「ふれあい」VOL.21 2010年5月号

漁業のまち、紀北町海山区島勝浦の海が「磯焼け」の被害にみまわれています。
藻場を再生して豊かな海を取り戻そうと、地元の海を愛する若い世代の人たちが立ち上がりました。


代表 中村 文俊さん

磯焼けから
海を守るために…

私たちのふるさと紀北町海山区島勝浦地区は、昔から漁業で栄えてきました。
しかし近年、この海が「磯焼け」と呼ばれる症状にみまわれています。
「磯焼け」とは海底の藻がどんどん少なくなっていって、まるで砂漠のようになってしまうことです。

私たちが子どもの頃はかき分けながらでないと泳げないほど茂っていた海藻が、現在では岩肌が見えるほど少なくなっているのです。
海藻が少なくなると、そこに卵を産んだり、海藻を餌として育つ生き物が生きていけなくなり、海の生物の多様性が失われてしまうのです。

海の中のことなので、地元の漁師さんたちもなかなか分かりにくい上に、島勝浦では今でも魚がなんとか獲れていることもあり、あまり危機感を持てないんですね。

しかし、海の中に目を向けてみると、この島勝浦の海にも「磯焼け」は着実に広がってきており、これ以上、悪化させてはいけない、自分にできることは何かないか、と考えました。

もともと私は、鳥羽市答志町で海藻の再生事業に取り組む「海っ子の森サークル」に所属しており、海の環境保護活動に関わってきました。
「海っ子の森サークル」では、「鳥羽工法」と呼ばれる手間もお金もかからない方法で藻場づくりを進めています。この活動をお手本に島勝浦の海でもやってみようと、地元の知り合いに声をかけ、昨年9月に「海守り」をつくりました。

メンバーは6人で全員海山区の出身。
土木関係、林業関係、電気関係、学生など漁業とは直接関わりのない職業ばかり。
でも、子供の頃、たわむれに潜って見た一面に広がる海藻の海を愛しむ深い思いはみな同じなんですね。

目指すはさかな達が育つ
「海のビオトープ」作り

私たちの活動は分かりやすく言うと「海藻の植林」ですね。
「海のビオトープ作り、さかな達の森づくり」を合い言葉に、昨年10月に海岸清掃、11月にイセエビの稚エビの放流、今年1月に海藻の苗作りとウニ(海藻の天敵)の駆除を、そして4月には海藻の苗を自然石に取り付けて海に入れました。

海の中で作業をするので、潜水士やダイビングの免許も取得しました。
でも、活動は全員ボランティア。「海っ子の森サークル」や、三重大学のサークル、地元の子どもたち、近所のおばちゃんたちなど多くの方々が、ボランティアとして苗を石に取り付ける作業などを手伝ってくれました。

また、海に出るときはいつも地元の漁師さんにも協力いただき船を出していただくなど、みなさんで活動を盛り上げてもらっています。

住民との連携を深め
海をみんなで守る

漁場へ潜るには、地元漁業者への説明や許可が必要です。
幸いにもすんなり認めてもらうことができました。
むしろ私たちが海で活動しているのを見た地元の人から、「何しぃよんや?」と興味を持って声をかけてくれたぐらいです。
こうして地元の人々から関心を持ってもらえたり、ご理解をいただけるのも、私たちのような若い世代が、故郷の海を守るために活動をしているからではないか、と思います。
この地で海を愛する気持ちは老いも若きもみんな同じなんですね。

ちなみにサークル名の『海守り』には、文字通り「海を守る」という意味もありますが、「海のゆりかご」と言われる海藻を育てるので、「海を子供のように見守っていきたい」という思いも込めているんですよ。
現在の悩みは、それぞれ職業についている私たちでは週に一度しか藻場の状況を観察できないことです。
藻場の成長具合や「磯焼け」の被害の様子などを知るためにも、少しずつ地元の漁師さんや島勝浦の海を愛する人たちと共に活動を続けていきたいですね。

海の再生活動をとおし
この町を元気にしていきたい

この2月、伊勢の少年サッカーチームが、漁業体験、地元の伝統食作り、島勝浦の歴史や海の環境を学ぶことを目的に1泊2日で島勝浦を訪れました。

子どもたちからは「とても楽しかったです」「良い体験をさせてもらいました」という声が届いたことをきっかけに、この先は、海の環境学習を組み込んだ体験プログラムを作ってみたらどうか、という案も出ています。
このプログラムを活用することで、町外からもたくさんの人に島勝浦に来てもらい、町を活気づける活動につなげていきたいと思っています。

昨秋にこのグループができたばかりなので、今はまだ色々な活動の土台づくり。
これからコツコツと末永く続けていくことが大切だと感じています。活動を始めて感じたことは、地域の住民として地域のために自らができることに取り組むことが大切、ということです。
私たちの場合それが藻場の再生だったんですね。

海は繋がっていますよね。
大きな夢ですが、この私たちの活動が町ぐるみの活動に繋がり、それが島勝浦の海から日本の海を再生していく活動に繋がっていけばすごいですよね。