FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年10月27日放送

今回のお客様は、伊賀市にある銭湯『一乃湯』の三代目、中森秀治さんです。
この銭湯が出来たのは、昭和元年。
その後、中森さんのおじいさんがこの銭湯を購入し、昭和25年に一乃湯を開業しました。
そして、お父さんから代を譲り受けたのが4年前。
三代目としての生活が始まりました。

■『伊賀流上野銭湯虎の巻』!

銭湯は昭和30年代後半から昭和40年代前半までが全盛期で、一乃湯の1km四方に20軒もの銭湯があったそうですが、現在は5軒。
しかし持ち家が多くなり、内風呂が作られ銭湯を利用する人がだんだん少なくなっていったんですね。
この庶民文化を絶やすわけにはいかないので、三代目を継いで以来、いろいろしてきました。

最初にまず始めたのは、伊賀上野の銭湯を知ってもらうこと。
上野に銭湯があるのは知っていても、いったい何軒残っているのかは知らない人が多いと思ったので。

それから、間口を広げて敷居を下げました。
地域だけではなく、よそからも来ていただける状況をセッティングするところから始めてみようと。
具体的に「よそから人を呼ぶ方法」として、一番最初に手をかけたのが、『昭和レトロ銭湯一乃湯』のリーフレットづくり。
それを近所のラーメン屋さんや喫茶店、おうどん屋さんなどに置かせてもらいました。

それから組合の銭湯が5軒あるので、ウチだけではなく5軒とも宣伝しようと。
銭湯は一軒だけ突出したらいけないんです。
一軒休みだったら、他のところに行ってもらわないといけないし、よそが休みだったら来てもらわないと困るでしょ。

それぞれが特徴ある銭湯なので、5軒とも宣伝するために考えたのが、『伊賀流上野銭湯虎の巻』。
スタンプラリーで、銭湯めぐりをしてもらおうという企画です。

最初組合に企画を提出した時には、
「入ったばかりのモンが何言うてんねん」
「そんなん作って誰が来るんや」
・・・みたいなことを言われましたが、1年くらい説得しながら準備をして。

始めてから1年半経った今では、なんと約200名の方が達成しています!
200名が達成ということは、×5軒ですから、1000人以上が動き回ったということですよね。
これがなかったら動かなかったお客さんが1000人いて、遠いところからも来ていただいて。
伊賀上野の風呂屋としては本当に喜ばしいことです!

なので一回みんなで喜ぼうじゃないか、と。
ちゃんと喜んでから、次へ向かおうと。
・・・というのが、今の状況ですね。



■関東式お風呂と関西式お風呂

二代目の時に、時代にちょっとでも付いて行こうと、湯船を『3層流れ湯』というのにしました。
これは関西型の大阪型。
実は銭湯には、東京型、関西型、大阪型、京都型、北海道型、沖縄型、といろいろあるんです。

東京型は一番奥の壁に、銭湯のペンキ絵があって、その下に浴槽。
洗い場はその手前の両サイドと真ん中にカランが付いています。
テレビなどでよく見るタイプですね。

関西式は真ん中に浴槽があるんです。
座るヘリが付いていて、ヘリに座って、お湯を汲み出して洗うことができます。
東京では汲み出すということをしないので、へたにそんなことしたら怒られるところもあるんですよ。

だから関西の桶は、組み出しやすいよう小さめ。
関東のはお湯を受けやすいよう、大きめ。
こういう所に違いが出ているわけです。
銭湯でお馴染みのケロリン桶も、ちゃんと大きさ2つあるんです。

昔は家にお風呂がないのが前提なので、大勢のお客さんがうまく回転し、少しでも快適に使えるよう、お風呂の作りができていったんですね。
今は空いているのが当たり前ですけど、かつては多くの人が生活の一部として使っていたのですから。



■『銭湯』好きに愛される銭湯を目指す!

ウチの銭湯は、設備とか全然自慢できないです(笑)
でもウチが目指しているのは、スーパー銭湯や日帰り温泉とは別の方向。

もちろん、スーパー銭湯行きたい方はそちらに、日帰り温泉行きたい方はそちらに行ってもらって構いません。
スーパー銭湯に行きたい人がこちらに来て、「設備が整っていない」と言われるよりも、
「この雰囲気がええんや、やっぱりきここがええんや」
と言ってくださるお客さんのために、努力してお迎えすることに徹しようと思ったのです。

けれど、『銭湯に行きたい』という人のためには、銭湯がきっちりしていないといけません。
そのことには結構早く気づいたんですが、なんせ50年間ずっと古いままだったので、それを改善していきつつ、PRしていきつつ・・・並行して進んでいるため、クオリティを上げようと思ってもすぐには出来ないんですね。
結局、毎日の作業の中で、基本的なクオリティを上げていかなきゃならない。
昭和レトロなものを並べたり、石鹸やシャンプーや手ぬぐいなど、こだわりの商品を販売するのも、その一環かもしれません。

掃除なんか当たり前のように思うかもしれませんが、実は掃除が風呂屋の仕事の80%。
あとの20%が接客です。

「接客は座っているだけだから楽だろう」、と言われることがありますけど、そうじゃないんですよ。
今日のお客さんは体調どうかな、とか、あのお客さんの自転車歪んでいるから直さないと、とか、今入ってきたお客さんは、外でタバコ吸ってポイ捨てしてるわ・・・とかわかるので。
そんな時は、お客さんがお風呂に入った時に、バッと外に直しに行ったりしますよ。
それから雨が降ってきたら傘も出さないと・・・とか、いろいろ細かい作業があるんです。
番台って楽に見えて、実は全然楽じゃないですよ(笑)



■銭湯でランナーズ入浴や忍者に変身!

ウチが最初に始めた『間口を広げて敷居を下げる』ていう作業の中にはPRもありますが、1キロ四方に銭湯が5軒あるということは、観光資源になりうると思ったんですね。

伊賀上野では、「忍者の格好で街歩き」というのを一ヶ月間とかイベントとして行ったりしているんですが、ウチでは年中それを体験できるスポットにしたいと、今、伊賀市の観光化にお願いしているところです。
すでに今、忍者服が20着ほど手元にあるので、大人でもお子さんでも、今すぐ変身したかったら、ここで着替えていただいて、荷物を預かって、町を歩いていただいて、戻ってきたらお風呂に入って帰っていただく(笑)
今、ウチは『忍者変身処』になっているんです(笑)

あと、5軒とも行なっているのが『ランナーズ銭湯』です。
ジョギングや散歩をしたい方に、例えばお勤め帰りに銭湯に来ていただいて。
着替えて荷物をお預かりして、ランニングして来てもらって、戻ってきたらお風呂に入っていただいて、着替えて家に帰ってもらうプラン。
料金は基本の350円のままです。

『忍者変身処』にしても『ランナーズ銭湯』にしても途中外出ありなのが、今までの銭湯ではなかったことですね。
気軽に立ち寄れるのが銭湯の良さなので、もっと銭湯を活用して欲しいです!