四日市から内部をつなぐ路線距離わずか7キロのナローゲージ(特殊狭軌線)、近鉄内部線。
その小さな電車は、立ち並ぶ家々のあいだを、田園風景の中を、学生鞄をもった若い男女や買い物かごをもったおばあちゃんを乗せてトコトコと走る。
今回はこの内部線を完全制覇!! ひたすら電車に乗って歩く!!
小さな電車に乗って四日市をめぐる旅。
終点であり、始発の内部駅を出て、小古曽駅を通過、降りたのは追分駅。
駅こそ小さいが駅前はにぎやか。
ここも車通りが多い。
さて、この「追分(おいわけ)」だが、意味は「道が左右に分かれること」「分かれ道のこと」である。
だから全国に追分という地名はあるし、いろんな歌にもなっている。
まあ、人生の分かれ道でもあったのだろうなあ。
ここは、日永追分といわれ、東海道と伊勢街道の分岐点である。
京にのぼる道と伊勢神宮への道。
その分岐であるから、それはそれは重要なポイントであったのであろう。
駅から10分ほど歩いて、分岐点である「追分」へ。
そこは現在も道の分岐点で、現役の追分であった。
Yの字になった中央部分が、まるで三角州のように取り残され、こんもりと木が茂っている。
ここでひとりのサルシカ隊員と合流する。
デザイン会社を経営している前川さん。
「内部線の取材ならなんで一声かけてくれないんですか〜」
なんと彼のオフィスと自宅は、追分のとなり、泊駅の近くにあるという。
Facebookでワタクシと写真師が内部線に乗って旅していることを知り、仕事をほっぽり出して駆けつけてくれたのだ。
さて、この日永の追分であるが、歴史的要所というだけではないのだ。
なんと水が湧き出ているのだ。
正式な名称はないらしいが、地元のみなさんは「追分のわき水」と呼んでいるらしい。
ワレワレが取材している間も、ポリタンクやペットボトルを持った人たちがぞくぞくとやってきては水を汲んでいった。
「効能? そんなわからへん。カミさんがここの水は身体にええんやいうから汲みにきとるんや」
「おお、ここの水はええぞ〜、数ヶ月放っておいても腐らへん」
「この水で焼酎を割って呑むとうまいんや〜、あんたもやってみぃ」
汲みにきた人に話を聞いたところ、意見はバラバラであった(笑)。
が、人気であることには変わりない。
「隊長、隊長、でもね、この水はここで湧いてるわけじゃないですよ」
デザイナー前川は唐突なこと言い出したのである。
「実はこの追分のわき水の源流は、ここからちょっと歩いたところにあるんです」
「は? ちょっと待て。じゃあなぜここでジャバジャバ水が出てるんだ」
「それが謎なんですよ」
おおおおお。
突然ミステリーな展開になってきたのである。
日永の追分。
その三角州の中でわき出している「追分のわき水」。
しかしそれはそこでわき出しているわけでなく、他でわき出したものをここまで運んでいる?というのだ。
いこう。
ただちに行こう。
思いついたらすぐさま行動できる。
いくらでも予定を変更できる。
それがこの行き当たりばったり取材のいいところだ。
デザイナー前川に案内してもらって、その秘密の源流をたどる。
「どっち?」
「あっちのほう」
緊張感まるでなしのミステリー探訪の旅なのだ(笑)
で、やってきたのがここ。
住宅街の真ん中。
上にマンションが立っている、その下。
唐突に、さりげなく、正直にいうと、なんのありがたみもなく、その水は出ていた。
が、やはり地元の人はここのことを知っているらしく、ぞくぞくと水を汲みにくる。
ここが追分のわき水の源流であることは誰もが知っていた。
が、距離にして数キロ離れている。
ここで湧き出た水をどのように追分のあそこまで運んでいるのか?
また何の目的でそのようなことをしたのか?
そもそも誰が??
謎はいっこうに解き明かされないのである。
でろでろでろでろ〜。
決してワタクシは水を吐いているわけではない(笑)。
湧き出た水を飲んでいるのである。
口当たりのやわらかい水である。
そして冷たい。
「で、結局なぜここの水を追分まで送ってるんだ?」
ワタクシはデザイナー前川に聞いた。
「昔ここらへんでお風呂屋さんをやっていた人が水を引いたという話があります。けど、その理由も真偽もまったくわからないんです」
なんと案内してくれた彼も知らなかったのだ。
ここまで来ておきながら、なんとも欲求不満のたまる展開ではないか。
読み進めた人もそうであろう。
すまぬ。
が、この話はここでおしまいなのである(笑)。
「じゃ、そろそろお昼にしましょうか。ぜひともご案内したいお店があるんですよ」
デザイナー前川は、不満げなワタクシの表情を見て、慌てていった。
めしを食わせてごまかそうという作戦である。
内部線の線路を渡り、追分駅へと戻る。
内部線の軌間は762㎜のナローゲージである。
ひとまたぎで渡ってしまえるのだ。
このあと、この762㎜が重要な数字になってくるのでぜひ覚えておいてほしい、とデザイナー前川がいった。
で、やってきたのが、追分駅のすぐそばにあるモンヴェールという洋食屋さん。
なかなかしゃれた店である。
「実はここの店主は、内部線の存続活動にとても熱心な人なんですよ」
そう教えてもらいながら入った店内には、内部線を守るための寄付ハガキのポスターがどどんと目立つところに貼ってあった。
そしてこのお店では、内部線保護のための面白い弁当も販売しているという。
店内でも食べられるということで、写真師と共にそれを注文した。
「駅前ナロー弁当」。
「ポーク照り焼き丼」「ミンチカツ照り焼き丼」「チキンカツ照り焼き丼」と3種類あって、値段はナローゲージの762㎜にかけて各762円。
包装紙もそれぞれ違って、内部線の絵が描かれている。
こちらは「チキンカツ照り焼き丼」。
甘みがあってうまい。
しかもすごいボリュームである。
762円という価格のうち、いくらかを内部線保護のための寄付金にまわす予定である。
ここの店主は心の底から内部線を愛しているのである。
「だから内部線の話をうかつに店主に聞かないでください。もうえんえん語り続けて返してもらえませんから」
デザイナー前川が恐ろしいことを言う。
そうなのだ。
取材がはじまって、まだ2つ目の駅なのだ。
ここで終わってしまうわけにはいかない。
内部線の話にならぬように注意しながら、笑顔でお弁当のお話を聞く。
こちらは「ポーク照り焼き丼」。
味については、写真師が食べたので知らない(笑)。
食べ終わったあと、「ひいいい、お腹が苦しい〜」とわめいていたので、ボリュームたっぷりであることは間違いない。
最後は、店主と奥様の2ショットで。
取材なのにもかかわらず、お弁当やお店についてのお話をほとんど店主に聞かず、デザイナー前川から聞くという変則的なものになってしまった。
申し訳ない。
今度ゆっくりと熱い内部線の話を聞きに参ります!!
さて。
内部線の旅はまだまだ続く。