平成26年3月。勢和多気インターから尾鷲北インターまでおよそ55キロ間において紀勢自動車道が全面開通した。
津市から尾鷲まで国道42号だと約130分かかっていたのが、紀勢自動車道を使うと約80分。驚くほど便利になった。
高速道路が開通して、並走する国道42号線沿いの地域はどう変わったのか。
サルシカ隊長の奥田は、相棒の写真師マツバラと共に国道42号線を南へとくだる旅に出た。
国道42号線を紀伊長島から古里(ふるさと)へ。
そして古里から道瀬(どうぜ)へと海岸沿いの道を走りつつ、三重県北牟婁郡紀北町を南下する。
それにしても暑かった。
とにかく暑かった。
車の中はエアコンが効いているからいいものの、一歩でも外に出るとムワ〜ンと熱気に包まれる。
まるで熱湯の中をもがいているような、全身を包み込む重さのある暑さであった。
もうすぐ道瀬・・・。
道瀬にはあの店がある・・・というかアイツがいる(笑)。
くそっ。
悔しいが、道瀬と思った途端、ヤツの勝ち誇った顔と、あの果汁たっぷりのかき氷が頭に浮かんでしまったのだから、これは完全に奴の勝利なのだ。
モーレツなこだわりと個性による刷り込み。
ヤツはやはり人にモノゴトを伝えるプロフェッショナルなのだ。
てなわけで、やってきたのが、道瀬食堂である。
こちらのお店の店主は、一色登希彦氏。
代表作に『ダービージョッキー』『日本沈没』を持つ漫画家である。
数年前、三重県に移住をしてきて、最初は道瀬の海岸で軽自動車でカフェをはじめたかと思ったら、いつのまにか民宿とコラボするようなカタチで食堂に成長していた。
とはいえ、店は民宿の廊下から張り出したウッドデッキがメインラウンジである。
屋根はテントなので台風がくると閉店してしまうお店である。
なのに。
客がくる。
どんどん来る。
ワタクシたちが訪ねた時間は営業まもない時間であったが、ランチの時間が近づくにつれ、ぞくぞくとお客さんがやってきた。
地元の人だけでなく、観光客、そしてこのカフェだけを目的に遠方からやってくるのである。
お客さんが頼んでいたのが、ピザ!
なんと道瀬食堂にはピザ窯があるのだ。
民宿あずまの店主がオーダーを聞いてから焼いている。
そして夏の一番人気がやはりかき氷なのだ。
ちょっと説明が必要かも知れないので書いておくと、一色さんとワタクシはもうそこそこ古い仲なのである。
最近自分でも忘れていることが多いけれど、実はワタクシと妻は漫画原作者を生業としていたことがあり、一色さんとは仕事で組んだことはなかったものの、非常に近いところで仕事をしていた。
で、一色さんが夫婦で三重に移住を決める際、移住の先輩としていろいろ相談というか話を聞いたのである。
ちなみに一色さんの奥さんは現在も漫画家として活躍中である。
ワタクシの大好物!
マンゴーのかき氷!
あのですね、
このマンゴーのシロップはすんごいんですよ、ホンマに!
最初の頃はですね、
大量のマンゴーを一晩中ぐつぐつぐつ煮込んで作ってたんですよ。
おいしいのを作りたいのはわかるけど、そんないい材料と手間ひまをかけたら、一体いくらのかき氷になるねん!
それをおいおい数百円で売ってええんかい〜!!
って感じで、もういただいている方が心配になる状況で(笑)。
さすがに今は効率化とか採算性とか考えているとは思うけれど、まあそこまでこだわる男なのですね、この男は。
写真師マツバラ注文の甘夏のかき氷
ちなみに。
紀勢自動車道が尾鷲まで開通した直後、道瀬食堂に立ち寄って一色さんに話を聞いたことがある。
「高速道路が出来て国道42号の交通量は減った?」
「明らかに減りましたね」
「道瀬食堂はだいじょうぶなの?」
「まあ高速ができることはここに店を構える前からわかっていたことですからねぇ。もともとこのお店は前の国道を行き交う車や人だけをターゲットにしていないんです。そもそも国道に看板を出したぐらいじゃお客さんなんて来ません。やはりこのお店をめざして来ていただかないと・・・」
実は一色さんは、SNSやネットの力を使って地方でもどこまで勝負できるか。お客さんに立直できるかということを実証したいと言っていたのだ。
たとえ不便なところにあってもわざわざそこを目標にして足を運んでくれるお客さんがいる。
彼らにソーシャルネットワークの力を借りて常にアプローチする。
なるほど。
実際にその通りである。
しかもそこには地方でのビジネスの大きなヒントがあるような気がする。
恐るべし一色登希彦!
もう最後は呼び捨てなのだ(笑)。
が、好物のマンゴーかき氷を口にふくむと・・・・
ええい、細かい理屈なんぞどうでもいいのだ。
ワタクシはこのかき氷が食いたくてここに立ち寄ったのだ(笑)。
https://www.facebook.com/douzeshokudou
かき氷でシャキッとしたあと、再び国道42号線の南下。
海山区に入ったところで、左に折れて、細くてくねくねした道を進んで島勝へ。
ここにワタクシが第二、いや第三か(笑)の故郷と呼んでいる和具の浜がある。
数年前まで、サルシカが盛大な合同キャンプを開催していたところだ。
平日の昼間だというのに浜にはたくさんの人がいた。
この浜には、前出の一色さんと奥さんと遊びにきたことがある。
あれはまだ一色さんたちが移住してまもない頃であったか。
この美しい海を体験してもらおうと案内したのだ。
漫画家の夫婦と、元漫画原作者だった夫婦4人が、三重県のこの浜で子どものように遊んだ。
考えてみれば不思議でおもしろい話だ。
サルシカがずっとお世話になっている海の家を訪ねる。
われわれが「和具のおいちゃん」と呼んでいる島本さんのお店だ。
「ありゃまあ、奥田さん、どうしたのぉ、いきなりぃ」
和具のおいちゃんはいつもの調子で迎え入れてくれ、ビールを出そうとする。
さすがにそれは断ってオレンジジュースをいただいた。
和具の浜の人出を聞いてみたら、相変わらずの人気らしい。
この週末だけで1日600人以上の人が来たという。
「もうね、忙しくて忙しくて大変なんよ。
おいちゃんもう79歳やからね、追いつかんのよ」
と、歯のない口を豪快に開けて笑う。
来るところにはどんどん人がくる。
高速が伸びて便利になった分、これまで泊りがけじゃないと来られなかった人も日帰りでくる。
人を引き寄せる力があるところにとっては、高速はピンチではなくチャンスなのだ。
美しい海、川、緑。
そして人の魅力。
人を引き寄せる魅力とは何か?
改めてしっかりと考えなくてはならぬのだ。
次回、国道42号線の旅、最終話。
尾鷲へと入ります。
写真/松原 豊