FM三重『ウィークエンドカフェ』2016年12月10日放送

今回のお客様は、四日市の『異色ある和洋菓子 富寿家』の早川賢さん。
早川さんはこのお店の4代目。
これからが一番忙しい季節になります。
クリスマス、お正月、豆まきにひなまつり、それが終わると入学式、そして端午の節句までずーっと忙しさが続きます。
その忙しさも楽しみながらお菓子を作られているのが早川さん。
和菓子一級技能士の資格もお持ちで、素晴らしいお菓子の数々を私たちに
届けてくれます。

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菓子一級技能士とは

技能というよりは、大工さんなどの職人さんと同じで、先輩方の技術を盗むことの方が重要です。
一級技能士というのは、国家試験の中で一番上の資格ということになります。
どんな試験かというと、例えば『はさみ菊』なら1片が20片で、それが8段綺麗になっているとか。
はさみで1つずつ切ると別の色が見えるんです。
それも規格があり、それに収めないと減点方式で、
あとは扇形の羊羹を松のように切っていったり、貼り合わせと言いまして、一回取ったものにまた入れて抜いて入れて抜いて・・・で、一つの模様を作るとか。
針をヤスリで削ったりして、自分で作った道具を使います。
道具は売っているものもあるのですが、細かいことをしようと思うと自作で作ることになります。
抜き型も市販のもので満足いかない時は、自分で真鍮やブリキを折り曲げて作ったりします。

 

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もしろいお菓子を作っているのが自慢!

お客さんが来た時に「こんな商品があるんだ」「また新しい商品が出たね」とビックリさせたり、いつ訪れても面白い店だと思われたくて、面白いお菓子を作っています。
店名に『異色ある和洋菓子』というサブタイトルが付いていますが、小さな頃はとてもイヤでした。
「異色ってどういうことだよ」って。
変わった人がやっていると思われるんじゃないかって。
でも大人になった今は、とても気に入ったフレーズとなっています。
この名前は祖父の時代から。
祖父が健在だった頃、父が修行した東京の洋菓子店の名前に『異色・・・』が付いていて、それを付けたそうです。
ということで、最近ではなく、ずっと昔からこの名前なんです。
大人になった僕自身も異色なので、今は気に入っています(笑)。
日の丸弁当のようなケーキを作り、そこに箸を添えてみたり。
やはり弁当なので、箸で食べてほしいんです。
そこまでこだわるというか。
今出しているのは日の丸バージョンなんですが、おかずバージョンもあります。イチゴとかキウイとかみかんとか入れて、ちゃんとバランで仕切りをして。
そうしたらいつの間にか、私の知らないところで、おかず派と弁当派がFacebookで論争になったそうです。
その当時私はFacebookをしていなかったので、お客さんに教えてもらいました。
一応ご飯の下にもフルーツは入っていて、おかずも入っていることになっているんですけど(笑)。
栗を活かしたわっぱ飯も作っています。
これも見た目は本当に鶏そぼろ弁当のわっぱ飯。
そのまま『栗わっぱそぼろ飯』にして、『栗』と『飯』だけ字を大きく目立たせて。
自分がおもしろい、楽しいと感じたことがお客さんにも喜んでもらえるかな、と思っています。

 

芸菓子は乾燥が大切

私は三重県菓子工業組合青年部の部長を努めていることもあり、来年、伊勢市で行われる『お伊勢さん菓子博』で披露される、シンボル展示工芸菓子の制作担当の責任者となっています。
歌川広重の伊勢参宮・宮川の渡しの完成に向けて、県内の菓子職人さんたちと
一生懸命頑張っています。
シンボル展示工芸菓子はお菓子は、食べることを前提としていない『見せるお菓子』です。
生地を柔らかいうちに作り固めて、湿気や光を遮って、パーツごとに保管します。
それを来年全部持ち寄って最後の組立作業に入ります。
普通のお菓子を作るよりも、かなり大変で手間がかかります。
お菓子は生き物ですので、夏場はカビが生えたりするため、そういうところはやり直します。
お菓子は湿度と熱に弱いので、発泡スチロールを完全に乾かし、その中に倒れないように入れて、さらに乾燥剤も入れてこまめに替えます。
1週間くらい雨の続く梅雨の時期は、本当は作業をしないのが一番良いのですが、そうはいかないので、食器乾燥機の中に入れて強制的に乾燥させることもしたりします。
菓子博で展示する工芸菓子は、横が10m、奥行きが約5.5m。
菓子博の一番のシンボルになりますし、せっかく伊勢で開催されるので、伊勢にちなんだものになっています。

 

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のケーキ

今の時代、リクエストが多種多様になっているので、お客様から勉強させてもらっています。
お客様からのリクエストでびっくりしたのが、波です。
サーフィンをしている方で、立っている波を作って欲しいと言われまして。
私が和菓子と洋菓子の両方をやっていてよかったのですが、ゼリーだと折れてしまうんですよね。
しかし和菓子で使う寒天がありました。
寒天はとても強く、波のところを支えてくれるというか。
作り方は逆からで、まずあんこがあって、そこを掘るんですね。
そこに寒天液を流し固めてひっくり返すと、波が立つと。
白波とかは淡雪とか、筆でちょんちょんと塗っていくと白波が立っているような表現になります。
ゼラチンは常温で溶けてしまいますが、寒天は強いし常温でも溶けないんですね。
一度、バトミントンのシャトルを宙に浮かしてほしいと言われましたが、さすがにそれは神様でも無理ですと。
結局、食品ではない透明な棒でシャトルを支えましたが、食品を使うとしたら、パスタの乾麺を刺すような感じで使ったと思います。
今までの経験をいろいろ組み合わせたり、常に何かヒントがないかと模索しています。
例えば料理屋さんに行っても、必ずカウンターに座り、シェフの動きなどをずっと観察しています。
職人さんは無駄な動きが少ないので、動きが勉強になりますね。

 

菓子は幸せの空間にある

お菓子には不思議な力があります。
疲れた時に食べたり、綺麗ないただきもののお菓子を見て感動するのはもちろんですが。
お菓子を食べている時に怒っている人っていないでしょう。
機嫌の悪い時、落ち込んだ時に食べると、心が落ち着くという作用があります。
すごい力だな、と思います。

 

菓子博開催まであと4か月。
6万輪の桜、10万本の松、内宮をはじめとした建物、そしてその時代の人々。
菓子博は来年の4月21日~5月14日までの開催です。
みなさん、『お伊勢さん菓子博』に来たら、ぜひ、シンボル展示工芸菓子を見てくださいね。