第53回『サルシカ隊長レポート』2013年6月

四日市から内部をつなぐ路線距離わずか7キロのナローゲージ(特殊狭軌線)、近鉄内部線。
その小さな電車は、立ち並ぶ家々のあいだを、田園風景の中を、学生鞄をもった若い男女や買い物かごをもったおばあちゃんを乗せてトコトコと走る。
今回はこの内部線を完全制覇!! ひたすら電車に乗って歩く!!

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四日市と内部をつなぐわずか7キロのナローゲージの旅。
泊駅で四日市のお茶をいただき、味噌蔵を見学させていただいた。
地元に暮らすデザイナー前川の出現によって、思わず充実した取材旅になっているのであった。

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続いて降り立ったのは、南日永駅。
ここも無人駅である。

内部線は電車も小さいが駅も小さい。
住宅地の中に他の家とまじってポツリとある。
看板がなかったら気づかないところもあるほどだ。

南日永では目的地があった。
今回の旅で唯一、事前に連絡をしてあったところだ。

創業明治14年の『日永うちわ』店。
稲藤さんだ。

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裏路地を抜けて、稲藤さんへ向かう。
これは道なのか溝なのか。
おじさんはこういうところが大好きである。
わざわざ溝にまたがって歩いてご機嫌なワタクシ(笑)。

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創業明治14年、四日市の伝統工芸品である『日永うちわ』の老舗の店構えは、思い浮かべていたイメージとまったく違った。
ギフトのお店である。

「いやいや、ここは違うだろ〜」

しかし写真師マツバラはすでに外観の撮影準備をしている。

「ここですよ、ここ! だって看板に『日永うちわ』って書いてあるじゃん」

あ、ホントだ。

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日永うちわの展示室は2階にあった。
ギフト品がずらりと並ぶ1階からは想像できない静かな空間。
社長の稲垣さんが対応してくれた。

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日永うちわは、丸い竹をそのまま使った『丸柄』のうちわ。
細い竹を細かく割き、交互に袋状に編んでつくっているのが特徴。

よくしなり、心地よい風があおぎ出される。

昔、この日永うちわは、伝統工芸品としてこの日永のあちこちでつくられていたそうである。
が、いまこのうちわを作っているのは稲藤さんだけ。

「日永うちわは、その作り方も昔のままなんですよ・・・」

と、稲垣社長。

「竹を割く職人さん、編む職人さん、紙を張る職人さんと、それぞれいて、その職人さんの店でつくられ、次にまわされ、そして完成してウチにやってくるんです」

なんと、江戸時代からのシステムがそのまま使われている。
手間ひまかけて誕生するのが、この日永うちわなのだ。

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こちらが全国初!
伊勢型紙すかし彫日永うちわ!

お値段はとてもうちわだと思えない金額!!
が、これがすごく人気で、全種類購入していくお客さんもいるとか。
もはや中古車が買える金額でっせ(笑)。

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稲藤さんでは、うちわづくりの体験教室も開催中。
自分だけのオリジナルうちわをつくることができるのだ!!

社長に実演してもらったが、いつもは奥さんが対応しているそうだ。

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「もうウチしか作っていない日永うちわですが、一時はまったく売れず、ウチもやめようかと思ったときもありました。
でも東日本大震災のあと、エコな涼しさが見直されつつあって、どんどん販売本数は増えています。
やめずによかった、続けてきてよかったと思っています。
これからも愚直に続けていく。それだけです」

と、どこまでも謙虚な稲垣社長。
いろいろとお話を聞かせていただきありがとうございました!

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稲藤さんを出て地図を見ると、南日永駅に戻るより、となりの日永駅まで歩いたほうが近そうだ。
というわけで、東海道へと戻って四日市方面へと歩く。

現代の東海道はすごい交通量。
細い道なのにぞくぞくと車がやってくる。
安心して歩けない。
古い町並みが続くが、ふと遠くにコンビナートが見えたりする。
これが四日市の風景だ。

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稲藤の社長から、日永には「団扇最中」というのがあって、古き良き時代の日永うちわを感じてもらえるのでは、と紹介してもらったが、残念ながらこの日は定休日。

内部の杖衝坂の最中からはじまり、日永の団扇最中で終わる・・・なかなかよい展開ではないか、と思っていただけに残念。
だから旅はそのまま続く。
つまり歩き続けるのだ(笑)。

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日永朝市を発見。
もうすっかりお昼をすぎているので当然やっていない。
何か面白いものはないかと中に入ってみると、ありました(笑)。
なんだかすさまじくおもろい絵が。
いったいなんでしょう、これは。
まったく意味はわからないけれど、写真をとる(笑)。

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日永駅に到着。
たぶん電車に乗っているより、歩いている方が時間も距離も長い。
足腰がずいぶんしんどくなってきた。

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あと残された駅は、赤堀ひとつ。
次回、内部線の旅、完結。

さあ、がんばって歩こう(笑)。


写真:松原 豊