FM三重『ウィークエンドカフェ』2017年3月4日放送

今回は津市にある『竹屋牛肉店』の代表、竹谷直紀さんがお客様。
ご出身は伊勢。
陸上をしたくて、体育の先生になりたくて東京の体育大学へ。
大学卒業後は、バイクや車の雑誌編集者。
そして、平成19年12月にお店をオープン。
竹谷さんのルーツをたどれば、今のお仕事にご縁があったのかもしれませんね。

屋牛肉店をオープンするために選んだ場所、津

自分の郷土が伊勢だと考えてしまうと、伊勢だけになってしまいますが、郷土が三重と考えれば、三重県全域が僕の故郷だという感覚となります。
平成19年12月に津市で『竹屋牛肉店』をオープンしました。
オープンして9年、今では津で良かったなと思います。
松阪牛専門店をするにあたり、津という土地はいろいろ発信しやすい街だと感じました

 

家はかつて乳牛を飼っていて牛乳屋さん

父は稲作をしながら不動産をしたりと、飲食業とはちょっと違いました。
しかしもう少し遡ると、伊勢で乳牛を飼っていて、牛乳屋をしていました。
乳牛と稲作の田を耕すための黒牛がいたと聞いています。
今も牛と稲作は密接に関わっていると言われています。
自分の実家のルーツがそこに集約されていたので、そこに使命を感じたということもあり、現在は松阪牛の1頭買いを行っています。
ここのお店を開業するとなった時に、挫折しそうな困難にぶつかりました。
狂牛病です。
しかし、自分の努力以外で事業がダメになるのはとても不本意でした。
地元に密着して必要とされるお店になったら、事業は細々とでも継続できるのでは・・・と、根拠のない自信があり、松阪牛の1頭買いに踏み切りました。

 

肉の食べ方をもっと広めたい

日本の牛肉文化はまだ100年ちょっとくらいで、正式には明治くらいから食べられはじめました。
「牛食わぬやつは開かぬやつ」ということで、牛を食べない人は文化人として遅れているというような言葉もあったほど、牛肉の文化はハイカラな文化だったんですね。
しかし牛肉を食べるという文化は、フランスは日本よりもはるか昔から食べていて、その食べ方や料理の仕方も、とても進んでいます。
日本だと牛肉はステーキか焼肉かすき焼きかというようなところですが、フランスでは内臓も含め、ありとあらゆる調理法で食べられています。
牛肉をあますところなく食べようと思った時に、一番参考になるのが、欧州の文化でした。
硬いところは煮込みに、焼いて食べて美味しい部分はローストしてワインとともに食べるという発想で、津駅前に『ラ・フルール』という店舗をオープンしました。
それから、内蔵を美味しく食べるにはどうすれば良いかと考えた時に浮かんだのが、博多のもつ鍋。
その美味しさに、ショックをうけるほど感動した経験がありました。
しかしそれだけだとこの地域では難しいので、焼肉とモツ鍋を食べられる業態として『もつ小町』をオープンしました。
原点は、お客様に牛肉をあますところなく食べていただこうという思いです。

 

本とフランスでは牛肉の評価の仕方が違う

お肉への探究心が高まり、先日はフランスまで行き、市場やお肉屋さんをたくさんまわりました。
フランスは、農産に対する考え方自体が日本とまったく違いました。
牛肉の評価の仕方もまったく違っていて、日本の評価は6番目と7番目の肋骨の間のロースの芯の断面の霜降りの評価を中心に、その牛肉の価値が決まっていきます。
野菜だとキュウリが真っ直ぐであるとか、オレンジの色味であるとか。
フランスに限らずヨーロッパは、キュウリが曲がっていても全然良くて、美味しいことが基準。
マルシェに並んでいる野菜や肉は、日本のように形が良いものはあまりなく、りんごでも小さかったりします。
形ではなく、人が美味しいと言ってくれないと値段がつかないわけです。
日本では出荷してしまえば、お客さんが「美味しい」と言わなくても値段がついてしまいます。
つまり、作り手は、そこまでしか努力しなくても良いわけです。
そんな人が多いとかではなく、制度としてそうなんですね。
しかしフランスでは出荷をしてからも、「◯◯さんが作った作物が美味しい」から買うわけで、美味しくなければ売れないんですよ。
例えばトマト。
日本でよくあるのが青いまま摘んで、流通中に赤くするという方法。
でも、畑で熟したものとトラックで熟したものであれば、絶対に畑で熟したほうが美味しいに決まっています。
それくらい考え方も違いますし、もっと根本的な、土の作り方から違うことに、衝撃を受けました。
牛にしても、肉用品種が25種類あるそうですが、すべて放牧するんですよ。
品種とか関係なく。
それから出荷する前に穀物肥育に切り替えます。
一方日本の農産は濃厚飼料を少しずつ増やしながら、ずっと肥育をしていくんです。
どちらがいい悪いではなく、かたや牛として健康に育って、かたや養殖というような状況で育って。
命をいただくことを『屠畜』というのですが、屠畜をして枝肉のまま置いておくと、持ちが違うんです。
牛が元気だから。
とにかくフランスでは、健康的な肥育をしていると感じました。

 

産者の代弁者となって、肉のことをしっかりと伝えていきたい

肥育農家さんも含めて、20年30年後、僕は商いを続けていきたいと思っていますが、今と同じものが手に入るかを考えた時に、穀物の価格も上がってきて、和牛・仔牛の生産者さんも減っている現在、不安を感じます。
今の状況を維持していくためにできることを真剣に向き合って考えていきたいと思います。
当然、より良いものをお客様に提供し続け、発展はしていきたいです。
が、もっと根本的な部分で。
生産者の方というのは直接お客様と話すことができないので、正しい知識を僕やスタッフが持ち、コミュニケーションを取ることによって、僕たちが代弁者となり、生産者さんの声を届けたりすることで、地域全体がより良くなっていけばな・・・と考えています。

先日、僕が尊敬する方から聞いたお話が、『運命』と『宿命』の違い。
宿命はその人に宿る命というか。
僕に宿っていたのは、農産に近いところ仕事をして、それを沢山の人に知ってもらうということ。
運命は命を運ぶということで、これから切り拓いていくことも含めています。
自分の仲間と切り拓いた部分もあるし、そのように自然になった部分もあるし・・・いろいろなことが相まって、今があるのかなと思うと、半分半分ですね。