FM三重『ウィークエンドカフェ』2016年2月6日放送

今回は、松阪市小野江町にある『松浦武四郎記念館』の主任学芸員・山本命さんがお客様です。
小野江町は、武四郎が生まれた町。
松浦武四郎記念館には、武四郎が残した出版物や、多彩な交友関係がわかる手紙、趣味で集めた美術工芸品などたくさんの資料が保管されています。
そして学芸員の山本さんが、武四郎の功績について、とても詳しく教えてくれます。
どんな人だったのか、聴けば聴くほど興味がわく人物です。

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海道の名付け親

武四郎は探検家、作家、出版者、学者。武四郎はたぐいまれなる知識と冒険心で、多くの功績を残しました。
そして『北海道』の名づけ親と言われています。
幕末から明治維新という、日本の激動の時代を生きてきた人で、足跡は日本全国に及んでいるという、非常に面白い人物なんです。
三重県でも松尾芭蕉、本居宣長、そして松浦武四郎という、江戸時代に活躍した三大偉人として取り上げてもらったこともあるんですよ。
この松阪市小野江町に記念館があるのですが、ここが故郷にあたるんですね。
生まれ育った場所に記念館ができて、そして今年で21年になります。
ようやく少しずつ、武四郎について知ってもらうことができるようになってきたかな、でもまだまだだな、と思います。

 

海道に60もある武四郎の碑

三重県よりも北海道でよく知られていて、北海道には松浦武四郎を記念する碑が60ヶ所も建てられています。
武四郎が北海道に探検に行った時代というのは、飛行機も電車もバスも何もなくて、歩いて、また海は船で渡って・・・そうして道なき道を探検しました。
今の私たちがとても真似できるようなものではありません。
28歳から41歳にかけて6回探検し、信じられない距離を歩きました。
生涯日本中を歩き、沖縄をのぞく46都道府県に足跡を残して、10000キロ以上歩きました。
強い足腰を持った、旅の達人だったんですね。
70歳のとき大台ケ原に登り、その後には富士山にも登頂しています。
そのチェレンジ精神、探検スピリットは、すごいものがあります。
1854年、アメリカのペリーが伊豆、下田に来航したときには愛媛、宇和島藩からの依頼で下田へも足を運びました。

三重の地で生まれ育った武四郎が、故郷を離れたのが16歳。
初めて江戸まで一人旅をして、いろいろな景色を見て、いろいろな土地の方言を聞き、その土地の食べ物と出会っているうちに、もっと日本中を見て回りたいと思うようになってきたんですね。
しかしその最初のきっかけは、伊勢神宮へ繋がる道が、武四郎の家の前を通っていたからなんです。
家の前を通り、日本全国からたくさんの旅の人たちが伊勢神宮へと向かう・・・そんな姿を見て、武四郎は自分も旅に出たい、広い世界を見たいと思うようになったんですね。

 

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海道の名前の意味

『北海道』という名前も武四郎が考えたということで、「北海道の名づけ親」として紹介されています。
日本の『北』、そして『海』はアイヌ民族のみなさんが自分たちを示す古い言葉。
そして『道』は何かというと。
北海道は日本全体の面積の20%を占めています。
地図帳などで見ると、北海道が1ページに納められていて、その大きさがわかります。
九州の約2倍。
その大きな島を1つの行政の区域として呼ぶ場合に『道』という言葉が使われるんです。
つまり『北海道』は『北の海の道』で、「日本の北にあるアイヌ民族のみなさんが暮らす広い大地」という意味。
明治2年に武四郎が政府に提案をして、採用されました。
当時は幕末なので、日本の周りにたくさん外国の船がやってきて、北はロシアの方から狙われているという状況でした。
勉強家でたくさんの本を読み、さらにその土地の人たちと交流する武四郎。
さらに6度訪れた蝦夷地(北海道)の調査は、アイヌの人たちの協力を得て行うことができました。
だからこそ、アイヌの人たちを大事にしたい、そして北海道を守りたいという思いがあり、この名を付けたのです。

 

四郎まつりについて

今年は2月28日に『武四郎まつり』が開催されます。
なぜこんな寒い時期にするのかというと、武四郎は2月6日に生まれて、2月10日に亡くなっているんです。
2月が一番ゆかりの深い月だということ、そして2月でも少しでもあたたかいようにと、毎年最後の日曜日に開催し、今年で21回目となりました。

アイヌの人たちの伝統的な踊りは国の重要無形民俗文化財に指定され、さらにユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
『武四郎まつり』では毎年、北海道のいろいろな地域からアイヌの方に来てもらい、その『アイヌ古式舞踊』を披露してもらっています。
毎年来てもらう地域は違い、今年は千歳空港から1時時間ほど走った太平洋側にある平取町から来てもらいます。
北海道は広いですから、それぞれの地域ごとに特色のある踊りが受け継がれています。
『武四郎まつり』では、そういったアイヌ文化に触れてもらったり、衣装を着たり、切り絵である『アイヌ文様』などの体験もできます。
さらに北海道の物産展も開催しますので、武四郎について知るだけでなく、アイヌの文化にも触れることができると思います。
全国的に見ても、こういったお祭りは『武四郎まつり』ならではの取り組みではないでしょうか。
衣装の刺繍や形、踊りも地域によって違うので、去年来た人が今年また来ても、興味深く楽しめます。
何よりも同じ日本に暮らしていながら異なる文化を育んできた、アイヌ民族のみなさんと出会える貴重な機会だと思いますよ。

 

見!武四郎の涅槃図!

『松浦武四郎記念館』には、武四郎に関する貴重な資料がたくさん保管されています。
平成20年には、三重と東京の松浦家に伝来、保存されてきた資料が幕末から明治維新にかけての歴史を考えるうえで重要な資料であることが認められ、1503点が歴史資料として国の重要文化財に指定されました。
が、重要文化財に指定された資料は1年間に60日しか出してはいけないと文化庁から指示されています。
当館ではいろいろな資料を見てもらえるよう、60日毎に展示品を変えています。
お釈迦様が亡くなる姿を描いた涅槃図というのがあるのですが、2月の現在は、武四郎さんが作らせた、武四郎さんバージョンの涅槃図を展示しています。
奇想天外で摩訶不思議な、武四郎の世界観を表すような不思議な涅槃図。
これは面白いですので、ぜひごらんになってください。
いろいろなことをしただけでなく、発想も人とはちょっと違うようなんですね。
武四郎バージョンの涅槃図を見ていると、歴史に名を残すということは、やはり、人とは違うことをするということなのかなと思いますね。
誰もやらないようなことを次々やって、人々が驚く姿を見て喜ぶのが武四郎さんだったのではないでしょうか。

 

第21回武四郎まつり
開催日時 平成28年2月28日(日)10:00〜15:30
開催場所 松浦武四郎記念館
お問い合わせ 0598-56-6847