FM三重『ウィークエンドカフェ』2019年3月9日放送

今回は玉城町にある『アトリエ・コバ美術塾』の小林扶由さんがお客様です。
アトリエを開いて今年で33年目。
絵をかいたり物づくりに目を輝かせる子供たちをたくさん見てきました。
アトリエには4歳から高校生までの子供たちが通っています。
クラス分けもなく、自由な空間の中で充実した時間を過ごしています。

どもの『個』を出す場所を作りたかった

私は東京の学校で勉強し、その後、おもちゃ会社に就職しました。
おもちゃや絵本を作るのが好きだったので、そういう仕事に就いたのですが画塾はずっとしたいと思っていました。
条件も何もない中で自由に自分を発揮できるのが美術の世界だと思っていたので。
ただ、場所的に都会では難しいのと、両親も高齢になってきたこともあり、そろそろ東京から引き上げて、実家で自由に子どもが出入りできる場所を作ろうと『アトリエ・コバ美術塾』を開きました。
大人に向かって成長していくときに、良い思い出だけでなく『個』を出す場所がないといけないと思います。
自分で自分自身を育てていく場が今の時代、いろいろ難しいですからね。
特に美術や物を作ったりするのは、教育の中に組み込んでいくのは難しいかな、と私が外側から見ていて感じました。
好きな子にとって思いっきり出せる場所が必要です。
また、情操面を育てるのは成長していく段階で小さなうちだからこそ大事なことだと昔から言われています。
私自身小さな頃、親や友だちに言えないことでも、絵を描くことでスッキリした覚えがあります。
言葉や行動で示すことができない子どもの時期、表現することは、楽しいというより達成感を感じました。
今の子たちにもそういう気持ちを味わってほしいな、との思いからなるべく小さな子向けの塾としてはじめました。

 

きくなるにつれて、自分の作品を批判する目が出てくる

美術は点数がつく世界ではなく上手下手でもないと思いますが、成長してくるにつれ自分が作ったものや描いたものを批判する『見る目』ができてくるんですね。
そうすると描けなくなっちゃう。
上手に描こうとか、人に見られたらどう思われるだろうとか・・・そういうことを考えてしまうと、とたんに描けなくなるし、描きたいものもわからなくなります・・・あくまで、私個人の意見ですが。
小さな頃はそういう意識なしに、白い紙とクレヨンがあったら、勝手に殴り書きしているのが自然だと思うんです。
それがだんだんと知恵がついて成長し、ましてや点数がつくと「どうやったら良い点数が採れるんだろう」と考えるようになります。
向上心と同じですからあって当たり前で、これがスポーツならタイムを競うとか点数を競うとか、なんらかの数字で納得できますが、美術の世界ではそれがありません。
そして、大人で絵を描かない人はいっぱいいますし、別にそれで生きていけます。
社会的に活動しているのは、ほんの一握りの人たち。
みんなが美術をしていたら国から政治経済が離れてしまいますよ(笑)。
そういう世界になっちゃうとちょっとまずいので、生まれつき『これをやっていれば幸せだから』という一握りの人たちがいれば、子どもたちは安心できるし、普通に自分らしくいることができます。
私自身そうですが、制作しているときが一番自分らしいと思えます。
内面に向かう世界であり、外との情報やコミュニケーションを取って歩んでいく世界ではないからこそ、自分の中で自分自身を大切にして欲しいですね。
美術塾に来てくれる子どもたちもわかってくれていると思うし、親御さんも自分の子供にこういうことをさせたいと思い連れてきてくれているので、ご理解いただいていると思います。

 

月は『自分の宝物』をモチーフに作品づくり

テーマはほとんど決めていませんが、今月は『僕の私の宝物を描こう』となっています。
それは形がないものかもしれないし、赤ちゃんの頃から持っているぬいぐるみかもしれません。
いつも持っている汚れたタオル1枚かもしれません。
いろいろあると思うの。
それをアトリエに持ってきて、どんな風にしたら表現できるかな・・・と、0から何もないところから作っていこうと。
うちの場合のテーマとはそういうこと。
眼の前にキレイなバラの花を置いて、それをみんなで描きましょうということではないんです。
あくまで一人ひとりの心や気持ちに伴って、ものを描けばいいんだよと教えています。
私たちもけっこう大変です。
一人ひとりにおしゃべりしたり、「これは誰にもらったの?」とか、そういうことを聞くところから入っていって。
子どもはなかなか言葉で説明してくれませんけど、この子にとって大事なことというのは伝わってくるので、そういうのも含めて一つの絵が生まれてくるというのを、今もやっています。

 

の作品は今の私そのものです、という気持ち

私も学校に行っていたので基本の勉強はしていますが、その後は自分自身がそこにあるという意識で作品を作っているので、あまり制作自体に時間はかけませんね。
ああしようこうしようと頭の中ではいつも考えていますが、描きだしたら早く仕上げる方です。
それを目の前に置いておくと、また違うものを描きたくなるので、ギリギリまで描きださずに待って。
描き出したら1日でできる時もありますし、長くてもせいぜい3日くらい。
画材は速乾性のアクリル絵の具が自分に合っているので、それが一番好きです。
いつも作品は『自分はこれです!』と。
まだまだ未熟で100%満足することはありませんが、次の作品でがんばりますと。
今の作品は今の私そのものですという気持ち。
もともと抽象的な作品が多いのですが、グラフィックデザイン出身なので、何かのメッセージを見てくれたみなさんに感じ取ってもらえたらなといいかなと。
でもそれまでは独自に描きたいもの、乗せたい色を乗せていますし、基本的に赤と円が好きなので、そういうモチーフが多いですかね。
いつも、子どもたちのように「こっちのこともしてみたい!」「あっちもしてみたい!」と、憧れとか好奇心が溢れたような作品になっちゃいます。