FM三重『ウィークエンドカフェ』2013年8月17日放送

今回のお客様は、『外宮参道発展会』の会長、山本武士さん。

かつては、日本の三大旅館街とも言われた外宮参道。
多いときには25軒もの旅館が軒を並べて、チンチン電車が走っていました。
バブルの時代を迎えると、おしゃれなブティックやカフェができ、多くの若者が集う場所になりました。

現在、式年遷宮を控え、新しいお店の建設ラッシュに沸く外宮界隈ですが、山本さんが外宮参道発展会の会長になった、今から11年前、39歳のときには、人通りがちょっと寂しくなっていました。
伊勢を訪れる人も内宮さんだけをお参りする人が多くなり・・・。
山本さんがまず始めたのは、伊勢を知るということでした。

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■外宮さんに微笑んでもらえる町に

私は今、アウトドアショップを経営しているとともに、まちづくり会社として『伊勢 菊一』を経営しています。
もともと伊勢神宮のことを詳しかったかというとそうではなく、自分が11年前に『外宮参道発展会』の会長になった時に、
「どうしてこの通りができたんだろう」
「この通りはどういう町を目指すべきなんだろう」
と考えました。

明治30年に『伊勢市駅』ができてから整備された通りで、伊勢神宮から一番近い駅の真ん前にあるのが『外宮参道』。
小さな頃から遊び場が外宮さんで、その中の勾玉池周辺でトンボを獲ったり、釣りしたり、山の中に入って行ったり・・・。
しかし、外宮で祀られているのが『豊受大御神』であることや他に祀られている神様、中で何が行われているか、全く知らなかったんです。

まずは知ることから始めよう、ということで、とりあえず商店街としての活動はひとまず置いといて、地元のこと、外宮さんについて勉強しました。

『町づくりはひとづくり』とよく言われますが、私は『誇りづくり』だと思っています。
自分の町にどれだけ誇りを持てるかが、町づくりにとって一番大切だと。

そして勉強会、講演会などで外宮さんについて知っていく中で・・・自分の意識が一番変わりました。

伊勢神宮がしてきたことは、とてつもないことなのでは、と。
世界に類がないし、伊勢だけではなく、日本が誇れることなのでは・・・という思いになったんです。

私たちが外宮参道を活性化させるために作ったキャッチフレーズが、
『外宮さんに微笑んでいただける町を目指そう』。
住んでいる私たちよりも、来て下さった観光客よりも、外宮さんに「いい町だな、住み良い町だな」と言っていただけるような町を目標にしていこうと。

だから各々が心の中で「これだったら外宮さん喜んでくれるかな」ということを考え、活動してきました。


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■『せんぐう館』ができたことでみんなの背中を押してくれた

遷宮に関してマスコミ等々でいろんな発信もあり、伊勢神宮をお参りする人が本当に増えているます。
特に今年は『式年遷宮』ということで、特別な感じですね。

外宮参道ににたくさんの人が来てくださるようになったのは『外宮』という発信ができてきたから。
実はこれまでは伊勢神宮は内宮だけだと思っている人が多く、外宮を知らずに帰られる方がたくさんいたんです。

10年前の統計ではなんと、内宮を参拝されているうちの2/3が外宮へお参りしていなかった。

昭和39年くらいまでは、同じくらいの参拝客数だったんですよ。
車社会の問題、教育の問題・・・いろいろあると思うんですけど、そこから徐々に差が開いていって、その差のピークが10年前。

近年ようやく外宮が発信されてきて、お客さんが増えてきましたが、まだ半分。
でもようやく半分まで来ました。
それは、私たちだけでなく、伊勢市さん、観光協会さん、商工会議所など、みなさんと力を合わせて、外宮を発信してきた結果なんです。

中でも一番大きな出来事が、去年完成した『せんぐう館』。
伊勢神宮としても、神道について神宮について知ってもらい、遷宮の意義も伝えたいという思いがあり、またもう一つ、外宮を活性化させたいとの思いもあったようです。

外宮を活性化させるには町の活性化が必要なので、そこへ『せんぐう館』が寄与したいと神宮の方から言っていただいて、これが完成したわけです。

そりゃもう、外宮に思いのある人間にとっては、神宮さんがそこまでしてくださっている以上、外宮を盛り上げるこのタイミングを逃してはいけない。
そういう思いが、今、一気に爆発したような感じですね。
今回の出店ラッシュにも、伊勢のそうそうたる老舗が出てくださっていますし。
神宮さんが『せんぐう館』を造ってくださったことが、みんなの背中を押したんじゃないかな。


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■伊勢の風は神様の声

伊勢は風の町と言われています。
枕詞が『神風』で『神風の伊勢国』と呼ばれていたからです。
神宮にも『風宮』というのがあり、級長津彦命・級長戸辺命という対の神様がいらっしゃいます。
神様は見えませんが、風によって応えている・・・伊勢の町に来て風が吹くと、神様が自分に応えてくれているような気に、みんながなるんじゃないでしょうか。
そしてそんな、『良い気』が出ている空間だからこそ、倭姫様が伊勢神宮をお治めになった、素晴らしい場所だと思うんですよ。
そして、その『気』を運んでくれるのが風じゃないですか。

ところで、7月26日から始まっている『御白石持行事』のために『白石献上歌』という歌が制作されました。
作詞が『せんぐう館』の館長である小堀邦夫さん、作曲はドラマ『仁-JIN-』のテーマ曲などを手がけた音楽家の長岡成貢さん。
歌詞がとても良いんです。
御白石の風景が浮かんでくるような歌詞で、最後に繰り返しで『風を呼べ、風を呼べ』というフレーズがあるのですが、その部分を聴くと、自分たちが一生懸命やっているという気持ちと感謝、それと神様と一体になるような気がします。


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■伊勢の人の役割

『外宮参道』に誇りを持ち続けるためには、住人の義務というか、役目があると思います。

ここに来てくださる、一千万人を越えるお客さんに「伊勢神宮って思った以上に素晴らしかった、また来たい」と思っていただけるのは、伊勢神宮自体の力が大きいのはもちろんながら、町の人であったり施設であったり、いろんな要素が加味されているのではないでしょうか。

つまりは『おもてなし』。
言われてするものではなく、心の底から沸き上がってくる行為としての『おもてなし』です。

どうやって沸き起こるのかというと、地元が好きだ、地元に誇りを持っている・・・この気持ですね。
それにはまず『知る』ことから始めないと。
自分たちが学び、勉強するのと同時に、私たちの活動で中心になっているのが、地元の子どもたちに外宮さんについて知ってもらうこと。

今年の8月1日には『外宮さん ちびっこ博士グランプリ』というのを開催しました。
実はこのイベントは年に1回行なっていて、今年でちょうど10周年。
外宮をガイドさんに案内してもらって、まわって帰って来てからクイズをするんです。
子どもはスポンジのように知識を吸収していくのでスゴイです。
しかもみんな、景品があるので必死(笑)
引っ掛け問題もかなりあるんですが、けっこうみんなちゃんと答えてくれて、喜んでもらっています。
このイベント、対象は小学生で参加者は120人ほど。
同行してきたお母さんのほうが、あまり外宮について知識がありませんね。
また、高校生にも「外宮で祀られている神様を知っていますか?」と聞いたところ、ほとんど言えない。
これは私たちの年代を含め、これまで、伊勢神宮について学ぶ機会がほとんどなかったためなんです。
運動会で伊勢音頭があったくらいで、それすらも今はないみたいですし。

ヨーロッパだと必ず社会科に『地域学』というのがあるんですね。
自分たちの地元を守ったり、伝統文化を知ったり。
しかしこれまでの日本には、そういった学科がありません。

私自身、若いころは早く都会に行きたい、海外で生活をしたいとの思いが強く、大学は東京、そして、イギリスへ留学しました。
実家の事業の後継のため伊勢へ帰ってきたとき、伊勢が好きという気持ちを素直に認められない自分がいました。
しかし学んでいくうちに伊勢の素晴らしさに気づき、本当は伊勢が好きなことにも気づきました。
大切なのは『知る機会』なんです。

だからこそ我々が知る機会を作り、外宮さんを発信、伊勢神宮を発信する。
伊勢神宮からではなく、町からできること伝えていく、というのが大事だと思います。

自分たちがみんなそれぞれできることを考えて、するべきことをすれば、伊勢はもっといい町になっていくと思います。

他にも外宮を盛り上げるための、私たちの取組みとして『奉音』を行なっています。
これは『せんぐう館』の奉納舞台で、音を奉納すること。
最初に行ったのは合唱でした。
合唱は和の心。ひとりではなく、みんなで心を合わせます。
今年の春は木遣りの奉音も行いました。
この緑の森で奉納した人がまた外宮さんに来たいなと思ってもらえるように・・・いつまでも伊勢は、日本人の心のふるさとであってほしいですね。