FM三重『ウィークエンドカフェ』2013年3月30日放送

今回のお客さまは、紀北町海山区便ノ山で野菜を作り始めた石倉至さんです。
「このあたりでできた野菜ですよ」というのが良く分かるようにと、農場の名前を『紀伊ファーム』と名付けました。
東紀州の豊かな環境の中で野菜を作っています。
最初に農業に興味を持ったのは、大学生のとき。
その時から、今こうして農業をすることが決まっていたのかもしれません。

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■第一次産業に対する思い入れ

環境問題について学びたいと思い、大学に進学したところ、入った学部が農学部だったんです。
最近の大学では、農学部だからといって実際に畑を耕すということはあまりないんですけど、農業についてちょっと勉強したのが、農業と触れ合うきっかけとなりました。
そこからずっと、農業が頭にあって。
大学を卒業して初めて勤めたのが化学メーカーだったんですけど、それでも頭の隅に農業があり続けていまして。

途中で「もう農業に行ったろ」と。

それでも実際に農業を始めようとした時に、もう一回、
「あれ、ホントに農業にいっちゃっていいのかな。大丈夫かな」
と、ためらった時期もありました。
でもまあ、結局始めてみると楽しいし、正解というかそれで良かったなと今は思えています。

農業を始めてから、会う人会う人に「なんで農業なの?」って聞かれるんですけど、僕もそう言われると、「あれ?なんでだろう」って。
で、色々考えてみると、僕の親も漁師で第一次産業ですし、『第一次産業』というものに何かこう、思い入れがあったんですね。

一般的に職業というと『医者』や『弁護士』などに憧れたりするようですが、農業などの第一次産業は体を張っているわけです。
もっと注目されても良いと思うし、自分としても魅力を感じていました。


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■農地を探していたら、結局地元に戻ってきた!

農業をしようと決めたとき、やはり出身である「三重県」でやりたい、という気持ちはありました。

畑を探し始めた当初は、まわりの方からも「今は畑があまっているから、すぐに見つかるよ」なんて軽く言われていたんですけど、実際に動いてみると、いきなり「農業したいんで畑を貸してください」と言って「じゃあ貸すよ」という風にはならないんですよ。

先方からしたら、
「ちゃんとできるの?農業って楽じゃないよ、お金もかかるし気持ちも必要だし」
というようなことも思いますよね。
だから僕みたいな見知らぬ人が訪ねて行って、農業をやりたいと訴えても受け入れられないことが多かったです。

それから、地主さんの土地に対する思い入れがやはり大きいんですよね。
土地を探すということは、思っていた以上に難しかったです。

今の農場は、紀北町の役場に相談に行った時に、たまたま紹介していただいた場所。
紀北町に限って考えていたのではないですが、話を勧めていく中でポンと出てきたんです。
もともと紀北町は雨も多いし、台風も多い地域なので、どこまで農業でやってけるかなという不安もありましたが、まあ1回やってみようと。

三重県内であちこち探して回って結局、紀北町に戻ってきたわけです。
これも『縁』なのかもしれませんね。


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■アメリカでの農業研修!

28歳の時に、農業研修ということでアメリカに行き、広大なパプリカ畑で農業を学びました。

まあ人生勉強というか、つたない英語しかできない僕が、見知らぬ土地にポンと放り込まれて。
何もわからないゼロからのスタートでした。
ちゃんと日本語で相談できる人がほとんどいない環境の中で、自分でいろんなものをステップアップさせていくというのは、日本にいてちょっと環境を変えるだけではできない経験でしたね。

28歳で参加ということは、1回社会に出て、それなりに仕事をしてきた後のチャレンジなわけです。
それまでは28歳の社会人としての自分なりのスタンスがあったんですけど、海外ではまったくゼロから。
そこで、「あ、自分は本当に何も出来ないんだな」、と。
言葉も通じないし、農業も全然知らないし、作業の仕方についても何もわからない。
自分の無力さに気づき、情けなくなった。
そういうのがすごく大きかったですね。

一度大きな失敗をしてしまい、ボスに謝りに行ったら、
「誰でも失敗はするんだ。それについては自分が全部責任を取るから心配するな。
これからどうすれば同じ失敗をしないのかを、しっかり考えてやれば良いんだ」
と言われました。

その後、栽培の期間が終わり、ボスに誘われてラスベガスに遊びに行ったんです。
その時に、「あの時はすみませんでした」ともう一度謝ったら、「そんな昔の終わったことを謝るな。もうお前は違う段階にいるんだから」と言われて。
次のステップに進むことの大切さを、改めて気付かされたというか。
今も自分の中の教訓や基礎として肝に銘じています。

アメリカに行く前は、これまでの人生で、大きな失敗はあまり経験したことがなかったし、ある程度は仕事がこなせていたというか・・・。
自分の中の甘えに、環境が変わったたことでダイレクトに気づいたんでしょうね。


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■自然に振り回される、『農業は毎年1年生』!

農業を始めてからは、自然に振り回されながらの仕事と生活。
しかしこれが意外と人間らしいというか、本来の人間の生活のスタイルなのかな、と。
天気予報や週間予報も見て計画をたてますが、やっぱり予想外の天気はよくあるので、振り回されながらやっているという感じです。

特に最近は『異常気象』と言われているように、長年農家をやっている方に聞いても「最近の天気の変化はわからん」と言われます。
『農業は毎年一年生や』という言葉を農家の方たちからよく聞くんですけど、その年の気候、その日の天気などを臨機応変に見ながらやっていくというスタイルにしていかないと、この変化の中では難しいんじゃないか、と感じます。

地元でお世話になっている農家さんもたくさんいるので、天気というか四季の変化について教わったりしています。
例えば、僕が育てている『鈴カボチャ』は、霜にやられるとダメなんです。
しかし『遅霜』と言って、暖かくなってきたなと感じた矢先に、いきなり霜が来る時があるんですよ。
その一日でやられてしまうことがよくあるんです。
それを過ぎてから外に植え付けないといけないので、近所の農家さんに遅霜の時期を聞いてまわって。
4月の頭にまた来るよ、なんて言われると定植はそれからだな、とか考えたり。
やはり気候が不安定でも、みなさん経験則がありますから。

農家のみなさん、各自それぞれの植え付け時期を見計らっているので、僕も参考にさせてもらっています。

農業の醍醐味は、作っている野菜が大きくなってきたとき。
小さな実をつけたときから、大きくなるのを見ていくのがとっても面白いです。
カボチャの成長には栄養過程と成長過程というのがあって、その切替がうまくいくとたまりません。
これまで準備してきて、植えて管理してきたものが合っていて、ちゃんとカボチャが大きくなってくれるのを見ていると嬉しいですね。
それから、収穫したものをお客さんに持って行く時が楽しいです!