FM三重『ウィークエンドカフェ』2014年9月13日放送

今日のカフェのお客様は、『NPO法人 大杉谷自然学校』の校長先生、大西かおりさんです。
大西さんが生まれ育ったのは、大台町大井地区。
地元が大好きだったから、ふるさとといわれる場所で働きたかった。
これが、『NPO法人 大杉谷自然学校』で働くきっかけ。
小さな頃から、山や川のおもしろさを満喫してきました。
働きだしてからは、地域に残る文化の中から、山や川とのつながりを知り、自然に対し、尊敬の気持ちが強くなったそうです。

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■山や川には神様がいる

今年の夏休みもたくさんの子供たちが、宮川で遊びました。
人気は川への飛び込みです。
ちょっと勇気がいりますが、やり遂げた後の達成感は格別だと思いますよ。

透明度の高い川で泳ぐ体験を通して、自然の中には何かいるな、と感じることがとてもあります。
そうすると、それを崇め、お祀りし、願掛けをしたくなる・・・そんな気持ちが自然に湧いて来るんですね。

山には『山の神様』という山や田畑の神様がます。

最近は過疎高齢化で田畑を作る人が減ってきているので、山の神様が形骸化してきているところが多いですね。
しかし熊野の丸山千枚田は今でも、山の斜面に知恵をめぐらせて、なるべく多くの米を収穫しようとしています。
千枚田の一番小さな田んぼでは、稲が3本しか植わらないそうですよ。
そういう話を聞くと、昔の人は本当にお米を作ることのが大変だったんだな、と思わされます。
そしてそれは、私たちの地域である大杉谷も同じ。
米一粒でも大事にする時代があったと思うんです。
だからこそお米が穫れますようにと、山の神様を祀る。

私たちの地域では、田畑を見守るところに山の神が祀られてきました。
が、最近、山の神様が下に降りてきてしまったんです。
それは地域の人たちの足腰が悪くなってきてしまったため、山の神様がいるところまで行けなくなってしまったから。
そのため、今は下の方でお祀りしています。


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■鮎の伝統漁法・暮らしの伝統を教える

今とても力を入れているのが、伝統漁法。
鮎の伝統的な獲り方、また、他の魚を獲る漁法も残っているんです。
ところが今、その漁法が廃れてつつあるのが現状。
だからこそ、伝統漁法を記録して継承していく必要があると思うんですね。

先生は地元の70〜80歳の方。
伝統漁法を継いでいる方に習って漁法の保存継承、また、最近では川魚を食べることが減っているので『魚食文化』も継承していきたいです。
しかし実際には、まだあまり本格的にはしているわけではなく、見学することが多いです。
実は、伝統漁法は、習得がとても難しいんですよ。
昔の人は小学校低学年から、家の人や近所の人から習いはじめ、小学校高学年〜中学校くらいで一人前というか、まあまあできるようになって。
そこから50年くらい続けるワケなんです。
習い初めからおよそ70年間、同じ川で漁業を続ける・・・これはすごいことだと思います。
私もやってみたりはしますが、なかなかできません。
宮川には『しゃくり』または『ひっかけ』と呼ばれる、竹竿の先に針を付けて、鮎を獲るという漁法があるのですが、川の微妙な環境の変化、川の流れ、そこで調達できる竹の種類、竿の長さなどの要素によって、微妙な変化があるんですよ。
このへんでは『水眼』と呼ばれている『箱メガネ』にも工夫があり、上部に『水切り』という部位がついています。
これは海用の箱メガネにはないんです。
宮川はとても水量が多いので、川の流れを避けるためにも非常に高い水切りが付いています。
昔の人は創意工夫しながら、川の環境に合わせて魚具を発達させ、魚の獲り方も変えてきたんですね。
やはりそれは、自然に長らく親しんで研究し尽くさないとできないことだと思います。

また、今の社会と言うのは、経済中心の社会になっていると思います。
しかし、ここ大杉谷も含め、日本のいろいろな地域社会には、自然と一体になって暮らしてきた文化や知恵や理念・・・大きな意識が存在しているんです。
伝統漁法は、そういったものを伝えていくための一つの切り口。

今、大杉谷自然学校では、日本ミツバチを飼っています。
蜜をとり、その後の巣から蜜ろう取り出してワックスも作っています。
地域と生活に密着している山での暮らしの楽しさを、みなさんに伝えていくことも、私たちの大切な仕事。
この蜜蝋ワックス体験塾は10月18日に開催予定です。


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■子供たちに川魚を食べてもらいたい

おいしい川魚を食べるイベントを9月20日、大杉谷自然学校で開催します。
川魚を食べる機会は、今や本当に少ないので、ぜひこの機会においしい食べ方を学んでもらいたいです。
小さなお子さんにも食べてもらい、この味を引き継いで欲しいですね。

スーパーにでも川魚はほとんど売っていませんが、大台町に来れば『宮川上流漁協』さんや、民間で鮎を養殖されている人もいますので、購入することができます。
鮎だけでなく、アマゴも購入可能なので、お問い合わせください。

一番好きな食べ方は、やはり塩焼き。
それも炭火で焼いたのが良いですね。
子どもたちにはいつも、炭火で焼いた鮎を食べさせています。
汗をだらだらかきながら、子どもたちが自分で焼き上げて食べる・・・格別な味がしますよ。

鮎というと、今や高級魚なので、なかなか食べるチャンスが少ないですが、それでも一番好きな魚は何、と聞かれると、やはり鮎です。
味が良いので、大好物です。


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■川と海はひとつ 宮川と鳥羽は繋がっている 

平成16年の台風21号による被害で寸断されていた大杉谷登山道が今年、10年ぶりに全線開通しました。
この夏はたくさんの登山客が、ここに戻って来てくれました。
大杉谷のV字渓谷の素晴らしさに心が躍りますが、この美しさも雨が作りあげたものです。
災害を経験して、新たに感じることがたくさんありました。

台風21号で大きな被害に遭った宮川から、大量の流木が鳥羽の方まで流れていってしまったんです。
『唐戸』という地区の山の神様も、海まで流れて行ってしまいました。
でも、鳥羽の方に拾っていただいて、その神様は戻ってきたんです。
それを知った時、鳥羽と宮川・・・離れているようで、実は密に繋がっているなと実感しました。

そして、宮川の流木が鳥羽で迷惑をかけたならば、何か海でご恩返ししたいな、ということで、来たる9月23日に『アマモ場』の生き物の観察と浜辺のゴミ拾いをすることになっています。
『アマモ場』は『海のゆりかご』と呼ばれていて、砂地に生える海藻の一種。
若布や昆布よりももっと浅瀬にはえ、もっとグリーンが淡い、小さな可愛らしい海藻です。
そこで魚や海老など、いろいろな生き物の赤ちゃんが育まれているんです。
『アマモ場』やその周辺をを守るために浜辺をきれいにしたり、『アマモ場』からタネをとって、アマモを植えたりします。
元々は『海の博物館』さんが行っている事業なので、そこに私たちもお手伝いさせてもらっているんです。

川の上流で、山の手入れをしたりする事業をするとともに、山と密接に繋がっている海での活動もしていきたいなと思います。