FM三重『ウィークエンドカフェ』2023年6月17日放送

鳥羽市国崎町。
海女の故郷と言われるこの地で今年も神宮に献上されるのし鮑作りが始まりました。
今回は、長年のし鰒づくりに携わっている奥田佐吉さんがお客様です。

月から鮑漁が始まって、決まったサイズの鮑が集められる

最近は高齢化で高齢者がいないのが悩みです。
それから磯焼け現象が徐々に来て、海女さんの高齢化と磯焼けで絶対量が不足しているので、赤アワビが不足しています。
これからどうなるのか、と心配しています。
のし鮑にするには黒鮑は高価なのですが、製品にすると変な色になるんです。
赤の鮑は綺麗な飴色になります。
のし鮑に使う鮑は150〜200g以上ないといけないので、黒鮑はそんなに大きいのがあまりないです。
昔の人のやり方というのは、誰が考えたのかなあと思いますね。
ここの鮑の今年の口開けは5月の末頃からはじまっています。
はじまったときからのし鰒用の赤鮑を獲っていきます。
町内会に保存会があって、その保存会の役員の人が来て、選別していきます。

 

まく剥けるようになるまで2,3年はかかる

やはりある程度まとまってから作業をします。
手間がかかりますもんで。
6月の月次祭、10月の神嘗祭、12月の月次祭のお供えする作業をします。
のし鰒を作ったものをお供えする1週間から10日前には材料を用意します。
それを加工して125のお宮さんにお供えする作業をしています。
今なら1000kgくらいあるんじゃないですかね。
30年くらい前だったら僕ら、7日くらいでできましたが、今は鮑が小さくなったもので、なかなかできないです。
そもそも難しいですよね。
1年や2年や3年ではなかなかできないです。
リンゴを剥くみたいにダ〜ッと剥くやり方。
それから大きい鮑だとダブル言うて、一回半分巻いといて、また半分を剥くんです。
そうすると倍になりますでしょ、足していくと。
それができるのは2〜3人で、とてもじゃないけど、すぐに切れてしまうんですわ。
本当に皮一つでズ〜っと剥いていくもんで、技術は必要です。

 

中へは1個から1メートル50センチの長さにしたのし鮑が献上される

神宮の三節(さんせつ)祭(さい)のほかに、お正月には宮中へ国崎ののし鰒が納められます。
この仕事に関われることは、この地に住んだ人たちの誇りです。
宮内庁に持っていくのし鰒は1500cm
つまり1m50cm。
その長さが絶対必要なんです。
鮑の大きいのは、そういうのにして使います。
宮中へ毎年、すごいことですよ、これは。
地域の人はすごいことだと知らないけれど、当たり前ではないんだということをもっと認識してほしいです。
すごいことなんですよ、ねえ。
今いるのは6〜7人と違いますか?
神宮に収める加工するのは20人くらいいます。
剥いて、外套膜のところをのし鎌というカミソリみたいな道具で剥くので、混ざっている砂をキレイにとります。
それからそれを洗って、約3〜4時間くらい時間を置いてから干します。
干すと自然に伸びます。
乾かすのは2日くらいかな。
ある程度部屋を温めつつ、換気しながらやります。
天井からうどんを作るようにして吊るすと、バリバリに乾きます。
昔は外に『干場』がありました。
今もありますけど、鳥に狙われたりフンをされてもいけないもので、部屋の中でやります。
乾かしたものを桐の箱に入れて、1年分ためます。
乾燥したもので、一回にお供えする作業は25kgくらい。
だいたい10%しか貯まりません。
すごいもんですやろ。

 

し鰒専用の海域を決めて絶やさないようにしていきたい

10年くらいの間に、海を取り巻く環境は大きく変わりました。
黒潮の大蛇行ということで、だんだん大きな身の鮑が取れなくなり、『船人』と言って夫婦で潜る漁をする人も2組しかいなくなりました。
今から30年ほど前には100人近い海女さんがいましたが、現在では総数で35人ほどしかいません。
しかも平均年齢は72〜3歳です。
後継者がいません。
一番若い人で、1人だけ40歳くらいの海女さんがいますけど、あとはもう本当に50〜70代。
70代の人が一番多いですね。
もちろん上手いことこう、今まで通りにしていったら良いのですが、これから今より減っていしまったら、どうやってやっていけばいいのだと、本当に切実ですよね。
組合の役員が禁猟区みたいのを作ってね、そこで15cmくらい以上の鮑しか取らないようにして、年に一回、そこからのし鰒を作るように努力をしているところです。

『おべんさん』という祖先が、ず〜っとまだあるんです。
倭姫命が国崎を訪れた際に、海女『おべん』から鰒を差し出され、そのあまりの美味しさに感動したと。
それがまだ代々続いているというのはすごいことですよね。
2000年。
夢みたいな話ですよ。
『おべんさん』を祀っているのが『海女潜女神社』。
年初め、国崎の海女たちは一年の無事と豊漁を願ってこの神社にお参りをします。