FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年9月8日放送

今回のお客様は、『きほく千年温泉 ホテル季の座(ときのざ)』副支配人の北田真規さん。
公務員を辞めて日本一周の旅を始めた北田さんが、旅の途中で出会った場所が三重県でした。
東京から深夜バスに乗って到着したのが伊勢。
働いていないことを駅前の喫茶店のおばちゃんに叱られ、ハローワークへ。
鳥羽で旅館のお仕事が始まりました。
そして、10年経ったいま、紀北町紀伊長島でいつも笑顔でお客様をお迎えしています。

■旅は旅行と同じ どう演出するかが大切

旅行はいわばハレの日で、旅行をするということ自体が、お客様にとって大事な記念日になり得るんですね。
だから我々は、常にその準備をしておくべきだと考えています。
そのため、ウチの旅館内のどの店でも、マニュアルを作っていないんです。
マニュアルがあると逆に、形にハマったサービスになってしまうでしょ。
マニュアルがないほうが、目の前にいらっしゃるお客様の要望を、それなりに判断して動けますから。

大事なのは、誰かが「こうしてあげたい」と思った時に、まわりがそれに向かって動けるかどうか。
『季の座』では、そういう作り方をずっとしてきているんです。
たいていのホテルにはマニュアルはあるはずですが、あえて、ない方のメリット・・・もう一歩お客様に踏み込んで行けるような接客を目指しています。

旅館というのは、映画と一緒なんです。
『旅行』というものに対してお金を出していただいて、泊まっていただいて。
映画は役者さんが演じる事によって感動したり、泣いたりするでしょう?
それと同じです。

お客様が、旅館に一歩入っていただいた瞬間から、僕らは『旅館の人間』を演じ、『旅館』というセットの中で、いかに旅行を楽しく演出するか・・・それが仕事です。
なのでマニュアルは逆に邪魔になるんですね。
ストーリーはお客様が決められることなので、僕らはその都度、旅館の人間として臨機応変に動いたほうが、気持ちが伝わると思うんです。


■たくさんのアルバイト経験で得たもの

旅のスタートは北海道でした。
牧場で乳搾りもしましたし、ウエスタンショーにも出演しました。
撃たれて屋根から落ちる役で、一日3回、屋根から落ちるんです(笑)

他には、除雪車の前を車がないか、棒をつついて歩く仕事もしました。
雪で何も見えないので、車や自転車を巻き込まないようにするんですよ。

それから選挙運動のお手伝い・・・どこで何を演説するかという原稿を書いたり。

本当にいろいろやりました。
今の仕事に役立っていることといえば・・・配管屋さんかな。
配管の理屈が頭でわかっているので、お客様のトイレが壊れた時、他に空き部屋がない場合は、パブリックのトイレをはずして持って来て、トイレごと付け替えたり。

たくさんのアルバイトで得たことは、「あきらめない」ということ。
世の中には「○○屋さん」という職種の人がいるわけです。
例えば、水道が壊れたら水道屋さん・・・その人たちは壊れても必ず直せるわけです。
ということは、僕らが直せないという理由もない。
仕組みさえわかれば、誰かが直せるものなら、僕でも直せるはず。
何かが壊れても「あきらめよう」という気にならなくなりました(笑)

あと、東紀州に来て思ったのは、この地に根を生やした人たちが多いということ。
僕は根はなくて、フラフラと風吹かれて飛んできました。
でも僕のいろいろな経験が、根を生やしてがんばろうとしている人たちのお手伝いになるんじゃないかと思います。
根から林を作っていこうとしても、落ち葉が溜まっていくと腐っちゃうでしょ。
僕ができるのは、風を吹かせて、いらない葉っぱを飛ばすというお手伝い・・・面白いです。


■スタッフは家族

スタッフ全員に対して、『平等』ということに、とても気を使っています。
全てのスタッフに同じように接するというのは、男性ばかりの職場にいるよりも気を使うと思いますね。
女性だと「誰々さんは誰々さんにだけ優しい」というのが後々になって響いてくることがあるので、その辺りは特に。
あとは些細なこと・・・例えば、「髪の毛切ったね」とか、そういうことでも必ず声をかけるようにしています。
結局はスタッフが気持ちよく働いてもらうために、我々がいるようなものですからね。

旅館業は、他の職種よりも一緒にいる時間が長いですから、もう家族のようなものです。
そもそも、旅館そのものが、自分の家に大切な人が泊まりに来るような感覚なので、そこで働くスタッフはみんな家族ですね。
スタッフは寮住まいなので、もう感覚的にも家族。
若い子たちが風邪を引いたりしたら、面倒を見に行きますし。

後ですね、例えばスタッフが交通事故や自動車事故に遭った時、普通は親に連絡するんでしょうけど、まずこちらにかかってくるんです。
「こちらにに連絡して来たら何とかしてくれる」的な意識があるんでしょうかね。
そう思ってくれるというのは、良い環境ということなのかな。
台風などの災害時も、普通はみんな家にいるんでしょうけど、みんな事務所に集まってくる・・・そんなとこも家族的ですね。


■インターンシップの大学生が可愛い!

この夏は、長期のインターンシップの大学生を迎えました。
向こうも勉強しているんでしょうが、僕らも勉強させてもらっています。
彼らの発見を聞いているのが楽しいんですよ。

まだ20歳過ぎで、みんな若いでしょ。
行き詰まって困って立ち止まっている時に、ポンと一言かけただけで動き出すんですが、その動きがどこに向かっていくかが全然わからないんですよ。
例えて言うならビリヤード。
どう弾けるか、どのポケットに入るかわからない。
しかし、穴に入っていけば出口はひとつなので、目的を一つ決めてあげれば、あとは自由に。
「俺は絶対そっちには飛んでいけへんわ」という方向に飛んで行っているのを見ると、すごく面白いです(笑)

インターンシップの学生が言い出して、実際はじめたのが、1000食のバーベキューを販売すること。
そして、今は、一番売れる8月を過ぎた今、どうしたら売れるのかを模索中です。
1名は、新商品を開発しています。
通常の販路で、他の企業さんとコラボしてやっていくというのを一生懸命やってますね。

もう1名は通販を考えていて、食べに来なくてもそれを外部へ売ってくという方法で、商品を作っています。
それぞれの業者さんと話しをするのも、本人たちにさせています。
その行動力と、行き詰まるところが可愛くて(笑)

すごく小さなところで詰まるんですけど、ポンと押してあげるとまたダッシュで走り始めるんです。
その感じがすごく新鮮。
ペース配分なしの全力ダッシュ。
僕の仕事は、途中で息切れしそうになったら、水をあげるみたいな。
最後の目標に辿り着くまで、エネルギーを足してあげることですね。
基本はほったらかしです(笑)