FM三重『ウィークエンドカフェ』2023年7月15日

今回のお客様は文筆家の千種清美さんです。
千種さんは先日『伊勢西国(いせさいごく)三十三所(さんじゅうさんしょ) 観音巡礼 もう一つのお伊勢参り』という本を出しました。
歴史ある観音巡礼のお話を伺います。

年間かけてゆっくりじっくりとお寺を周った

ある新聞の折込紙に、月に1回連載していました。
なにかテーマを持って書きたいと思っていたところ、『伊勢西国三十三所観音巡礼』を知りまして、事務局である木造ご住職をお訪ねしたときに、お話を伺って、平成18年に再編されたものだと知りました。
古くからあるもので、江戸時代にも旅日記が出てくるような、そういった巡礼なんですが、平成の世に新しく組み直された観音巡礼だと知り、それこそ古くて新しい巡礼だと思い、はじめました。
月1回の連載に合わせて、月に1回お寺を巡るとういうことを続けてきました。
令和元年の9月からなので、足掛け4年でしたね。
ゆっくりゆっくり、巡っていきました。
短い時間で巡っていたらわからなかったこと、気づかなかったことがあったと思います。
しかもコロナ禍でしたので、行動制限がある中での月に1回のお参りというものが、自分の中でもとても大切になって、じっくりゆっくり進められたことが、とても良かったなと重ます。
実は『もう一つのお伊勢参り』と、昔から言われていたそうなんです。
どちらかというと、『もう一つのお伊勢参り』ってどういう意味なんだろうと、とても惹かれました。
ですから私のもう一つの課題として、伊勢神宮との関わりを読み解いていくというのもありました。

 

十三所とあるが三十九ヶ寺を周る

観音巡礼は、伊勢神宮に近いお寺からはじまり、県内14の市町を巡ります。
三十三観音だから三十三ヶ所だと思うでしょ。
でも実は三十九ヶ所まわるんですよ。
その中には番外というのもありますし、元何番というのもあるんです。
巡礼ですから第一番からお寺さんに番号が付いているのですが、昔は番号があったけれど最近ではなくなったところも排除するのではなく、平成の再編のときに『元何番』として、この巡礼のルートの中に組み入れたのが、特徴なんですね。
第一番のお寺さんである、伊勢市二見町の『太江寺』さんは、伊勢神宮の内宮の神主さんです。
昔は『荒木田』家がずっと神主をされていたのですが、なんとその神主さんが奉納した観音様なんですよ。
たいへん位の高い方が納めた観音様を第一番にお参りできるんです。
第三番目の札所は松尾観音寺さんで、みなさ初午でお参りされますよね。
ここは神宮さんとどんな関係があったのかと思っていたら、ここの御由緒は奈良時代の高僧である行基さんなんです。
行基さんが、東大寺の大仏を建立するにあたって、お伊勢参りをしたときにここに立ち寄られたという伝承があります。
そのことから三番になられていますし、実はここから伊勢街道に抜ける道が通っていまして、歩き旅の頃は古市に来たときに、脇道に入ると、この松尾観音寺まで来られたことがよくわかりました。
ですからお伊勢参りのときに参るというのにも、納得いたしました。

 

照大神の元々の姿は観音様だったという説もたくさん残っている

なぜ観音様なのか。
なぜ観音様が本尊のお寺さんを巡るのかというと、神仏習合の時代は、今よりももっと神と仏が近い時代なんですね。
日本の神々というのは、もともと人々を救うための仏様や菩薩様が、姿を変えて神様として表れたという考え方があります。
その中で、本事物というと難しいのですが、天照大神の本事物…もともとの姿は観音様であるとの説があるんです。
だから観音巡礼をしようとなったのかな、と、私の中では思っています。

北勢に行くと、織田信長に寺を焼かれたという話がいっぱい出てきます。
だだから古文書や文献がないです、というお話をうかがったりします。
しかしその中でも、ここの御本尊は信者さんたちが隠して、土の中に埋めたりしたというお話をずいぶん聞きました。
また、北の方へ行くと、伊勢神宮とどんな関係があるのかというと、伊勢神宮の経済を支えたんですね。
いわゆる『神田(しんでん)』ですね。
神宮に納めるお米を作っていた田んぼが、北勢地方にはけっこうあるんですよ。
そこにも『神明神社』といって天照大神をお祀りする神社を建てたんですね。
そこをお守りするお寺が、観音巡礼のお寺になっていますね。

 

しはすべての観音様

公式の奉納経帳というのがありまして、ここに御朱印をいただきました。
私、実は他にも私御朱印帳を持っているのですが、ぜんぜん集めたことありません。
ですがこれだけは集めました!
お参りに行った日付も全部書いていただきましたので、本当にお宝です。
こういう奉納経帳ってどうしたら良いのかとご住職にお聞きしたところ、棺桶に入れてくださいと。
これを持っていたら、もし地獄に落ちたとしても閻魔様が救ってくださって、極楽に行けると言われていますよ、と教えて下さいました。
その言葉を胸に、ず〜っと、全部回りました。
三十九ヶ寺行きますと、非常に自分の宝になります。
大切にしています。
見返すと懐かしいですね、令和元年だったなって。
9月だなって。
全部書いてあるので、振り返ることができます。
帯に、常盤貴子さんが『推しの観音様に出会えたら』と書いてくださって。
千種さんの推しはどの観音様ですか、とよく聞かれます。
私はすべての観音様、三十九ヶ寺すべて、それぞれ違うので、全部を推しにしたいと思っています。
どの観音様も違いますので、みなさんもぜひお参りしていただきたいなと思います。
今回の本は、私がお寺を訪ねて、見て、聞いて、感じて考えたことを一冊にまとめた、私の観音巡礼記なんですね。
ぜひみなさんも、みなさんが感じたことを、観音巡礼記として綴っていただいたり、心に刻んでいただいて、それぞれの巡礼をしていただきたいと思っています。

私も新たなお伊勢参りを知った…そういった気づきをいただけたと思います。