FM三重『ウィークエンドカフェ』2022年5月7日

カランコロン。
聞こえてくるのは下駄の音。
今回は、大紀町で下駄の製作販売をする『TARD(タード)』の田所直さんがお客様です。
TARDの下駄の特徴は、足に優しい鼻緒と様々な木を使っていること。
田所夫妻の心配りが随所に見られます。

京から大紀町に9年前に移住。製材の仕事から下駄づくりへ

9年前まで東京で妻と暮らしていて、こちらに来て木に携わる仕事をはじめて、今は下駄を専門に作っています。
こちらに来てから子どもも生まれて、家族で楽しくやっています。
ここは大紀町野原という集落なんですが、ここにある工務店兼製材所で働いていました。
その頃は杉やヒノキなどの木を使って、製材の仕事をしていますた。
実際には山の中を見ると杉やヒノキだけでなくいろいろな酒類の木があって、そのほとんどが『雑木』とひとくくりに扱われているのが現状でした。
実際は魅力的な木が多々ありまして、それらを下駄にして、妻が鼻緒を作っています。
隣の人が下駄を履いて歩いているのを、妻がたまたま見て、可愛いから下駄を作って、と言ってくれたのがきっかけです。
実際に作ってみたら可愛いものができました。
そして妻がもともとずっと、アフリカの布を使ったバッグなどのものづくりをしていたので、鼻緒を作ってくれて。
他の人ならできないようなものが、夫婦でならできるなということで、下駄がいいねと。
木だけだと、何十年もされている職人さんにまだまだ及びません。
ですが、こういった布と組み合わせたりという中で、自分で独立してやっていけるかなと考えています。

 

桐の木ではなく固い木を使って長くはけるようにしている

昔ながらの下駄は桐を使ったものが有名だと思います。
桐はたしかに軽い木なんです。
日本では沖縄のデイゴに次いで、二番目に軽い木なんです。
その軽さが、昔の舗装されていない道ではとても良いことだったのですが、今のように道途が舗装されていると、一方で軽い木はすぐに磨り減ってしまうという弱点があります。
それもあって、硬い木を使って、今の道路でも長く使ってもらえるようにとしています。
例えば桜やケヤキ、栗といったような一般的に馴染みの深い木、みなさんがお好きな木も人気がありますが、聴いたことがないかもしれない木…ヒメシャラとか栴檀の木も、それもあで知らなかった人に実際に触ってもらって、気に入っていただくこともあります。
このヒメシャラは標高700mくらいのところで自分で採ってきたものなんですが、本当に山深いところから、1時間以上引きずって運んできたものなので、自分の中でも思い入れがあります。
その苦労をお客様にお話することではありませんが、お客様が見て「可愛い!」と言って気に入ってくださると、とても報われるというか、嬉しいです。

 

の部分は時間がかかるがこだわりを持ってやっている

下駄は裏の部分を綺麗にノミで仕上げることが、美しさに大きく影響します。
以前そのことを人から聞きました。
やり始めたときはあまりわかっていなかったのですが、実際長くやらせてもらうと、本当にそのとおりだな、と。
裏を手を抜いてしまうと、全体に美しくならないので、裏の部分をノミで仕上げるという工程は時間もかかりますし、自分のなかでも特に気を使ってやっている部分です。
ある程度は機械を形を取りますが、その後はノミでずっと、手で取っていくということになります。
一本歯の下駄というと、天狗や山伏が履くような、背の高い下駄をイメージされると思います。
こちらは4cm強の高さで、健康下駄とも呼ばれています。
昔伊勢で、こういった下駄を作っていた方がいらして、それがたまたま近所の家に残されていたので、これは良いと思い、自分なりに改良を加えました。
昔ながらの二本の、みなさんがイメージされる一般的な下駄と、今申し上げた一本歯の健康下駄と、二種類を作っています。

 

重県の山は種類が豊富

三重県は照葉樹と呼ばれる、一年中緑の葉が付いた木が、二本でも有数なほど豊富な地域です。
山の中に行っても海沿いに行っても、本当に珍しい木がまだまだあります。
私自身もそういった木を好きになる前は、一年中ずっと緑の葉っぱを付けている木は同じだと、恥ずかしながらずっと思っていました。
知れば知るほどそれらが違うとわかってくると、ますます山を好きになりました。
地元にはまだまだ木を愛する文化、木を愛する人たちがたくさんいるので、いろいろ教えてもらっています。
宮川上流の大杉谷とかに入っていくと、国有林があり、こんな木があったんだよという話を聞き、すごいなと感動します。
そうですね、マニアの世界です。
突入しちゃいつつありますね。
これだけ木の種類があり、みんな違うというのが面白いです。
しかも自然の中にあり、遠くまで行かなくても、この辺に生えている木、その辺を歩いていたら見つかる木…知れば知るほど違いがまた、わかるんです。
この木はこう成長していきたいんだなとか、この木はこうして生き残っているんだなとか、わかってくるととても楽しいですね。

仕事を作って生活していく…生業という部分を、楽しく子どもたちに伝えていきたいです。