三重テレビ『ゲンキみえ生き活きリポート』2017年8月13日放送

手入れをする人が減り放置されている状態が増えている人工林。そんな荒れた山を山林の所有者と一緒に再生しようと取り組むのがいなべ市の『山造り研究所』!
代表の鬼頭さんは、仕事のかたわら山について学び、経験を重ねながら同所を設立。定年退職を機に山主をサポートする仕事に本腰を入れ、現在は山の診断や間伐作業の支援、講習会などを行っています!

こちらはいなべ市のとある山林。
森の生態や様子を知る樹木観察会を開催していたのは、『山造り研究所』のみなさんです。

「自然に種から芽が生えて、木になってくるものを天然林。
人が植えた杉や桧が生えているところを人工林といいます。
今日はその両方を見てもらい、木のことと森のことを勉強してもらいます」

と、『山造り研究所』代表の鬼頭志朗さん。
『山造り研究所』はいなべ市で、相続などで山林を保有しながらも、林業の経験や知識がなくて困っている山の所有者をサポート。
山主さんといっしょに山林の手入れをしていく、山造りの協働支援グループです。
間伐材を有効利用し、自然と地域経済が循環する社会づくりをしています。

 

鬼頭さんは山主さんから依頼を受けるのではなく、山主さん自身が山の手入れを出来るようになるためのお手伝い。
山主さんに寄り添いながら山守をするという林業を目指しています。

「私はもともと普通のサラリーマンでしたが、仕事で全国を回っていた時に薄暗い森をたくさん通りました。
その時に違和感を感じ、いろいろ調べたところ、林業で人手が足りず、山の手入れができていないのだと知りました。
そこで自分がその役を担おうと思い、勉強をはじめました」

 

日本はフィンランド、スウェーデンに次ぐ森林大国。
森林面積は国土のおよそ7割。
しかも、森林の4割を人工林が占めています。
そして今、木材の価格低迷、林業の衰退、担い手不足により、間伐などの管理をしていない放置林が激増。
ここ、いなべも例外ではなく、荒廃した森林が目立ちます。

 

こちらが昨年、山の手入れをした場所。
明るくて下の方まで光が差しています。
人工林の状況を調査分析し、明るく豊富な植物が茂る健康な人工林をめざす『森の健康診断』をし、間隔を開けて光が差し込むよう、たくさんの木を間伐しました。

 

たった一年で、これだけの下草が生えてきました。
三年、五年、十年と経っていくと、針葉樹と広葉樹が交じり合う豊かな森に変わっていきます。
山自身が緑豊かになることで保水力が高まり、雨が降っても水を蓄えることができます。
それはつまり、山全体が緑のダムとなり、土砂災害を防ぐことにつながるということ。
山主にとって、山を整えることは地域全体を守るためなのです。

 

そんな思いから『山造り研究所』では、『いなべ山造り塾』を毎週のように開催。
チェンソーなどの使い方を学ぶ安全技術講習会、森の状態を知る樹木観察会、木のワークショップなど、全国から山に関わるエキスパートを招いて講習会を開いています。
そして、山林の所有者といっしょに山へ入り、ともに汗を流して山造りをしています。

 

『山造り研究所』は全国80ヶ所で開催されている『木の駅プロジェクト』の一環として『いなべ木の駅龍華驛(りゅうげえき)』を来月オープン。
山の所有者が間伐し、軽トラックで運び出した間伐材を、地域の商店で使えるモリ券と交換できるようにします。

 



市場に出せない間伐材は、組手を加工した棒状の組み立て部材で、縦横に組み合わせて家具などを自由に作ることができる『組手什(くでじゅう)』に。
『組手什』は、統一された寸法規格に基づき、全国各地の間伐材でつくられています。
東日本大震災や熊本地震の支援物資としても送られ、話題になりました。

「この員弁川流域全体のみなさんが、山を守り環境を守っていくところにつながっていくと思います」

と、鬼頭さん。

 

今回の樹木観察会が開催されている山林の山主である、神谷寛一さん。

「時々土が流れて、下の田んぼを土砂で埋めてしまったこともあります。
だから山だけを守るのでなく、田んぼも守っている、水路も守っている。
そういうことで、山は大事ですし、この取り組みも大切だと思います」

 

山を下りても勉強は続きます。
森を知ること、それが山造りの第一歩だと考えているからです。

 

「自然林ばかりだと山が良い感じに見えますね。
人工林は整然と立っていますが、それを切って放置されているのはよくないと感じました」

「人工でつくられた森と、自然にできている森は全然違いますね。
いろんな植物がうまく共生して自然のバランスがとれていますが、やはり人間の手が入らないと、それなりに崩れてしまうこということを実感しました」

参加者の皆さんも山林の手入れの大切さを感じたようです。

「山主さん自身が元気に山の手入れができるように、いろんな山主さんを巻き込んで進めていきたいと思ってます。
いなべ市も含めて、員弁川の源流域のこの森を豊かにしていくということ、それから流域の山、川、里、海・・・みなさんが幸せになることができる取り組みにつなげていきたいですね」

と、鬼頭さん。

山の所有者と共に山へ入り・・・
木を育て、山をつくる・・・
切り出した木を販売し、活用し、地域に還元していく・・・
山づくりは、環境づくりであり、そして地域づくりでもあるのです。