三重テレビ『ゲンキみえ生き活きレポート』2022年1月9日

江戸時代、印籠や煙草入れなどの提げ物を携帯する時の留め具としてうまれ、やがて精緻な工芸品となった根付。
伊勢根付職人の梶浦明日香さんは元テレビキャスター。取材を通じて根付の魅力を知り、伊勢根付の職人へ転身!
番組では2018年にも取材を行い、今回4年ぶりの再取材。
2018年は、師匠である中川忠峰さんの工房での取材でしたが、現在は四日市市に自身の工房を構え、製作に取り組んでいます!
若手職人グループの結成や、海外でも根付を紹介するなど勢力的に活動を行ってきた梶浦さんだが、コロナ禍でその多くの活動ができなくなりました。
そんな中でどのようなことを感じ、これからに向けてどんな取り組みを目指すのか、詳しく紹介します!

梶浦明日香さん。
もう数えるほどしかいない伊勢根付の職人です。
江戸時代から続く伝統工芸の魅力と歴史を受け継ぎ、次世代に残そうと彫り続けています。

「根付って、使った人とつくる人が一緒に育てていくものなんです。
使えば使うほど『成れ』といって、摩耗して成長していくもの。
使う人が見て嬉しくなるような、大事に持ちたいと思うような根付を心がけて作っています…」

この画像は2018年のもの。
師匠である中川忠峰さんの工房で腕を磨く梶浦さんの様子をご紹介しました。
TVキャスターという仕事を通じて伊勢根付の魅力を知り、その伝統工芸の危機的状況を目の当たりにして、自ら職人の世界へと飛び込んだ梶浦さん。
一生現役、一生成長をモットーに根付を彫りつづける、根付職人・梶浦明日香さんのその後をご紹介します。

 

そして現在。
四日市にある、独立した梶浦さんの工房です。

 

こちらは『さるかに合戦』の根付。
根付は360度彫ってあるので、裏にカニがいるのがわかります。

「本来『さるかに合戦』はこうやって仲良くしてたらおかしいんですけど、みんなが仲良くしたらみんなが分け合って食べられるのに…というデザインなんです」

奥ゆかしい解釈が素晴らしいです。

 

 

奥が深い根付の世界。
ほかの作品も見せていただきました。

 

今年の干支、虎の根付がこちら。

「題名は『虎穴に入らずんば虎子を得ず』。
虎の子どもを彫っているので、虎にしてはちょっと可愛い表情をしてると思います」

 

『アラジンと魔法のランプ』。

 

中を開けるとランプの精であるジーニーが顔をのぞかせます。
こちらはアブダビで開催された作品展のときに作ったもの。
海外では、漆・浮世絵・刀とともに根付は日本の四大芸術の一つとして紹介されることがあるそうです。

 

作品に向き合う気持ちは変わりませんが、梶浦さんを取り巻く環境は大きく変わったといいます。

「私にとって一番大きな変化は、師匠から独立したということ。
職人というのは10〜12年で一人前といわれる世界です。
独立してみてわかるのが、師匠の偉大さでした。
いつもとてもおおらかで陰ながら見守っていてくださって。
師匠から離れて初めて、自分の中にあった、甘えの心を、とても感じる日々になっています」

 

さらに、コロナ禍になった以降も変化がありました。

「海外での展示や販売が多く、評価が高まってきたところで、一気にコロナになってしまって海外に行くことができなくなりました。
展示会や販売網などの自分の中でのいろいろなチャンスを、一度全てリセットされるという経験をしたことで、自分がこの先どうやって行きたいのかを、改めて考えさせられる機会になりました。
私たちが作っているものは機械が作る大量生産のものには敵いません。
だからこそ、根付を作る思いや付ける思い、一つ一つの作品に対する知恵とか知識とか思いみたいなものをちゃんと伝えないといけないと思います。
職人が蔑ろにしてしまっていたかもしれないその部分が、コロナで会えないからこそとても重要に感じるようになりました。
そこでyoutube やブログで発信し、ネット販売も自分でも始めました。
そういう形で、物にどんな想いが込めてあるのかということを意識するようになりました」

と、梶浦さん。

 

梶浦さんは根付職人として腕を磨く一方、三重県の文化、伝統を次世代へつなげようと、若手職人グループ『常若』を2012年に立ち上げました。

https://tokowaka.jimdo.com

 

そして2017年には、東海三県の若手女性職人9人が集まり、『凛九』を結成。
昨年、日本和文化グランプリ特別賞を受賞するなど、新しい伝統工芸の流れを生み出しています。

https://link-kougei.com/

 

さて、ここで『根付』の身に付け方を。
女性の場合は帯飾りとして、帯に引っ掛けて差すのが一般的です。

 

男性は、右腰の後ろ側に付けます。
着物を着ていると、本来、袖で見えない部分です。

「江戸時代、芸者さんたちが凝った根付をつけていて、通って来てくださる方がそれを見せてほしいけれど、まだ一見さんじゃあ仲良くなってないから見せてって言えないから、何回か通ってその根付を見せてもらったり。
また、自分が贈った良い根付を付けてもらう…特別な関係にならないと見せてもらえないというところから女性の中でもつけて行く人が増えていって、今では一般的にというか、通がそういう風につけてらっしゃいますね」

と、梶浦さん。

手のひらの小さなしあわせ。
職人がつくり、使う人が育てる…。
梶浦さんはその技術と魅力をしっかりと次世代へ刻みつけていきます。

 

「根付などの伝統工芸は、一生成長の職業です。
私が師匠の年になった時に師匠ぐらいの技ができるように、根付の技術を日々鍛錬するということが大前提で、絶対忘れてはいけません。
その上で私たちと同世代の若い職人たちが、職人であることを喜べるような場所や機会をもっと作りたいと思っています。
そのためには一緒に活動し、発信して、伝統工芸と職人の素晴らしさを沢山の人に知ってもらい、私たちの背中を見た若い人がやってみたいと思うようになってほしいです。
そして挑戦する機会を増やし、若手職人の場を作っていきたいと考えています。

コロナの状況次第ではありますが、この夏に大きな展示を計画しています。
その展示では、職人だからこそ、日本人だからこそできる新しい挑戦をするつもりです。
その挑戦をきっかけにして、伝統工芸の大きく新しい可能性を生み出す一年にしたいです!」

梶浦さんの根付をはじめ、伝統工芸の世界に触れてみたい方はサイトへどうぞ!