織り組紐メーカーです。
伝統を守りながら新しいことにチャレンジしているのが四代目の松田智行さん。
開発したのはくみひもマスク。
1年半かけて去年、商品が出来上がりました

物に似合うマスクを作りたかった

実はコロナになる前から開発を進めていました。
100万、200万の着物の上に不織布のマスクをしている姿を京都でよく見かけるうちに、着物に似合うマスクができないかと開発を始めたところ、こういう世の中になったため、急遽開発スピードを上げて、組紐マスクが完成しました。
着物に似合うマスクを作りたいというのが開発の出発。
ですから、着物だけではなく男性のスーツのワイシャツにも合わせやすいよう、色の展開もしました。
何回試作したかわからないくらい作り直して、いろいろなマスクをサンプルで購入しました。
小顔の効果がどうしたら出るか、男性でも顔の小さい方や鼻の高い人、低い人…いろいろな顔にフィットする型をどうすれば良いのかが、一番苦労をしたところです。
裏に使うガーゼから耳にかけるゴム紐まで、いくつ試作品を作ったか…かなりの数を試しました。

 

びやすくほどけにくいので靴紐に向いている

これは靴紐なので、濡れても大丈夫です。
マスクもそうなんですども、ポリエステルで作っているんです。
絹ではないんですね。
ポリエステルの色見本帳だけで450色くらいあります。
それを組み合わせて作っているので、組み合わせは無限大にあります。
組紐の特徴として、結びやすくほどけにくい。
それに加えて引っ張ってもと丈夫なんですね。
それってすべて、靴紐に向いているなと気づきまして、それでチャレンジしようと始めました。
伊賀くみひもの特徴としまして京くみひも、江戸くみひもと比較したときに色鮮やかなんですね。
我々は『配色美』と呼んでいますが、その配色美を生かした靴紐を作りたいということで、いろいろ配色を研究して、ここにあるような商品が完成しました。
我々でテストをしたところ、1ヶ月間1度も解けていないです。
伊賀の女子サッカーチーム『くのいち』さんで、使ってくれていまして90分間の試合で選手が走り続けて、一人も解けなかったという実証データも出ております。
マネージャーさんからも、普段だと必ず結び直すシーンが一試合で何回かあるのに、こちらに変えてから1回もなくなったと喜んでおられました。
特にうちは今、スポーツに力を入れていまして、引張強度試験でも最初から靴についている靴紐に比べて、強度が1.8〜2倍くらいの強度を持っているのが工業試験場で確認されています。
スポーツで靴紐が切れるという話を聞いており、選手にとっては致命的ですので、そのあたりをケアできる商品になっていると思います。
それから今回、京都のボディケアカンパニー『ファイテン』とコラボすることになりました。
ファイテンさんの技術を靴紐に適用することになりまして、アクアチタンの技術を浸透させた靴紐を開発して発売しています。

 

械は自分たちでメンテナンスをしている

糸伍株式会社は、今年で創業67年になります。
年間8万本を生産する機械は、職人さんたちが大切に扱ってくれています。
弊社は機械織り100%で手織りはしていないのですが、組紐を織るための機械はほぼ揃えています。
現存する機械織りは、いろいろなパターンすべてできると思います。
マスクを作ったときに幅広い生地を作れるようになったので、マスクとセットのかばんを作りました。
ちょうど、お財布と水筒が入るサイズとなっています。
こういうものも展開していきたいと思っています。
もともと15mmくらいの幅の組紐を作る機械ですので、9cm〜20cmという幅の広い生地を作れなかったんです、元は。
このマスクを作るときに機械を改造しまして、幅広いものがうちでも作れるようになったんです。
メーカーさんはもう廃業されていて存在しないので、全部自分たちでやります。
大変です。
作っているメーカーさんがないものが多いので、今ある機械を直して直して、使い続けていくという…大変です。
部品が売っていないので、全部鉄工所で作ってもらって。
紐を織るだけではなく、機械のメンテナンスも全部職人さんがしてくれているので、とても感謝しています。
回織りなので、ボタンを押したらすぐに組紐ができると思われることが多いですが、機械組みであっても手織りであっても、機械にかかるまでの工程というのは全部同じなんです。
機械にかかってもやはり職人さんの技がないと、ちゃんとした組紐が織れないので、とても手間ひまがかかります。

 

ルクを購入し染色 よりをかけて組紐を作る

シルクを買うところからスタートします。
その仕入れたシルクを、注文をいただいた組紐の太さに合うように合糸をしていきます。
例えば完成品の組紐に絹が200本使われるとしたら、その200本を合わせないといけない。
そこからスタートしまして、次に縒りをかける作業をします。
撚りとは何かというと、絹糸をねじるんです。
ねじることで組紐の風合いが出る、また静電気でふわっとなったりもしないとか、いろいろなメリットがあります。
縒りをかけた後に、染色に出します。
シルクを注文いただいた色に染めて、一日くらいかけて乾燥させて、それを1回、木の枠に巻き上げるんです。
巻き上げたところで今度はゴビンに糸をセットして、そこからようやく機械にかかるという工程となっています。
最初の工程から機械にセットするまで、最短でもだいたい4日かかります。
色見本帳が送られてきて、この色で組紐を作ってくださいとの依頼があると、我々はそれを染めて、完成品にします。
和装業界の低迷がほんとうにひどいので、毎年アイデアを出しては組紐以外のもので何かできないかと、考えています。
昭和50年頃は和装業界全体で1兆円産業でした。
当時のお金で1兆円です。
今はもう、3千億を切っているので、1/4ほどになっています。
とにかく靴紐を、今年来年はいろいろな人に使っていただくために営業していこうと思います。
引き続き、トップアスリートで使っていただいている人のケアもしっかりしていかないといけないと思っています。

日本には古くから「結び」の信仰がありました。
魂を込めてものを結ぶ。
組紐が時代と時代を結んでいきます。

無限の可能性も秘めていますし、人と人を結ぶことのできる組紐であってほしいですね。