FM三重『ウィークエンドカフェ』2014年6月21日放送

今日のお客様、甚昇丸の石倉實さんは紀伊長島で沖合底引き網漁を営んでいらっしゃいます。
巻き網漁から底引き網漁に変更したのは15年前。
この地域の資源のことを大切に思っています。
ナマコは、昔からよく獲れていたそうです。
そのナマコを使って、石倉さんが商いをスタートさせました。
さらに、深海にいる銀のナマコ『沖ナマコ』の煮汁を使った自然派化粧品が完成したそうです。

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■乾燥ナマコの商売を始めるまで(石倉)

紀伊長島の近海では、昔からナマコがよく獲れたんです。
親の代から、ナマコは身体に良いと聞かされて来ました。
正月になると浜に出て、銛でナマコを突いて、珍味として食べてましたね。
当時は食べるといってもその程度だったんですが、15年ほど前から底引き網漁に変わってからは、ちょいちょいと網にかかるようになって来たんです。

そんな時、長島の友達から、「實さん、ナマコ獲らないのか?」と聞かれまして。
獲れないことはないです。
が、それまでは、積極的に獲ろうと思ったことがなかったんですね。
網の仕組みをちょっと変えてみたら、ものすごく獲れたんです。
それがはじまりで、ウチでボイル加工(一次加工)して、乾燥させて。
家内がナマコの加工係で、夜中に炊いて干した『乾燥ナマコ』です。

しかし、長島は雨が多いため湿気も多く、かなり乾燥させたと思っても戻ってしまうんですよ。
これじゃいかんなあ、ということで、伊勢の友達に乾燥してくれるよう頼んだんですが、それでも戻る。
三重県という地域が乾燥には向かないんですね。
現在では、仙台の業者とタイアップして、乾燥ナマコを中国で販売しています。


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■ナマコの煮汁を使って化粧品、健康食品を作るための苦労(二階堂)

私は東京で美容師の仕事をしていたのですが、ナマコの煮汁のヌルヌルにはずっと注目していました。
肌に良い成分が含まれているはず・・・と。
そして、研究機関で成分をしっかりと調べ分析してもらい、化粧品と健康食品の開発にたどりつきました。

ここまでが困難ばかりでしたね。
何と言っても原料が生きものですから。

普通に煮汁を石けんを作る機材に入れて、雑貨扱いとしての商品とか、普通に食品としてだったら簡単に作れるんです、
が、薬品は難しいんですよ。
私たちが開発したのは、化粧品規格と健康食品規格。
なので縛りがとても強い。
話をしていく中でも妥協を強いられることが多々ありました。
ま、でもくじけず、乗り越えながら納得のいく商品ができたんですけど。
ナマコは原料化するのが大変。
だからどこのOEMも扱いたくないらしいんです。
菌がとても多く・・・と言っても雑菌ではないのですが、化粧品にするにあたって、菌数の縛りがあり。
それが研究者の頭も悩ませて、本当にどうしようかな、と思ったこともあったくらい。
研究者も、もう自分のところでは手に負えないということで、いろんな所に研究の委託をしました。

また、引き受けてくれる会社もなかなかなくて。
とにかく作りたいのは、日本一の安心安全な化粧品。
費用はかかっても構わない・・・という気持ちがあり、父と2人で化粧品会社を回り、協力してくれる企業を探していたところ、あるOEM企業の社長が「少々契約が変わっても(値が張っても)構わないのか」と。
構わないからその代わり、子どもが間違って飲んでも心配のないくらいの化粧品を作ってくださいとお願いしたところ、
「そこまで言うのなら、作ってみるわ」と。
そして、ようやく商品化することに成功したのです。

今、他の会社から問い合わせがあるんですけど、これは自社オリジナル商品として自分のところで温めて、これからも販売していこうと考えています。


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■原料の『沖ナマコ』のすみかは深海300m

二階堂(以下、二) 化粧品の原料として使っているナマコは、真ナマコの中の『沖ナマコ』。

石倉(以下、石)こんな水深300mのところにナマコがいるとは思わないですよね。
普段食べるナマコは近場のものだけど、化粧品に使う沖ナマコは海洋深層水の中で育っているということ。
『沖ナマコ』は底引きで揚がってきて、初めて知りました。
父の代からナマコに縁があるので、縁なのかもしれません。

 よく食べる、赤ナマコ黒ナマコと違って、『沖ナマコ』は銀色をしているんです。とげがあって。
中国には『沖子』として出荷されているらしいですね。
横浜の中華街に行けば売っていますが、1kgで5万円もするんですよ。

 このナマコも生でスライスしてポン酢で和えて食べたら美味しいが、それではそれだけのもの。
しかしこれを乾燥させて健康食品として販売しようとすると、無菌にしなければならないとかで、その技術が必要でした。

 食品として販売するのであれば、粉末をそのままカプセルとして売ることはできますが、今度は賞味期限とかの縛りが出てくる。
『健康食品』として販売したかったので、クリアする基準が多かったですね。
この化粧品は『ディーナス』という名前で販売されています。


※詳しくは基本情報からHPへ


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■海の資源を大切に使おう

 先日、漁師のOBが10人くらい集まって飲んだ時に、宣伝を兼ねてこの化粧品を渡したら、「お前は何を作っているんだ!?」と驚かれました(笑)
みんなにガラに合わないと言われました。
そりゃそうだよね。
私もこんなことするなんて夢にも思わなかったけど、やってみたら意外と波に乗ってしまって。
町の友だち、伊勢の友だち、仙台の友だち・・・いろいろな人の世話になって、今があるのだと思います。

 商品化は、父のサポートがあったから実現できたこと。
会社の中ではできないことだったので、それは一番大きいです。
思いが通じたというか。応援してくれたおかげです。
深海からは沖ナマコだけでなく、珍しい生きものがたくさん揚がります。
時には鳥羽水族館に持っていったり、Facebookにアップしたり。
全国の魚ファンや業界の方からの問い合わせも来るほどです。
揚がったものは、どんな形であれ、ちゃんと利用していきたいと思います。

 これからは魚の漁獲量ばかりを増やすのではなく、漁獲量はそのままに付加価値を付けることで値を上げて採算を取り、地元のPRを図る・・・そういう方向に行くべきだと思います。