第50回『隊長レポート』2013年06月

四日市から内部をつなぐ路線距離わずか7キロのナローゲージ(特殊狭軌線)、近鉄内部線。
その小さな電車は、立ち並ぶ家々のあいだを、田園風景の中を、学生鞄をもった若い男女や買い物かごをもったおばあちゃんを乗せてトコトコと走る。
今回はこの内部線を完全制覇!! ひたすら電車に乗って歩く!!

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今回も旅のお供は、同じ町内に暮らす写真師マツバラこと松原豊。
いつものごとく彼の家で待ち合わせ。
先月までカフェをしていたお座敷で香り高い本格的コーヒーをいただいてから取材に出かけるのがいつものパターンである。

が、この日は朝から忙しかった。
コーヒーをすするのもそこそこに、荷物を写真師の車に放り込んで出発!
まず向かったところは・・・津駅のそば、ワタクシやサルシカ隊が何かとお世話になっている三重テレビ放送のとなり、レディオキューブFM三重である。

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いきなりラジオ出演(笑)。
どうしてもこの日の朝しか空いていなくて、無理矢理ねじこむ。

売れっ子のタレントみたいだな(笑)。
でも実は田んぼの世話やら草刈りやらが忙しいだけで、実はぜんぜん仕事してません。
すいません。

DJは多田えりかさん。
ワタクシが出演してる「とってもワクドキ!」にも来ていただいたことがあるし、花見宴会でたまたまいっしょになってそのまま呑んだこともある(笑)。
で、今回、彼女がワタクシを呼んでくれたのだ。

ワ〜としゃべってあっという間に5分終了。
久しぶりの多田さんとおしゃべりでもしようと思ったら、「はい取材にいくよ!取材!」と写真師に手を引っ張られて車へ(涙)。

確かにきょうの内部線の取材は、路線距離たった7キロといえども、そのすべての駅を制覇するのである。
時間が足りないのだ。

ワレワレは津駅のそばの駐車場に車をとめ、近鉄電車の急行にのって四日市を目指したのであった。

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内部線は近鉄四日市駅から出ている。
しかしその存在を知っている人は意外に少ない。

ホームはちょっと離れたところにある。
一度近鉄名古屋線の改札を出て、人通りのない端っこの方へいき、薄暗い渡り通路みたいなところをしばらく歩くと、内部線の改札が見えてくる。

軌間は762㎜。
椅子がバスのように並んでいる車両もあり、サイズ的もまさにバスって感じ。
古いせいかかなりガタゴト揺れるので、ああこれは電車だと思い直す。

四日市、赤堀、日永(ひなが)、南日永、泊(とまり)、追分(おいわけ)、小古曽(おごぞ)、内部(うつべ)。
停車駅は8つ。
総路線距離7キロだから、1駅間隔が1キロもない計算だ。

まずワレワレは一気に終点の内部へと向かった。
だからここでは道中のことは書かない。
内部から四日市へと向かう旅をレポートなのだ。

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終点の内部駅。
ここから今回の旅がはじまる。
しかしいきなり電車に乗ってしまっては、内部が紹介できないので、まずは内部駅の周辺を歩いて見ることに。

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内部を知る友人に、本当に何もないところだよ、と聞いていた。
だから山間の静かな町だと勝手に思い込んでいた。
が、駅から少し歩くと、国道1号線の大動脈が田畑を貫き、大型トラックがすさまじい音と風を巻き起こしてどかんどかん走っていた。

写真師が私に何か言うが、轟音で聞こえない。

「な〜ん〜だ〜!?」

ワタクシが大声で聞き返すと、

「写真と〜る〜ぞ〜!!!」

大動脈をまたぐ歩道橋のうえで、写真師とワタクシは大声で叫びながら写真を撮った。

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iPhoneで情報を調査したところ(笑)、国道1号線沿いに老舗の和菓子屋さんがあることが判明。
国道を紹介してばかりもいられないのでさっそく行ってみることに。
もちろんノーアポ、突撃取材である。

幸い定休日でもなく、その高級感ただようお店はのれんを垂らしていた。
お店の人に取材をお願いすると、こころよくOK!

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この菊屋さんは創業大正7年という、伝統と格式をもったお店。
その昔、店に近い『杖衝坂(つえつきさか)』を松尾芭蕉が馬に乗って越そうとしたところ、あまりに急な坂のため、鞍もろとも落馬してしまった。
我が身に何かあったらすぐネタにするのは、お笑い芸人も俳人も同じ(笑)。

『歩行(かち)ならば杖衝坂を落馬かな』

この歌が、当地の名を全国に広めたのだそうだ。

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こちらのお店には茶室も用意されている。
和菓子とお茶のセットをいただくことができる。

ノーアポであるにもかかわらず、茶室に通してくれたばかりか、ご主人にいろいろとお話をお聞きした。

実は、いまも東海道を歩く人は多く、そのほとんどの人がこの菊屋によって足を休めていくのだそうだ。
京へ向かう場合、この店を出てすぐに、芭蕉が歌った「杖衝坂」へと差し掛かるのだ。
汗をかくまえにひと休み、である。

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そんな歴史的名所から誕生したのが、銘菓『采女の杖衝』。
甘みをおさえた餡に大きな餅がひとつ。
食べごたえがある最中である。

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さて。
ご主人と奥さまに見送られて再び国道1号を歩く。
内部駅を出てからもう結構歩いた気がする。
しかし、ワレワレは先程『采女の杖衝』を食べてしまったのである。
ご主人からその名前の由縁も、その歴史も聞いてしまったのである。
行かないわけにはいかないではないか!

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東海道の看板が出た道を進む。
とはいえ、民家が立ち並ぶ普通の道である。
ところどころ古い家や門構えが目立つ程度であろうか。

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杖をつかないととても登れないというところから名付けられた杖衝坂。
どんな難所なんであろうか。
なんでまた旅のはじまりに、そんなところへ行かねばならぬハメになったのであろうか(笑)

写真師とそんな話をしながら歩いていたら、いつのまにかそこが杖衝坂だった。
まあ、なんというか、すごく急な坂というわけではない。
たぶん車が走るようになって整備された結果であろう。

少し息を切らせつつ後ろを振り返ると、四日市の町が見えた。
遠くにコンビナートも見える。

国道1号線の喧騒もすっかり消えていた。
虫と鳥の声が木々に吸い込まれていく。

最初にイメージしていた内部の姿がそこにあった。
さて、そろそろあの小さな電車に再び乗り込もう!

こうして内部線の旅がはじまった。