第9回「サルシカ隊長レポート」2011年8月

神島の集落を登りきったところにある八代神社をお参りしたあと、さらに神島の奥へ。
が、そこは両側を草に覆われた山道。
灼熱と虫たちが執拗に攻撃してくる!
これはもはや「散策」などという生ぬるいものではなく、「探検」なのだ!(笑)

事前に言っておく。

神島を一周する遊歩道はよく整備されているし、その高低差もさほど激しいものではない。
今回ワタクシが「ヒイヒイ、ゼエゼエ」やっているのは、37度オーバーというトンデモナイ気温のせいと、Tシャツに短パン、サンダルという、自然をなめきったワタクシの格好が悪いのである。
文句を言ってるけど、ワタクシは神島を心から愛してるのだ。うっふん。

・・・という愚かな前置きからスタートした、神島めぐり。

神島の集落を登りきったところにある八代神社からさらに神島の奥へと入ると、そこはもはやジャングルであった(笑)。

いや、この写真はまだマシな方である。
八代神社の神殿のすぐ下から伸びている道は、完全に草に覆われてケモノ道状態で、ああ、アホだアホだ道を間違えた、と、ワタクシとカメラマンのYU君は、ヒイヒイゼイゼイ言いながら登ってきた200段ほどの階段を50段ほど引き返し、いやいや他に道はないし、やっぱりあの道に違いない、と思い直してまた50段をヒイヒイゼイゼイと登り(笑)、途中でクソコノヤロと汚い言葉を吐き、そして気合を入れてそのケモノ道に突入して、この写真の道に出たというわけなのだ。

とにかく暑い。
そして何より湿度がすごい。
重く湿った空気は呼吸をするのも困難なほど。
笑えるほど全身から汗が吹き出してくる。

神島に到着するなり昼食を食べた「潮波(さっぱ)」という店で、これから神島を一周してこようと思う、と話したら、

「こんな暑い時にいかんでもぉ、熱中症になるでぇ。もし行くんやったらお水をいっぱい持ってかなアカンよぉ」

と、店のお母さんに本当に心配そうな顔をして言われた。

集落の反対側の方には、売店はおろか自動販売機すらない。
それどころか、この時期、島の向こうに人がいると思えない、などと、お母さんはいうのだ。

で、ワタクシは革のバッグにペットボトルのお茶とスポーツドリンクを入れた。
携帯の充電器とか本とか重いものは集落に置いてきた。

が、八代神社を出て100メートルもいかないうちにどんどんお茶を飲み、すでに1本が空になろうとしていた。
神島の全周は3.9キロである。
大丈夫なのであろうか。
引き返そうかな、と本気で思ったその時・・・・。

ふと視界が広がった。
伊勢湾がどどーんと眼前に現れたのだ。
右に知多半島、左に志摩半島が見える。
圧倒的に近いのは知多半島。
が、なぜか神島は鳥羽市、三重県なのだ。

海に面した道をそのまま歩くと、神島灯台に出る。
陽射しをさえぎるものがないが、潮風が心地よく、少し涼しく感じる。

この灯台からのすばらしい景色を見よ。

かつて三島由紀夫は「神島で最も美しいのは八代神社、そしてもうひとつは灯台」と語ったほど、ここからの眺めは素晴らしい。
無数の船影が海を滑るように行き交う。

なんとも恥ずかしいネーミングだが、ここは「恋人たちの聖地」として認定されている。
汗まみれの野郎2人で到着したワタクシたちは「ケッ」と言いつつ荷物を放り出して休憩。

展望台の一角にカメラスタンドが置いてあり、ここにカメラを置いて、セルフタイマーで写真を撮れと書いてある。

大きな鼻息をひとつついてカメラマンのYU君を見ると、彼も咳払いを小さくひとつした。
目覚める恋のつぼみ・・・。

こうしてワタクシとカメラマンYU君は結ばれ、恋人たち聖地で肩を組みつつ写真に収まったのである(笑)。

確かにこの時も暑かった。
汗まみれだったし、足も疲れていた。
が、いま思えば、この頃はまだまだ幸せだったのだ。
ラブラブの新婚時期であったのだ。

波乱万丈の道のり、人生山あり谷あり、夫婦の危機はこれからだったのである。

神島灯台から更に進む道は、階段を登ったり下りたりの心臓破りの道であった。
海から山へと入り、また草が両側からせまりくる。
しかも今度は更に湿度があがり、そして蚊や羽虫がプオンプオンと集まってくるのだ。

歩き出して5分。
少し休もうと立ち止まった瞬間、腕や足に蚊がまとわりつく。
首筋にも耳元にもやってくる。

「うわああああああ、蚊に刺されまくってるぅううう!」

健気にもワタクシを撮影し続けていたカメラマンのYU君は、すでに腕や足がボコボコ状態。
カメラ片手に足を叩きまくっている。

防虫スプレーは持ってきていたが、集落に置いてきた大きなバッグの中だった。

「あ、あかん!立ち止まったら蚊の餌食や!歩くぞ!歩き続けるぞ!!」

そこからが地獄であった。
登り階段、下り階段が繰り返される。
足に乳酸がたまり、休ませてくれと悲鳴をあげる。
が、蚊は執拗に追いかけてくる。
休むわけにはいかない。
汗が流れる。
額から目に入り込む。
手ぬぐいで拭こうとしても、もうすでに手ぬぐいはビショビショで水を吸ってくれない。

広い場所はまだか。
風の吹いている場所へ出るのだ。

わずかに開けた場所に出た。
休憩用のベンチが置いてある。
追いかけてきていた蚊たちがいなくなっていたので、ホッと腰を下ろす。
まるでマラソンを終えたあとみたいに動けなくなる。
重いカメラを担いでいるYU君はワタクシ以上に辛そうだった。

「す・・・すいません、いまカメラ向けられても、な・・・何もリアクションできません!」

いやいやキミはカメラマンなのだ。
最初からリアクションなど期待してないのだと笑おうとするが、言葉にならない。

お茶を飲んで呼吸を整えようと思ったら、蚊のやつらがワタクシたちを発見して一斉にやってきた。

「うわ、きた!」
「いくぞ、歩くぞ!」
「うおりゃあああああああ!」
「ああああああ!」

このあとの30分は記憶にない。
さほどにつらい行軍であった。

そしてついにあの有名な監的哨に到着。

が、老朽化のため中に入れなくなっているし、蚊の攻撃もやまずで、写真を撮っただけでおしまい。
ここは小説『潮騒』のクライマックスで描かれる場所である。
新治は炎を飛び越えて、初江と結ばれるのである。

そもそも監的哨は、砲弾の着弾点を確認するための監視所であるらしいが、じっくりそれを確認する間もなく出発。

ワタクシとカメラマンのYU君が求めるもの。
それは蚊のいない開けた空間。
それだけであった。

監的哨からは下り道だったので、飛ぶように歩いた。
おじさんでも蚊に追われたら逃げるのだ。
気合で走るのだ。

そしてついに出た。
まわりを覆っていた木々は突然切れて、海と岩の光景が目に飛び込んできた。

ニワの浜。
切り立った石灰岩のカルスト地形に見下ろされた入江で、海女さんたちが漁をする浜であるという。

本当なら海に飛び込んで、汗まみれの体を冷やしたいところだが、
残念ながら波が高かった。
足をつけただけでも、もっていかれそうな勢いである。

足首のつもりだけが、思いきりズボンまで濡れてるし(笑)。

サウナのジャングルで蚊に追われまくったあとだけに、このニワの浜に出た感動はそれはそれは大きかった。
たぶんワタクシは一生忘れることはないだろう(笑)。

ニワの浜の背後は、神島小中学校であった。
集落から離れた反対側に学校がある。
それだけ大きな場所が確保できなかったのか。
それとも、子どもたちに少しでも通学で運動させたかったのか。
理由はわからないが、ずいぶん不便なところにあるなあ、という感じだった。

我われが来た道は反対の道を集落からたどれば学校につく。
あとでわかったが、地図で見るほど遠くはなかった。

学校の軒先を借りて休憩。
荷物を放り出し、冷たいコンクリートの上に倒れる。

もう2人とも飲み物はほとんど残っていなかった。
水道を探して蛇口をひねるが、水はでなかった。
キコキコひねって水が出ない時の、あのショック!!!

でもワタクシは怒ったりなんかしません。
清く正しく美しく、しっかりと生きていきます!!(笑)

学校から集落までの道はきちんと舗装された車道であった。
10分ほど歩いたら、もう集落が見えてきて、いつのまにか家の間を流れる風の中にいた。
集落探索も含めて2時間ほど歩いたことになる。

神島探検は終わった。

願わくば。
今度は涼しい季節にのんびりと歩きたい。
神島の歴史と景色を楽しみたい。
心から思った。

さて、今日の宿に向かおう。

次回、最終話。
神島の海の幸とB級グルメ!!