三重テレビ『ゲンキみえ生き活きレポート』2022年8月14日

2019年1月にも番組で取材した大内さんは、漆芸作家として活動を続け、三重県内の伝統工芸の若手グループ「常若」や、東海の女性職人グループ「凛九」のメンバーとしても活躍をしています
現在、四日市市文化会館で行われている凛九による展示会「「ヒカリサク伝統工芸に未来のヒカリを展」では、大内さんの作品も凛九メンバーの作品とともに展示されているが、作品の一つに、三重県ではもう誰も作り手がいなくなった神事で使われる「浅沓(あさぐつ)」を出展しました
今は作られることのない伊勢型の浅沓を製作した大内さんの思い、そしてこれからに向けて新しい漆芸の姿を求めて取り組む姿を紹介します!

2022年7月16日から9月4日まで。
女性職人グループ『凛九(りんく)』による『ヒカリサク 伝統工芸に未来のヒカリを』展が、四日市市文化会館で開催されています。

 

『凛九』は、東海3県で活躍する伝統工芸の女性職人9人が集まったグループ。
伊勢根付(いせねつけ)、有松・鳴海絞(ありまつ・なるみしぼり)、伊勢一刀彫(いせいっとうぼり)、豊橋筆(とよはしふで)、伊勢型紙彫刻(いせかたがみちょうこく)、尾張七宝(おわりしっぽう)、美濃和紙(みのわし)、漆芸(しつげい)、伊賀組紐(いがくみひも)を受け継ぎ、女性らしい感性で伝統工芸に新しい風を起こそうとしています。

 

今回は新しいチャレンジとして、プロジェクションマッピングと融合。
9つの伝統工芸作品を浮かび上がらせるヒカリと影。
伝統工芸の未来を表現しています。
地域の伝統工芸作品が一同に展示されるとあって、連日の大盛況のようです。

 

「伝統工芸ってこんなに面白くて、従来の暗くて古くさいイメージではなく、 明るくていろんな可能性を秘めているということを知ってもらいたいと思っています。
作品作りにしても、見せ方にしても、たくさんの人が伝統工芸って面白いかもしれないって思ってもらえるように、みんなが考えて工夫しています」

と話すのは『凛九』代表の根付作家、梶浦明日香さん。

 

伝統工芸の可能性を見出す展示会で、すでに三重県から失われてしまった伝統工芸作品がありました。
漆芸作家・大内麻紗子(おおうち・まさこ)さんによる浅沓(あさぐつ)。
もう三重県では誰も造り手がいなくなった、伊勢型の浅沓です。
今回はこの浅沓をひとつの作品として作り上げた大内麻紗子さんにスポットを当てます。

 

伊勢市。
ある住宅街の一角に、大内麻紗子さんの工房がありました。  
大内さんはスポーツメーカーのデザイナーを退職後、香川県の漆芸研究所で技法を学び、漆芸作家に転じました。
現在は、三重県の伝統工芸の若手グループ『常若(とこわか)』や、『凛九』のメンバーとして、伝統工芸の精神と技術を守りつつ、新たしい作品をつくっています。

 

「最初はこのピンバッチでした。
木で作っています。
漆といったら、木のイメージが私自身もあり、土台には伊勢のヒノキを使い、こだわりを持ってポップなイメージにしたくて作ったものです」

 

「ガラスを使う面白さを紹介できたらいいなと、ガラスを使った作品も作りました。
普通は塗った表面が見えるんですけれども、ガラスのものは塗ると、塗った裏側が見えるんです。
それが面白いと思い、あえて裏側を見せる形でデザインを考えて、ガラスの透明感を表現しました。
CGみたいだねと言われたことがあります。
変わった見え方がするかなと思って作ったものになります」

3年前の取材から、大内さんの作品になにか変化はあったのでしょうか。

 

「いろいろな素材にチャレンジしようという意識が強くなりました。
それから催事などでお客様と接する機会が増えましたので、どういうものを求められているのか、どういったものが反応がいいかなということも、知ることができました。
3年前には気づいてなかった部分、色使いやデザインなど自分の特徴となる部分をいいねと言っていただけるようになったので、そのあたりをこれからもっと磨いていきたいと感じています」

 

取材にお邪魔したこの日。
大内さんが手掛けていたのは、展示会にあったあの浅沓です。

「『浅沓』は神社などで神職さんが履いている足元が塗りの黒い靴です。
唯一の職人さんが外宮前に工房を持っていらっしゃって作られていました。
先端が丸くなっているのに対して、伊勢の伊勢型とは、唯一の西澤さんという方が作られていたのですが、角ばっているというか、四角い感じのデザインになっています」

 

太内さんが制作した伊勢型の浅沓。
神宮の門前町として栄えた伊勢には、神職の調度類を仕立てる工房が数多く存在しました。
浅沓も神官に代々仕えてきた職人が担ってきましたが、その後継で、
伊勢でただひとりの浅沓師であった西澤利一(にしざわ・としかず)さんが平成26年に死去。
伊勢の浅沓の伝統は途絶えました。

 

「きっかけは伊勢に越してきて、伊勢で漆のものは何があるかを調べていたことです。
たまたま新聞記事に西澤さんの浅沓の記事が載っていて、それを見て訪ねていきました。
履物として漆が使われているということに、まず衝撃を受けました。
実用性に耐えうるものが漆で作れるということ。
自分の中で一番ポイントだったのは、中が和紙でできていることでした。
一般的には木に漆を塗ったりして作られていくものが多いです。
知識として、いろいろな素材が使われてきたということは知ってはいたんですけれども、それをもう目の当たりにして和紙が靴になっていく工程を知ることができたのが、自分の中でとても大きかったです。
あえて過去を見せることによって、その過去を知ってもらって、じゃあこの先未来がどんなものができていくんだろうと。
そういう希望を感じていただけるような展示にしたいと思って(浅沓の)展示することを決めました」

と、大内さん。
残念ながら大内さんが浅沓職人になることはありません。
しかし、自身の思いと伝統を作品として制作しました。

 

現在、四日市で開催中の『ヒカリサク伝統工芸に未来のヒカリを展』では、新たな試みとしてプロジェクションマッピングを使用した展示をしています。
大内さんの展示作品は『永遠の青』。

「今回、『ヒカリサク』というテーマに合わせた作品を作ることになりました。
そのテーマを聞いた時にシンデレラストーリーみたいなのが思い浮かびました。
でもシンデレラってもしかしたら現代と合っていないのかなとか抵抗がある部分が自分にありました。
私が考えるシンデレラの物語を自分で書き出して、それを落とし込んだものがこの作品になります。
シンデレラをあえて鳥にして、最後羽ばたかせています」

 

「台の部分に彫られている言葉によって縛られてるシンデレラが、その言葉の縛りから解放されていくという瞬間を表現しました。
けれど、青い鳥なのは『青い鳥症候群』というところもあります。
自由を求めて飛び立った鳥は、本当にそれがこの鳥にとっての幸せなのかなと、自分にも問いかけてるような作品になっています」

 

「お客様に手に取ってもらいやすいもの作りをずっと続けていましたが、ここで一旦、自分の作りたいものを作っていくことで、更にこうステップアップしていけるかなというのを自分に課したところがあります。
平面的なものが自分には合っていると思っていました。
立体物を作ってみたいけど。でも自分には無理だと思い込んでいました。
だけど無理だと思いこんでいたら絶対に成長はできないので、この展示会を機にチャレンジしてみようと手がけたものが『永遠の青』でした」

『永遠の青』は大内さんにとっても珍しい立体制作、新しい素材を使用するなど挑戦作となりました。
地域に根づく伝統を自分なりに表現する・・・
習わしや言葉に縛られず、新しい光を見出したい・・・
大内さんはいま、漆芸作家として大きく羽ばたこうとしています。

 

「お子さんからお年寄りの方までみんなに楽しんでいただけるようにと『ヒカリサク 伝統工芸に未来のヒカリを』展を企画していますので、多くの方に見に来ていただきたいです。
また、漆というものに興味を持ってもらいたい、裾野を広げる活動をしていきたいですね。
一つでも作品を見て、面白いと感じていただけるような、そんな展示になったらいいなと思っています。
『浅沓』作りというのが私の原点になっているので、そこを大切にしながら、これからの作品作りをしていきたいです。
新しい素材を扱っていくという発想や、ここから生まれてきたものを今度はどう繋げていくべきか。
この先の10年で考えて、もっと楽しいことをしていきたいと思っています」

と、大内さん。

『ヒカリサク 伝統工芸に未来のヒカリを』展は、9月4日日曜日まで、四日市市文化会館で開催中です!

『ヒカリサク 伝統工芸に未来のヒカリを』展
開催期間 2022年7月16日~9月4日
開催場所 三重県四日市市安島2-5-3 四日市市文化会館 第2展示室