三重テレビ『ゲンキみえ生き活きレポート』2022年6月19日

熊野市神川町のみで産出される希少な石「那智黒石」は主に黒の碁石の原料として使われ、熊野市が誇る特産品のひとつ。
この「那智黒石」の採石・加工技術を受け継ごうと、2021年11月に就任した、地域おこし協力隊の山本恭平さん(大阪出身)が、「熊野那智黒石協同組合」の加盟業者の職人から指導を受け、現在、技術の習得に奮闘中!
地域では少子高齢化が進み、組合に加盟する事業所も今は5軒に減少。
担い手不足が懸念されているため、山本さんの今後の活躍に期待がかかっています!

山本恭平(やまもと・きょうへい)さん。 
大阪出身の25歳です。
那智黒石産業の事業継承を目的に募集していた熊野市の地域おこし協力隊として、2021年11月に熊野市神川町(くまのし・かみかわちょう)に着任。
現在、『熊野那智黒石協同組合』に従事し、神川町だけで産出され、碁石(ごいし)の原料となる『那智黒石(なちぐろいし)』の採石、加工に携わっています。

 

「沖縄県の芸術大学で、彫刻を専攻していて、木とか粘土とかいろいろな素材を加工しましたが、石が一番ロマンがあると思い、石に関わる仕事に携わりたいと思っていました。
父親から三重県の熊野市に採石場で仕事を募集していると聞き、応募して採用してもらいました」

 

そもそも『那智黒石』は熊野市神川町(かみかわちょう)だけで産出される粘板岩(ねんばんがん)の一種で、黒の碁石(ごいし)の99.9%は、この那智黒石から作られています。
その歴史は古く、平安時代には硯の材料として使用されていたと言われています。
現在は、『熊野那智黒石協同組合』に所属する5軒で、熊野を代表する特産品の、歴史と工法を守り継いでいます。

 

朝、山本さんの出勤時間です。
採石場までの通勤はこちらのバイクで。
道中はかなり山深く、自動車ではなくバイクで向かうのも納得です。

 

採石場に到着。
この山中で採石をするとのこと。
お隣にいらっしゃるのは、『熊野那智黒石協同組合』理事長で『田野那智黒石店』の田野栄一さん。

「碁石のもとをメインに、採石・加工をしています。
採石場を持っているのはうちともう1軒、2業者だけで、那智黒石協同組合に組合員さんに今、5業者になってしまいました。
後継者不足の中、担い手の育成を図ろうと、山本君に『地域おこし協力隊』として来てもらい、那智黒石を育てていこうという取り組みを行っています」

と、田野さん。

 

これからするのは石を選別する作業。
正直、とてもたくさんの石があり、どれが剥いている石なのかわかりません。

 

石は尖って割れます。

「基本的に粘土が固まった石で、するどく切れて割れてしまうというのが欠点と言えば欠点です。
それを利用してこのように割っていきます」

 

筋がほとんどないのが良い石。
筋が入っているのはあまり良くないそうです。

 

次は碁石を作る作業。

「石の厚みを1cm前後に揃えて、板状に加工しています」

 

こちらの大きな機械は、縦に割れる石を、横から割る必要があるときに使います。

「厚みが欲しいけど、ここは薄いってなった時に、ここを切り取れば、厚みが均一な板石を作ることができます。
一応道具とかも、使い方も全部教えてもらいました」

と、山本さん。

 

「私はこの仕事を30年近くしています。
基本的に石の目を見る、ですね。
目がしっかり合うと、きれいに割れますし、目が合ってないとざらつきが出ます。
それを目で見るか、手で見るか…という話です。
山本さんは新しい機械も知っているし、やっぱり若い意識というか、そういったものをどんどんと発揮してくれるようになればなと思っています」

と、田野さん。

 

厚みをそろえた板石から円柱状に石をくり抜き、碁石の材料として宮崎県日向市に出荷。
そこで加工され、碁石として完成されます。

 

午後、山本さんは別の工房で、磨き作業をしていました。
作っている筆置きの、仕上げです。

 

「上の面は、石の割れ肌をちょっと残しています。
完全に磨くと真っ平になるんですけど、この那智黒石の割れ肌がとても個性的だと思うので、その良さが残る程度に磨いている感じです。
機械の切断面は逆に、念入りに傷がなくなるまで磨きます」

と、山本さん。

 

「今やってみたいことは、碁石の抜き板を使って鉛筆立てを作ることです。
新しい那智黒石を見せていけたら良いですね」

 

熊野市水産・商工振興課の時田拓さんに、『地域おこし協力隊』を募集した経緯をお聞きしました。

「那智黒石は全国でも熊野市でしか産出されないオンリーワンの特産品です。
これまでは囲碁の碁石や硯、置物などの製品がありましたが、市場のニーズの変化と共に、生産量が減少しています。
また製造従事者が20年前と比べて約半分以下の5事業者となっています。その為、人材の育成というのが課題でした。
しかしながら、一つの事業者が後継者を育成するにはですね、時間とコストがかかります。
そこで、『地域おこし協力隊』の制度を活用することとしました。
新しい視点で製品の開発やPRを行ってもらい、那智黒石産業を盛り上げて頂きたいと考えています」

 

「あいつに石を頼んだら間違いない石が届くと、そういう風な石の目・質、そういったものをしっかり見える目、手の目、そういったものを育てていきたいなと思っております。
子育てと同じで、成長していくのが楽しいですよね」

と、田野さん。

「まだまだ期待に応えられてない部分がいっぱいあるので、とにかく早くたくさん作るようにならないと、と思います。
モノづくりをしたいという気持ちが根幹にあるので、自分で想像したものを具現化していきたいこの那智黒石をどんどん使って、モノづくりがしたいです」

と、山本さん。

熊野が生んだ特産品、那智黒石。
もっと知りたいという方は、熊野那智黒石協同組合のウェブサイトへ!