「ふれあい」VOL.23 2010年9月号

日本の農業の衰退に危機を感じ、産学連携や地域連携で農家を支え、地域を元気にするために何かできることはないかと模索し続けています!


奥川ファーム 奥川 克巳さん

日本から農業が
なくなってしまう

私が活動している地区では昔は、ほとんどの人が専業や兼業で農業をやっていましたが、今では頑張っている人たちのほとんどが70歳代になってきています。
その人たちが農業をやめた時点で、農地はどうなってしまうのでしょう…。これは紀北町だけでなく、全国でも同じ状況なんですよ。

そんな中、いま農業が直面している後継者不足という危機を皆さんに分かってもらいたい。そうした思いから次代を担う大学生と一緒に農家が自立できるために何ができるか。農業自立に向けた取り組みに私は挑戦をしています。

まず農業の危機を
実感してもらいたい

日本の食糧自給率は40%と低いため、このまま自分たちの食糧を海外に頼っていていいのか。
海外から食糧が輸入できなくなったら日本はどうなるのか、と不安がつのります。

お店というのは物を売るだけですが、いざというときのために、自分たちの食糧を確保するには作り手である農家を守っていくことが大切だと思います。
今のままでは農業をできる人が誰もいなくなってしまうため、このことを後世に伝えなければと感じています。

農業体験で農業の大変さを経験し、農家さんが抱えている問題をともに解決したい。
名大ベンチャーサークルより

少しでも農業の現状がわかるように、来年度は一部水田を借りて稲作を体験したい。
三重大ベンチャーサークルより

昨年から一つの取り組みとして、三重大学や名古屋大学などの学生に農業の手伝いに来てもらっています。
彼らも実際ここに来るまでは、農業がこんなにも衰退しているとは感じていませんでした。
確かに身近なスーパーに行けば、いつでも米や野菜は売っているので実感できなかったんですね。

でも、ここに来て地域の皆さんと話をしたり、放棄された農地を見たりすることで、耕作放棄地が確実に増えていることを実感してもらいました。

それがきっかけとなり、何回も足を運んでくれて、学生の皆さんが自分たちにできることはなにかを考えてくれています。


今では自分たちの手で田畑を耕作し、収穫した農産物をネットや大学構内などで販売してくれています。
販売した収益は農家に還元してもらったり、うちに来る交通費として活用してもらったりしています。

また、学生がネット販売する商品としてさらに差別化を図るため、「みえの安心食材」として認定を受けていた水稲栽培を、学生からの提案により、農薬・化学肥料の量をさらに減らすことで、全国に広く知られた「特別栽培米」の認証を取得できるレベルにすることに成功しました。

こうした大学生の皆さんが考えてくれたアイデアなどの様々な情報を僕自身もブログで発信しながら、困っている農家の皆さんと共有することで、たくさんの農家と共存できるかたちができたらいいなあと思っています。


農繁期の忙しい状況をブログに書き込むと、大学生の皆さんが助けにきてくれる。

連携することで
農業自立の手助けができる

米を作るのには思いのほかお金がかかります。
作るより買った方が安い、ということから、耕作放棄地が増えているので、農地を守るためにその土地を借りて米や野菜を作らせてもらっています。
持ち主にとっては土地の管理が頼める。うちとしては農作物を作る場所ができる。お互いにメリットがあるんですね。

また、こうして作られた野菜を必要な時に必要な量だけ自ら収穫に来てくれる地元の民宿さんもみえます。

「常に新鮮な野菜を民宿のお客さんにも喜んでもらい、また訪れてもらえる」こうしたお互いの良い関係が広がって農業が本当に自立できるようになったら幸せですね。
農業の衰退を防ぐには農家だけではなく、消費者の力も必要なんです。

農業を安心して
できるようにしたい

 
農業自立をするためには米だけじゃなく、ほかの利益の出る農産物を作らないといけません。
そこで、大内山の「オープンセサミカンパニー」の伊藤さんと連携してゴマづくりにも挑戦しようと思っています。

さらに、「きいながしま港市」の商店から漬物にする大根を作ってほしいとの相談もいただきました。
これからは地域で一生懸命がんばっている人達と連携していくことで地域を元気にできないかと考えています。

そして将来、独自の販売網を確立し地域の人や都会の人とともに、農業で安定した収入が確保できるシステムを産学連携や地域連携で構築したいです。

農業がしたくて田舎に来たけどやり方が分からない。
農産物を売る先がない。
そういう状態ではせっかくやる気があっても続けられない。
だから、地域で農家を支えることが大切なんですね。例えば100世帯が1軒の農家と共存して生活する形ができないか模索しています。
そして、それが広がっていって、地域全体を元気にすることができたらすばらしいですね。

県南部の農業活性化の一助に…

オープンセサミカンパニーのお二人
西村耕平さん   伊藤衡基さん 

奥川さんの農業の自立に向けた取り組みと農業に対する熱い想いにいつも感服しております。
今年から奥川さんには、西村と私が立ち上げたオープンセサミカンパニーの“ごま”の栽培仲間に加わっていただいております。
6月に大内山の畑で行った“ごま”の種まきの際、フラッと来られアドバイスいただくなど、今後の活動に大変心強く感じております。

私どももごまの栽培を始めたことで農業に深く関心を持ち、新たな取り組みとして、地域の農産品などを扱う直売所をオープンします。

今後、奥川さんとは、農業に関するさまざまな情報・意見交換などを積極的に行い、三重県南部地域における農業活性化に繋げることができればと思っております。

伊藤衡基(ひでき)