FM三重『ウィークエンドカフェ』2024年3月2日放送

3月、志摩・布施田ではさざえとあわび漁が始まります。
今回は、海女の谷口美幸さんがお客様。
憧れていた海女の仕事を始めて9年が経ちました。

族旅行で鳥羽の海女さんと出会い、海女という職業に憧れた

もともと海が好きだったのもありますが、15年ほど前に家族で鳥羽市に旅行に来ました。
そこで現役の海女のおばあさんにお会いして、海女のお話を伺う機会があったんです。
そのおばあさんはお年で、70歳以上。
毎日のように海に出られているので、日焼けもしていて顔も真っ黒。
深いシワもあったのですが、海女漁の話をされているときの、その表情がとても印象的で、『カッコいい!』と思いました。
それがきっかけで、海女さんにものすごく興味が湧いてきました。
その時は生活の拠点が大阪だったので、海女さんになるのは絶対に無理だと思っていました。
やっぱり海女さんは世襲制というか、おばあちゃん、お母さん、娘さんと、代々伝わるぐファミリービジネスです。
知り合いに漁業関係の人がいるわけでもないので、なれないと思っていました。
こっちに来ることになったのは結婚ですね。
夫も大阪の人間なんですが、嫁いで移り住んだ隣近所のおばあちゃんたちがほぼほぼ全員海女さんでした。
海からとても近いところに自宅があったので、毎日、海女のおばあちゃんたちが桶を担いで海に行く姿を見て、『ああ、やっぱりわたしもやりたい!』という気持ちがどんどん湧いてきました。
でもどうしたら海女になれるのかわかりませんでした。
まずはそれを聞きに、漁協へと行きました。
そうしたら、そんなに甘い世界じゃない、「やめとき」と言われて撃沈しました。
そのころは海女さんの担い手が少なくて後継者不足だと言われていました。
だから簡単になれるかな、と、私自身も甘い考えがありました。
現実問題、そうじゃないんだな、と思いましたね。

 

話係を探すのが大変、足の届くところから稽古をしてもらった

まず自分のことをお世話してくれる人を探すのが第一です。
それが自分のお母さんやおばあちゃん、もしくはお姑さんが海女さんをしていると、そんなにハードルは高くなかったと思うんですね。
でも私はよそから来て海女さんになったので、地元の海女さんや地域の人に受け入れてもらうのに時間がかかったと思っています。
その面倒を見てくれるおばあちゃんが稽古をつけたる、と言っても、いきなり最初っからお師匠さんたちに沖の漁場に行けたわけではなく、足の届くところから潜るお稽古。
まずは海の事を知る。
どんなものが採れて、どんなものがどういうところにいるか、海の海底の地形はどうなっているかなど、覚えることから始まるんですね。
海女さんって、その地域に住んでいる、そこの目の前の海でしか漁をできない決まりになっています。
いわゆる『縄張り』です。
海の中にも境界線があり、それを越えると『密猟』になります。
それはお互い決め事のようにして、潜らないし行かないようにしています。
自分たちの決まったテリトリーの中で漁をします。
一番最初に採ったのは、『アラメキリ』。
一番見つけやすくて道具もいらず素手で採れるのでお師匠さんから教えてもらいました。
どういうところで採れるのかを尋ねたところ、『アラメ』と呼ばれる海藻の上に座っているから、そのまま手で摘んで採れると。
海の中で見て、これが『シッタカ』だとわかると、次から採るのが簡単になるんですね。
そうこうしているうちにサザエらしきものを発見して、『これはサザエではないか!?』と思ったら案の定サザエで、ポコンと取ります。
で、一度サザエを見つけると、自分の目が『サザエの目』になるんです。
サザエばっかり探して、サザエが採れるようになって、アワビ、ですよね!
でも本当にアワビは見つけるのが難しいです。

 

外の人たちと文化の違いを感じたり、子どもたちには自然のものをいただくということの大切さを話す

私は『海女小屋体験施設さとうみ庵』で、海の幸を焼きながら訪れる人たちに海女の話もしています。
私たちが実際に使っている海女小屋の中で、火を熾して、その火を囲むようにお客さんに座ってもらい、地元で穫れた食材や海女さんが採ってきた食材を焼いて、それを提供する施設です。
その時にお客さんに、海女さんのお話とか海の出来事、いろいろなお話をします。
日本人の方ももちろんたくさん来られますが、最近はコロナが明けてから海外のお客さんも戻ってこられて、たくさん来てくれます。
例えば、伊勢海老やアワビを生きたまま目の前でお出しします。
日本人は魚などを食べ慣れているので、
「わ、まだ生きているんだ! 鮮度が良い!」
となりますが、ヨーロッパの方では、特に残酷だと言われる方もいて、中には「見ていられない」という人もいます。
ちょっと悲しいなとは思いますけど、私たち日本人からすると、『そういう食文化』となり、向こうの人たちとは違うので、それは致し方ないなと思いつつ、でも日本に来てくれているんだから、日本の食文化は昔からこうだということを知ってもらったほうが良いと思うので、あえてそのまましています。
自分たちが食べるもの、人間が口にするものはすべてに命があると私は思っています。
目があるもの、動くものだけではなく、お野菜もそうです。
そういう命をもらって、私たち人間が生きているということを、少しでも大切にしてほしいですね。

 

漁日数は減ってきているが、海は魅力がたくさんある

ちょうど3月1日からアワビとサザエが解禁になりました。
残念ながら温暖化の影響で漁獲量がどんどん減ってきてしまっていて、漁に行ける出漁 日数も減ってしまっていますが、楽しみで楽しみで仕方ないです。
大阪で勤めていた頃とは違って、海の中なので、対自然なんですよね。
自然はものすごく素直です。
忖度もしないし、うるさい上司もいないです。
海の中なので、もちろん音のない世界です。
でも、毎日、海の中の状況が変わるんですよね。
潮の流れも変わるし、水の色も変わるし、向きも違います。
そんな中で出会う、海の生物たちも毎日変わります。
危険な生物も中にはいたりしますが、いろいろな生物に出会えることが私の癒やしですし、また、学びでもあります。
現在、海の状況が悪くなっていて、海女さんの人数がどんどん減っていることに加えて、現職の海女さんたちが働けない…働いても収入に繋がらないので、海女さんをやめていく若い方たちもたくさんいます。
なんとかしたいと思うし、昔のような自然豊かな海が戻ってくるように、なにか取り組みをしたいと考えています。

9年海女をしていますが、毎日が勉強ですね。
楽しくて仕方がないです。