FM三重『ウィークエンドカフェ』2023年9月16日

熊野、花の巌神社の近くに美熊野牛を育てる牧場があります。
高台にある牧場は緑が豊かでとても静かな場所。
今日はここで牛を育て、精肉の販売をしている『株式会社黒毛和牛の岡田]』の代表取締役 西村茂之さんがお客様です。

の味が濃いと言われる。赤身のおいしさにこだわる

精肉店自体は私が4代目で100年ほどになります。
ここで牛を飼いだしたのは先代からでして、今から50年近くになります。
『美熊野牛』というのは20年ほど前に一般公募で名前を募集しまして百数十の中から、この名前に選ばせていただきました。
裏山が世界遺産の『花の窟神社』が所有している山で、そこから水が湧き出ているのですが、その水を牛舎に引かせていただいて、牛に飲ませています。
宮司さんは、神様からいただいたお水を飲んで育っているから、美味しいに決まっていると仰っていました。
まず、騒音がないということで、いつも本当に静かです。
あとは高台にあるので、風通しも良いです。
海からの風も上がってくるので、環境的にとても恵まれていると思います。
よく言われるのが、お肉の味が濃いということ。
あと、お年寄りの方からは、昔のお肉の味がする、と仰っていただいています。
全国には300近くブランド牛がありますが、みなさん霜降りを入れてA5等級の牛を育てるということに一生懸命になっています。
うちでは外部出荷を一切せずに、ここで育てた牛を、すべて自分のところの精肉店で販売するので、無理に霜降りを入れて高く売るための努力をしなくていいんです。
牛に負荷をかけることなく、本当に健康に育てて、お肉の味を追求するということです。
ですからうちのお肉は、例えばロースでも、そんなに霜降りびっしりではありません。
赤身の部分が多いということは、肉本来の味がするということなので、そういった育て方をしています。

 

善を繰り返しながら畜産という仕事に興味を持ってもらうように取り組んだ

もともとは年齢層の高い方がお勤めしてくれていて、若い方がなかなか入ってこなかったり続かなかったりでした。
しんどい、危険、多少臭いがある。
それをなんとか改善しながら、若い方に来てもらって『畜産』というものを知ってもらって、長く続けてもらえるようにという工夫をしています。
今では、20代30代の若いスタッフがたくさん働いています。
やりがいを持って働いてもらうため、様々なことに取り組んできました。

『黒毛和牛の岡田』は妻の実家の家業でした。

後継者がいないということでしたが最初は継ぐつもりもなかったし、牛に興味もありませんでした。
ここを見せてもらったり、熊野市内の給食や老人ホームへの配達があると知ったときに、父の代で終わらせてしまうと、市内の方にも迷惑がかかるのでは、ということで、あとを継ぐことにしました。
もう27年目になります。
今は、地域の小学生の子どもたちに牧場に来てもらう体験をしています。
今の子どもたちはお肉がパックに入って売っているものしか知らないと思うので、お肉になるまでどういった過程があるのかを、実際に見てもらう。
牛たちに触れてもらって、給食で肉などを食べるときに僕が学校に出向いて、食育の授業をさせていただいています。
そういうことをすることによって、『いただきます』の意味を知っていただくようにしています。

 

どもたちが来ても牛は安定している。それはスタッフの日頃の接し方がいいから

子どもが来てくれて、牛を可愛いと撫でてくれたりすると、それだけ牛が人間を怖がっていない、子どもにも興味を示すということは、普段スタッフが、みんな声をかけながら牛に餌を上げたり可愛がったりしてくれているということです。
家畜として生まれて来ていますが、ここにいる間、牛がここにいて良かったな、と思ってくれるような接し方をしてあげてほしいと、常々言っています。
それをみんなやってくれているんだな、と感じます。
生き物なので風邪も引きますし、体調が悪くなって食欲がない、もしくはお腹を壊したりということも起こるので、それを早く発見して治療してあげるということ。
こういうふうに一頭一頭ではなく、一部屋に三頭入っていると、いじめたり、いじめられたりということも起きるんですね。
そうなるといじめられている子は餌を食べさせてもらえないので、体格がだんだん他の子に遅れます。
そうするとさらにいじめられるので、早く発見して、一頭だけにしてあげる…そういうことをしています。
牛を常に観察する、それが毎日のことなので大変ですね。

 

らかい肉を作るのではなく美味い肉を作る

よく、食肉を食べたときに第一声に「やわらかい」というでしょう。
でもそれは味ではなく、食感なんですよね。
肉が柔らかいってどういうこと、と思うんですよ。
筋肉が柔らかいって、なんだか変ですよね。
それは実は筋肉じゃなくて脂ですよね。
脂が多いから柔らかいのであって、本来の味だとそれだとしません。
そうではなく、噛めば噛むほど旨味が出てくるというお肉づくりをしたいと思っています。
あと、私が感じる美味しいものは、今日の夕飯に食べたとして、翌朝起きたときに、「昨夜のアレ、美味しかったな」「また頑張って仕事して、あそこに食べに行きたいな」と思うものが本当に美味しいものではないかと思います。
そういった育て方に取り組んでいます。
2ヶ月ほど前にようやく、先代がやりたがっていた直営の焼肉店をオープンすることができました。
牛を育てること、それを精肉にして販売すること、それを提供できる焼肉店。
この3つをしっかりやっていって、今、息子が後継者としてやってくれているので、早い段階で息子に譲って、自分は飲食店の方を広げていきたいと思っています。

翌日、また食べたいと思ってもらえるような肉づくりが目標ですね。