FM三重『ウィークエンドカフェ』2019年8月10日放送

今回のお客様は『多気町立勢和図書館』の司書で『日本図書館協会認定司書』の林千智さん。
1997年7月、勢和図書館がオープンしました。
その時からずっと図書館のカウンターが林さんの定位置です。

どもに関わる仕事がしたかった

子どもに関わる仕事がしたかったので、小学校の教師、幼稚園の教員、保育士の資格などを取っていました。
そちらの方向に行くつもりで勉強していたのですが、いろいろあり、家庭に入っることに。
いっとき「もう生きていけない」と思うくらいにしんどい時があって、その時にストーリーテリングの会に入らせてもらったんです。
その、仲間の語る話や声、言葉・・・それらに本当に力をもらいました。
すごいなと。
言葉で人を再生させることができるんだということを、自分が実際に体験したんです。
図書館に児童サービスという仕事があります。
それは子どもたちに対して学校の先生側ではなく違う側面から子供の成長を励ましていく仕事です。
もちろん、子どもだけではなく大人に対しても、違う側面からアプローチしていき、その人を支えるという事ができるということを知り、この仕事に付きました。
自分がもらったものをお返しできたらな、と思ったことがきっかけです。
どうしたらみなさんにうまく伝えられる事ができるかな・・・とか本当にまだまだなので、いろいろ試行錯誤を続けて気がつけば22年経っていました。
まだまだ全然ですね。

 

宿

題も課題解決もできる場所が図書館

図書館といえば、学校で出た宿題を、家でなかなかできないから図書館でやる・・・という昔ながらの使い方で、夏休みともなると開館前から学生たちがズラ〜っと並んでいる・・・そんなイメージがありますよね。
もちろんそういう使い方もOKで、集中できるんだなと感じます。
本に囲まれた静謐な空間という意味で。
もう一つ、今『課題解決』ということばがあちらこちらで使われているのですが、お仕事でも、家庭に入っていられる方でも、今困っていることとかをどうやって解決したら良いか、ということを必ず抱えていると思うんですね。
子どもも、同じように宿題が出た、読書感想文を書かなければならない・・・そういうのをどうやってやっていったらいいのかという最初の方法論から、図書館はお手伝いします・。
私たちは先生ではないので、答えを教えるとかはできませんが、本を通して調べ方を伝えるとか、読書感想文だったらどんな本が良いか、どうやって書けば良いか・・・そんなお話はでき、コミュニケーションを取ることもできます。
静かに集中して宿題をするというのも一つですが、積極的に声をかけてもらって、課題解決のために子どもも大人も図書館を使ってもらえるといいなと思っています。

 

書館には9万冊の本がある。それは9万人の人が助けてくれるのと一緒

イベントの中で違う人と出会って話をしたり・・・知らない人同士でも図書館では『本』が仲介になるんですね。
すると「私もそれ読んだ」となり、共感度がいきなり高まるんですよ。
今までまったく知らなかったのに、とても親しいように感じたり、同じ本を好きだと思える気持ちがとても嬉しかったり。
本が取り持ってくれることで、濃い関係が生まれるんですよね。
移住してきた方に多いのですが、まず入り口は図書館と思ってくださっています。
勢和だけでなく飯南、飯高・・・この辺りの移住者はまず来てくれて、ここで暮らすきっかけを見つけたり横のつながりができたりしています。

図書館に来るきっかけはなんでもいいんです。
違う視点からであっても、次の段階につながっていくんです。
次から次へとあるので終われないというか。
「次はこのイベントにも参加してみたい」とか、「こっちに行きたい」とかつながっていくことがすごいなと思います。
ただイベントに参加して終わるのではないんですね。
実は図書館は人間の考える森羅万象すべてを取り扱っているので、過去、人類が生きて生きたすべての叡智が、順々に積み重なって研究や思想が本になって残っているんです。
人はずっとは生きられませんが、本という形で残ります。
また、人はあちこちに講演に行くことはできませんが、本をここに置いておけば会話ができる・・・。
こちらの図書館には9万冊の本があります。
平たく言っても9万人の人がいてくれていると思っています。
だから今、困っていることがある人を、いろいろな分野から9万人の人が助けてくれるんです。
全然大丈夫だから、いつでも図書館に来て、という気持ちです。

 

書館は知る権利を与えてくれる

憲法の中に、知る権利と学ぶ権利があるのですがそれを保証するのが図書館ということなんです。
社会には判断材料がなければ、どういう社会を構築していくかも考えていけません。
頭の中だけでは考えるには限界があるので、何かに頼って考えたり対話をしていくわけです。
その補助線や判断材料を置いているのが図書館。
テレビやラジオ、インターネットなどいろいろな媒体がありますが、紹介されている本はとても売れているものだったり、多く言われている言説だったりします。
しかし、売れていなかったり声は小さかったりしてもとても大切な、『これを忘れると社会が成り立たない』『人が育っていくに大切なこと』が実はあって、そういうものを掬い上げて図書館に置いたりしているんです。
みなさん、いろいろなメディアから情報を取っているとは思いますが、それと一緒に小さな言説や消えていきそうなものを思い出してもらい、両方を取り込んでいってほしいと思います。
図書館の役割を考えると、民主主義の取り入れと実は言われていて、ちゃんとした社会を作っていくためには一人ひとりが自分で考えて判断して、改革すべきこと、引き継いでいくべきことを人と話し合って、毎回判断していかないといけないんですね。
その社会を作っていくための機能として、図書館はとても必要だと感じています。
その使命感があるので、本当に微力ですが、図書館にいる人間として頑張らないとなと思っています。

次に借りる絵本を楽しみにしている子どもがいる。
写真集を眺めることが好きなおばあちゃんがいる。
この場所でいい本を見つけてもらえたら、それが幸せです。
いくつになってもブックスタートと考えています。
これまでその本に出会えなかったのは、その人のせいではなく、社会的なインフラができていなかったということ。
いろいろな方が本に出会っていただける仕組みを作っていきたいなと思っています。