FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年8月11日放送

今回のお客様は、四日市日永で古くから伝わるうちわ、『日永うちわ』を作っている『稲藤』のご主人、稲垣嘉英さんと奥様の和美さん。
伝統工芸品である、『日永うちわ』の歴史などをお聴きしました。

■『日永うちわ』は元禄年間発祥!『日永三大みやげ』の一つ!

『日永うちわ』は今から300年ほど前の元禄年間、江戸時代中期からはじまったといわれています。
そもそも日永は東海道に面した往来が激しい場所で、行き交う人も多かったため、『3大みやげ』がありました。
それが『日永足袋』と『永餅』と『日永うちわ』。
永餅は、日永の『永』から取った『日永餅』が正式名称なんですよ。
この3大みやげは、こぞって人が買い求めたということです。

残念ながら『日永足袋』はもうなくなっています。
興正寺というお寺の隣にある『加藤テーラー』さんが『日永足袋』だった場所だそうで、今も加藤テーラーさんに行けば、技術も資料も残っているんですよ。

私ども『稲籐』の旧店舗は旧東海道の南市場にありまして、今から131年前に開業いたしました。
『日永うちわ』のお店としては、一番若く、最盛期の一番最後にできたうちわ屋でした。
最盛期には十数軒のうちわ屋があり、土産物屋の中に混じって、軒を連ねていたといいます。
しかし『稲藤』が、今や最後の一軒。
最盛期の最後にできた店が、最後まで残ってしまいました。

ここ日永は『日永の追分』と呼ばれていまして、ここから伊勢参りに向かう人と、東海道の京都大阪方面に行く人と別れる場所だったんです。
両方がここ日永に集まってきますので、一日中ひっきりなしに人がいて、一日の往来は数万人だったと言われています。
いかに栄えたか、この数でもわかりますよね。



■「しなり」が『日永うちわ』の命!

『日永うちわ』の成り立ち・・・天白川や鹿毛川など、地元のこのあたりの川岸に、たまたま良質な竹が自生していて、それを原料に使えたというのと、農閑期の農家の人の内職仕事として発達したようですね。

うちわといっても全国いろいろ形があって、大きな竹を割いて使うのもあれば、『日永うちわ』のように持つところが丸い、棒のまんまのものもあります。
平柄うちわは、主に四国の丸亀で作られています。

ウチのうちわは持つところが細くて丸くて、使う材料も全然違うんです。
釣竿にも使われる『女竹』を使っているため、よくしなる。
この「しなり」がうちわとしてして、良い風を送ってくれるんですよ!
「しなり」こそが日永うちわの命だと思っています。

また、仰ぐのも、やはりゆっくり仰いでもらった方が・・・パタパタと忙しく仰ぐのは却って暑苦しいですね。
優雅にふわっと仰いでも風が来るのが、『日永うちわ』。
しなりが風を呼んでくれる。
ゆったり仰いで風が来なかったら、『日永うちわ』じゃありません。

平柄うちわは平面的に骨を割いているだけですが、『日永うちわ』は丸い竹から、そのまま骨を編み出しているので、前からと後ろからと立体的に合わさって、扇になっているんです。
食い合わせる時に反ったりヘタったり・・・なかなか仕上げが難しいんですよ。
そこをうまく綺麗に仕上げるのには、熟練の技が必要なんです。
すべて手作業で、昔から何も変わっていません。
形も変わらず、作り方も変わらず・・・一本一本手作りでございます。



■天気によって仕上がりが違う!

(語り:和美さん)

今ではうちわの手づくり教室も開講しているほどですが、もちろん最初は作れませんでした。
お嫁に来て、まず始めたのは「うちわ張り」。
商売をしている家なもので、これから関わっていかないとなあ、と。

うちわの難しい点は、お天気によって仕上がりが変わるんですよ。
エアコンがガンガン効いた中では良くないんので、暑さを我慢しながらの作業です。
乾かし方も重要で、ノリも濃すぎても良くないし、それでも竹自体の太さによってノリの濃さも変えたり・・・ほんとに一本一本、違いますね。



■『日永うちわ』がフランスへ進出!

他のうちわとの差別化を図ろうと、色々なうちわを作り出しました。
最初に作ったのは、柄の部分を生かした笛つきのうちわ。
他にもいろんな付加価値のついたうちわが作ってきましたが、ようやく念願のうちわが完成しました。

それが『香るうちわ』です。
こう、仰ぐと香りが広がる・・・というのが、永年の夢だったんです。
昔から試行錯誤して、扇の部分に香りの成分を入れみたり、ノリに混ぜてみたり。
一旦出来上がったものの、その香りが長続きしなせず消えてしまった経緯もありまして。
今回ようやく完成したんです。

今回の『香りうちわ』は、買った時には匂いがしないんです。

商品を開けると、中にはオイルとスポイトの香りセットが入っています。
このスポイトで、『日永うちわ』ならではの空間に入れてある『香り玉』にオイルを垂らします。
この『香り玉』は、アロマに使う珪酸カルシウムでできてまして、吸水性が良く、オイルをぎゅっと中に閉じ込めてくれるんですね。
そして仰ぐと、香りがほのかに出てくるわけです。
香りがなくなったら足せばよいし、香りの強弱も調整できます。
また、お客様の好みで自分の好きな香水に変えることも出来るんです。

この商品が『日永うちわ』の火付け役になりました。

この『香り』を生かし、仰ぐ文化はないけれど香る文化のあるフランスで、今年開催された工芸ルネッサンス・プロジェクト『Future Tradition WAO』に出展しました。
ただ、フランスは「暑いから仰ぐ」というニーズがあまりないんです。
夏は北海道の夏ほどで、エアコンを付けるまでもないくらいな気温なので。
うちわの文化はないけれど、香る文化は昔からあるので、ここに食い込んでいけないかな、と。

また、香りのオイルには虫よけの効果のあるものがあり、人には心地よいけれど虫は寄ってこない香りがあります。
これを『虫よけうちわ』として、『香るうちわ』シリーズの別格という形で販売しています。

『稲藤』が辞めてしまったら、『日永うちわ』そのものがなくなってしまうんです。
やめるにやめられない状況ですので、その使命感から、何としても火は絶やすまいと思っています。
しかし、残すからには商売としても成り立つものでなくては・・・そういう思いから、新しい『日永うちわ』ができたと思いますし、さらに考えていきたいですね。