「ふれあい」Vol.03 2007年9月号

牡蠣好きのみなさんの間で人気が高い渡利(わたり)牡蠣をご存知ですか。
海水(熊野灘)と淡水(船津(ふなつ)川・銚子(ちょうし)川)とが混じり合う汽水湖である白石湖(しらいしこ)で生まれ、ここでしか育たない希少な牡蠣。
この生まれも育ちも三重という渡利牡蠣の魅力を、全国に発信しようと生き活きと取り組まれている方々にお話をうかがいました。

父から受け継いだ渡利牡蠣養殖に生涯をかけたいと話す
畦地(あぜち) 宏哉さん(写真右)

新しいビジネスチャンスLLP制度導入に携わる
山路 雅勇さん(写真左)

地元で愛される味を全国へ
渡利牡蠣にかける大きな夢

美しい自然環境に恵まれた白石湖(紀北町海山区相賀の渡利地区)で育つ渡利牡蠣。
この渡利牡蠣は、白石湖の冬場の水温が高いため成長が遅く小粒なのと、塩分濃度が低いため甘みがありクセのないのが特徴です。

だから牡蠣は苦手という方からも美味しいという嬉しい声をいただくこともあります。

しかし、もとは個人経営で、地元で愛されていただけのものでしたので、全国に目を向け、有力な生産地と競合して大きな仕事をしようにも限界がありました。

また、大きなホテルやスーパーと取り引きしたくても、一事業者では、安定した供給ができないなどの問題点があり、なかなか大きな商売に繋がりませんでした。

そんな時、LLP制度(※1)の存在を知り、これは私たちに大きなチャンスを与えてくれるものだと思いました。このLLP制度を利用し、渡利牡蠣を加工品にしてブランド化すれば、冬場しか販売できなかった牡蠣を夏場でも販売できるようになり、年間を通して渡利牡蠣の魅力をPRすることができます。

また、海産物以外の特産品も取り扱うことができるようになるため、他の収入も見込めます。

力をあわせて一歩、一歩、
          販路を拡大していきたい

そこで、平成十七年十二月、十七軒の個人事業者が集まり、LLP制度による組合「LLPオイスターズ」が誕生しました。

まず最初に、冬場だけでなく夏場も売れる牡蠣の佃煮や塩辛などの加工品開発に着手しました。

きっかけは昨年末、きいながしま港市で試食用に店頭に並べた渡利牡蠣の佃煮がお客さんに大好評だったことでした。
「これ売っていないの?」
「1粒百円でも買いたい」
といった話をいただき、試作しました。

まだ今年の四月から試験的に販売を始めたばかりで、どうやって全国デビューしていけばいいか試行錯誤の段階ですが、まずは渡利牡蠣を知ってもらうことを大切にし、一つひとつ確認しながら進めたいと考えています。

確かな手ごたえあり!
          逆境をチャンスに変えた「渡利牡蠣まつり」

そんな渡利牡蠣が今年(2007年)の二月に開催された「渡利牡蠣まつり」で大いに注目されました。

昨年(2006年)、牡蠣の出荷が盛んになる十二月にノロウイルスによる胃腸炎や下痢症のニュースが流れ、牡蠣の販売に影響が出ました。

ですが、私たちは渡利牡蠣の生育環境は他の産地と違い、ノロウイルスが発生しにくい環境(※2)であることから、安全性には自信がありました。
そこで渡利牡蠣は安全というPRと、新しい商品のPRをかねて、牡蠣まつりを開催し、みなさんに味わってもらう機会をつくろうと考えたのです。

開催まで一ヶ月という短い期間しかなかったので昼間は仕事をしながら、夜や空いた時間で、それはもう死にものぐるいで準備を進めました。

当初は、地元の食の祭りが二千人程の来場者を集めるため、千人ぐらいの来場者を予測していました。
ところが五千人もの方にお越しいただき、三万個用意した牡蠣は、あっという間になくなってしまいました。

せっかく来ていただいたのに味わっていただけない方もあって、たいへん申し訳ない思いをしましたが、この牡蠣祭りで渡利牡蠣の安全性への理解と、おいしい牡蠣を育んでくれる自然の大切さを多くの人に知ってもらうことができました。

今思うと役場に協力してもらいテレビやラジオ、新聞など、多数のメディアに取り上げていただいた影響が大きかったと思います。
それだけに、PRの大切さや影響力の大きさ、良いことも悪いこともPRの方法次第だということを痛感しました。

まだまだLLPオイスターズも牡蠣まつりも手探りの状態が続いていますが、これらの取り組みをきっかけに、若者が牡蠣養殖に携わりたいと地域に戻ってきてもらえればと思います。

(※1)LLP(Limited Liability Partnership)制度について
有限責任事業組合を表す言葉。会社と組合のいいところを組み合わせた事業体制度のことで、資金がなくても、専門技術やノウハウをもった個人や法人が、力を合わせて新たな事業に取り組みやすくするために考えられた制度です。

(※2)ノロウイルスは、冬場、水温が下がるにつれて牡蠣の運動量が落ちるため、発生する時があります。しかし、牡蠣養殖場としては本州最南端にある白石湖は温暖な気候条件に恵まれ、冬場でも水温が十度から下がることがなく、
ノロウイルスが発生しにくい環境にあります。