FM三重『ウィークエンドカフェ』2014年5月31日放送

今回のお客様は紀北町『下河内の里山を守る会』のメンバー、奥田成子さんです。
奥田さんはなんと、この3月に福島県で行われた『全日本素人そば生粉打ち名人大会』で最高賞の名人位を受賞されました!
そば打ちの全国チャンピオンですよ。
さあ今回は、おそばの話をお楽しみください。

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■そば打ちをするようになったきっかけ

最初は自分がそば打ちするなんて、思ってもいなかったですね。
下河内の里山どうやって守って行こうか、会員さんでどうやってここを盛り上げていこうかを考えた時に、そばを作ってみようかという話に。
何もわからないまま、イベント時に、そばのたい焼きやそばのお好み焼き、そばのケーキなどを作っていました。
そんな時、県の農業普及員の方が、イベントに来てくださった方にそば打ちを体験していただくのはどうかと、提案してくださったんです。
私たちはあくまでも農業普及員の方のお手伝いというスタンスで、2〜3年やってみました。
その時はまだ、そば打ちの方法も知らないし『全麺協(全国麺類文化地域間交流推進協議会)』という全国組織も知らないし手探りの状態でした。
そこで、先ほどの農業普及員の方に『私たちにもそば打ちをさせてよ』とお願いし、初めて教えてもらったんです。

本格的にそば打ちを始めたきっかけは、会の仲間の1人に『全麺協』の段位認定制度の初段をとるように勧められたことですね。
ほかのメンバーと兵庫県に出かけて、初段を取得しました。
その時の緊張感がなんだか心地よく、翌年に2段、次の年には3段を取得しました。
初段はそば打ちの楽しさを感じていればほぼ合格、2段になると60~70%の合格率、3段では半分くらいになるそうなんです。
そして4段は、2年後に2泊3日の研修を受講し、そのあとそばの知識のテスト、小論文、先生からの推薦状を提出。
書類選考をパスした人だけが受験できます。
どんどんそば打ちの世界に魅了されていった私は、無事に4段までくることができました。


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■そばは栄養も豊富、素晴らしい食べ物

そば粉はタデ科の植物で、小麦粉やお米とは違うんですね。
いわゆる『五穀』に含まれないので、昔の僧侶が『五穀断ち』の修業をした時でも、そばだけは食べられたのです。
そばに足りない栄養素はビタミンCとちょっとしたカルシウムだけで、その他はほとんどすべて入っているんです。
しかもそばの実は生で食べられるので、五穀断ちしている僧侶たちはそばの実を食べて生き延びることができたそうです。
また、忍者はそばの実を、谷川の水でといて生で食べたそうです。
火を使わないから煙も出ないので、敵地でも食べられますから。

かつて一度、員弁で作られた採りたて挽きたてのそばを打たせてもらったんです。
その時に、「これがそばのおいしさか!ステーキよりおいしい!」と思いましたよ、本当に。
そばにはタンパク質のでんぷんの甘さが凝縮していて、もちっとしているんです。
うどんは穀物ですが、そばはそこにタンパク質の旨味が入ってくるんですね。

ある信州のおそば屋さんがネットで「海より深い、宇宙より広いそばの世界」と書いていました。
でそば打ちに夢中になる男性って多いですよね。
正直、何故そこまで夢中になるのか・・・なんて思っていましたが、やればやるほど、その気持ちがわかります。
そばのすごさがわかってくるというか。


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■驚くほど高い、『名人戦』のハードル

名人戦を受けるにあたって、気持ち的にはハードルが電信柱くらいの高さでした(笑)
私はどこを目指して、何を気にして練習したら良いのか、見当もつかなくて。
何がなんやらわからない。
それが楽しいんですけどね。
年一回来てくださるそば打ちの先生に、名人戦に出るためのアドバイスをお聞きしました。
横の線をキチッとすること、練りの時は足を見るから必ず体重を載せること、仕上がりが奇麗になっていること・・・細かいですよ。
普通の認定会はパーツパーツで見ます。
例えば、水回しは何点、練りは何点、伸しは何点という感じで。
しかし名人戦は、まず水回しの時点で5人ほどを絞ったら、あとに何十人いようとも、また練りや伸しがどれだけ巧くても、もう見てもらえないんです。
名人戦の審査員の見方と、認定会の審査員の見方は全然違う。
消去法なんです。

私が師匠と呼んでいる方は、やはり水回しが素晴らしいんです。
誰のまねをしたわけではなく、どうしたらそばに水が回るかということを自分で考えて方法を編み出して。
心からそばを愛している方なので、そば打ちをしようと言う人に、すべて教えてくれています。
もちろん私にも教えてくれたのですが、最初は何を言っているかを理解できなくて・・・「どうして?どうして?」と質問し続けました。
そのうちにようやく、そば粉一粒に水を一粒くっつける・・・そのことがわかってくるんです。
小麦粉などはすぐに水となじみますが そばは難しい粉なので、ぎゅっと水をくっつけてあげないとダメなんですね。

ちなみに今回の『全日本素人そば生粉打ち名人大会』の出場者は40名でした。
最高位のそば打ち5段を持つ人や、ほかの大会で優勝経験がある人もたくさん出場していました。
40分の間に手洗いから始まり、水回し、こね、練り、切り、片付けまでを行います。
まさか優勝できるとは思いませんでした・・・。


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■おいしいそばを打ってみんなを喜ばせたい

そば打ちをしていて思うのは、おいしいおそばを打って家族や周りの人に喜んでもらいたいんですね。
「あの人に喜んでほしい」「あの人に食べさせてあげたい」と思いながら打っているんです。
だからそば打ち体験に来るみなさん、和気あいあいというか。
人がすることを喜んでくれる人、人を喜ばせるのが大好きな人が多いです。
こういうことも、そば打ちを始める前は考えもしませんでした。

私が4段を認定されたのは、三重県で4番目だったんです。
三重県はそば文化がそれほどではなかったので、みんながとても喜んでくれました。
それがすごく嬉しい。
もっとがんばろうと思う。

北海道から九州までそば打ちをしている人はたくさんいて、性別も年齢もまちまちです。
でも、そばに関して話し出すと、もうその話で打ち解け合える・・・共通言語みたいな。
自分を表現したいではなく、どうしたらおいしいそばが打てるかという話。
そこがとても魅力ですね。

だれでも何かあると「みなさんのおかげです」というでしょ。
それって正直、常套句かと思っていたんですよ。
ところが自分が名人になった時に、今までのいろいろなことがよぎって。
みなさんの協力があり9割積み重ねてきたからこそ、『大会』という1割を乗せることができた。
心からみなさんに感謝しました。
みんなが喜んでくれて、みんなが下準備をしてくれて・・・「みなさんのおかげです」という言葉が、心から出てきました。