FM三重『ウィークエンドカフェ』2022年2月19日放送

松阪魚町。ここに「丹波屋」を屋号とする松阪屈指の豪商、長谷川治郎兵衛の本宅がありました。
建物は、国の重要文化財に指定され、現在は『旧長谷川治郎兵衛家』として一般開放されています。
今回は『旧長谷川治郎兵衛家』の館長・松本吉弘さんに長谷川家を紹介していただきます。

戸日本橋に5つの店舗を構えていた長谷川家。1450坪の敷地

江戸の日本橋、当時の大伝馬町には70軒ほどの店がありました。
江戸末期になってくると20軒ほどに集約されていくのですが、その頃に長谷川家は、一番多いときで5店舗構えていました。
そこに伊勢国出身の人が6割いました。
ここも長谷川のビルがあったり、小津のビルがあったりといった場所でした。
今日見ていただくのは、1450坪の敷地です。
一度上に上がって、それから一番大きな蔵の展示場を見て、庭も見ていただきたいと思います。

2月3日から3月3日まで、ちょっと昔の雛人形を飾っています。
ここにあるのは、長谷川の雛人形です。
豪華な感じですよね。
1つ1つ丁寧に金具が付けられていたり、揃えてある道具も非常に豪華なものとなっています。
ご当主の奥様の幼い頃のお雛様と言われています。
とっても華やかですよね。

 

物も庭も自慢で、見応えあり!

ちょっとガラスを見てください。
古いタイプの大正ガラスで、揺れている感じがするでしょう。
手作り感があり、あたたかい感じがしますね。
ここをちょっと開けますと、お茶席の庭になっていて、松阪に5つあるキリシタン道路の一つです。
土と接したところにマリア様が彫ってあります。
この石は『鞍馬石』といって、非常に高価な石が使われています。
非常に雰囲気も良い感じです。
日本の三大商人は、大阪商人・近江商人・伊勢商人。
ここは伊勢商人の家ということで、質素倹約で派手さはありません。
しかし至るところに工夫がされています。
洒落た明かり取りがしてあったり、天井もよく見ると丸くなって四角になって、そしてまた丸くなったり。
非常に凝った細工がされています。
柱も四面無地の柾目の柱を使っていたり、長押なんかでもずっと同じ太さの北山杉で、通常より長い良い気を使っています。
庭も見てください。
東大寺の大きな柱を支える基礎が使ってあったり、非常に古い灯籠が使われていたり…ここの眺めもとても素晴らしいと思います。

 

番大きな蔵はいつも展示場にしている

現在残っている蔵は5つ。
その中でも一番大きいのは門扉にベンガラが付いた、お洒落な蔵なんです。
一軒の家よりも大きかもしれませんね。
二階もありまして。
ここを展示場にして、市民のみなさんや観光客の方に見ていただくという施設になっています。
ここでは現在、長谷川家の女性たちをテーマにした企画展『長谷川家の女性』を開催しています。
ちょっと華やかな感じがして、お客さんにも喜んでいただいています。
ここが火事で焼けていないということもあって、書籍から日用品などの資料類が87,000点保管されています。
それを、ものが傷まない期間の3ヶ月を目処に、順次展示しています。
みなさんに伊勢商人・松阪商人を知ってもらえるような工夫をしています。
ここは背が高くなっていますが、もうちょっと小さくて池が見えたり、お城が見えたりというふうな形で、非常に良い庭だと思います。
秋の夜はライトアップしますので、池に映る紅葉もとても綺麗だと思います。

 

戸時代から平成までずっと使われてきたものは温かさを感じる

340年という長い時間、ずっと手入れをされてきました。
中に入ると、ほっと落ち着く空間で、あたたかさを感じます。
ずっと使われていたものが身の回りにありますので、それも江戸時代から、明治・大正・昭和・平成…と、時代の中で使われたものがまだ残っています。
人が使っていたという雰囲気があるので、それがまたあたたかさを感じることができるのかな、と思います。
作り物ではなく、実際にここで最近まで使っていたものですからね。
現在も毎年、お正月飾りを再現しています。
そういうのもいろいろ残っていますので、いったん切れているのではなく、連綿と続いた様子を、ここに来るとうかがうことができます。
煤けた物が残っていたりします。
こちらにあるのは1000人分、ご飯を炊くことのできる釜です。
伊勢参りですと、一日多いときで20000人くらいの人が通ります。
宿に泊まることができない人たちは河原とか橋の下で休まれることが多いのですが、食事に困りますよね。
そういうときに大店の人たちがおにぎりを作ったり、お味噌汁を作ったりしてふるまったわけです。
どの大店もされていました。
その名残がいまでも残っているんですね。

ものからいろいろな情報をいただくと、豊かな気持ちになりますよね。
それをここで体験できるので、たくさんの人に伝え、次の世代に伝えてバトン立ちするために、日々、がんばっているところです。